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山田、存在感、やばくない?  作者: ねここ


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運命の出会い?


 


 朝、窓から通学路を見ると学校に向かう学生が見えた。

 

 あの日以来学校に行かなくて良くなったことで、得た開放感。


 社畜という言葉の学生バージョンはなんというのだろう?

 GPA職人? 学畜?

 呼び方はわからないが、そんな彼らとは違う人生を歩み始めた僕は実態のない勝利に浸っていた。

 

 そんな優越感に浸った数日間は幸せだった。

 世間に勝ったような気がしていたからだ。


 このまま平穏な毎日を過ごせる。

 安定した心を保つことができる。


 けれど不思議なことに毎朝ヘッドフォンをつけ音楽を聴く習慣はそのままだ。


 一人を感じないように聞いていた音楽は、今は親からの言葉を遮断するツールとなった。


 『人間、一人では生きられない』


 両親はそう言って話し出す。それはわかる。


『ゆっくり休んだら協調性を持つように一緒に頑張ろう』

 

 協調性? その言葉に反発が生まれる。

 僕は協調性のない人間のない人間なのか?

 

 それにやっと手に入れたこの安心感を二日三日で手放したくない。

 

 疲れた気持ちを整えたい。

 学校のことを忘れたい。

 毎朝母親に連絡なんてしないで欲しい。

 少し放っておいてほしい。



 そう思い過ごした一週間。

 しかし二週間を過ぎた頃、世の中から取り残された感が襲いかかる。


 毎朝窓から眺めていた学生を見るのが辛くなる。

 母親のスマホの着信音が気になり始める。

 その音を聞くたびに、忘れて欲しいと願いながらも心の片隅に安心感も芽生える。


 僕はまだ忘れられていない。

  

 こうして何もしないでいる生活は次第に苦痛に変わる。

 このまま世の中と隔離され一生こうして生きなければならないのかもしれないという漠然とした不安。

 

 息しているだけの生活は、学校に行く辛さと違う辛さがある。

 何も見たくない、聞きたくない。

 ゲーム三昧の毎日。

 全てから目を逸らし、朝と夜が逆転し始めた頃、両親がカウンセリングに通い始めた。

 

 それをみて、親が必死になればなるほど、追い詰められる。

 そして明らかにそこで学んだことを実践し、優しく接しながらも距離を置き始める両親の態度により一層不安を煽られる。


 喉が渇いたように心がカラカラになる感覚に耐えきれなくなる。

 爆発しそうな理由のわからない不満や怒りを抑えられなくなる。

 


 

「僕を追い詰めたのは父さんと母さんだよ!! 一体僕に何を望んでいるの!!」

 

 食事の時、いつものように『人間とは……』と話し始めた両親に耐えきれず怒りに任せ叫んだ。


 両親は僕の怒りに一瞬驚いた表情を浮かべたが、『それも全てあなたのため』と寂しそうに言った。


 その表情に唇を噛む。悲しませたくないと思っている。


 だけど一体僕はどうしたらいいの?

 僕の為と言いながら、本当は、世間体のためじゃないの?と聞きたい。


 両親の言葉さえ疑いたくなった。あの頃の優しい僕はもうどこにもいない。


 それから再び部屋に籠る生活。

 気まずくて食事の時間をずらす。

 

 だけど朝夜逆転の生活はキッパリとやめた。

 小言を言われたくないからだ。


 

 学校から離れて三週間経った頃、父親が言った。


「もう、そろそろ良いんじゃないか?」


 その言葉に息が詰まる。


 居場所のない所に戻れと?

 なんのために?

 今更?

 そこに行けばないかが変わる?


 僕は学校に行っても満たされず、家にいても満たされない。


 そして生きる目的も楽しみも何一つ見つけられない。


 どこにも居場所のない僕が唯一生きられるこの空間は、両親のものであり、僕のものじゃないんだと気がついた。


 僕は一体どうしたら良いのだろう?

 生き方がわからない。

 なんのために生きているのかわからない。


 でも、このままじゃダメだ。


 だけど相談する相手もいない。

 仕方なくAIに質問すると『自分の好きなことを見つければいい』と返事が来る。

 

 何か好きなことを見つけたらいい?

 簡単に言うけれど、その方法を教えて欲しい。

 

 AIだって好きなものを見つけた人が作ったものだろう?

 AIだって世間の意見の集約だろ?

 

 逆に、大人はどうなんだと聞きたい。


 好きなことやっているの? 毎日楽しいの?


 なんのために生きているの?


 これ以上家に籠るのも辛くなった。苦しくなった。


 突発的にここじゃないどこかに出かけようとスマホを持って外に出た。

 ほぼ一ヶ月ぶりの外出。


 意外に外の空気は澄んでいた。

 

 電車に飛び乗り街に出た時、目の前に現れたのはコスプレをした人達だった。


 大きなイベントがあるのか知らないが、沢山の人がゾロゾロと歩いている。

 

 アニメやゲームのキャラクターになりきる人。

 似ている人、似ていない人、人種も年齢も様々な人達がみなキャラクターになり切って街を歩いている。


 声をかけられ写真を撮られている人、お互いにスマホを向け合う人、生配信している人。

 

 その全てが自由で輝いて見えた。


 自分じゃない自分になれる。


 そんな異世界に心を奪われた。


 そんな中でロボットや甲冑のコスプレをしている集団が目に入った。

 本物に見えたその衣装に興味が湧き思い切って近づく。


 何でできているんだろう?

 どうやって作っているんだろう?

 どんな人が中にいるんだろう?


 僕は無意識にヘッドフォンを外していた。


「興味あるの?」


 突然声をかけられた。

 心臓が波打つ。声をかけられたことに緊張と戸惑いが体を硬くさせる。


 だが、その人の声は優しい。


 勇気を出して聞いてみようと声を出した。


「あ、あの、初めて見ました。す、すごいですね。これはどうやって作って、あ、何で作っているんですか?」


 思わず声が上擦った。

 ここ数週間まともに話をしていなからだと心の中で言い訳を言う。


「触ってみる?」


 そう言いながら甲冑を指差すコスプレイヤーに戸惑いながら頷き手を伸ばす。


「あ! 柔らかい!! 見た目は鉄に見えるけど、柔らかいんですね!!」


 想像と違う感触に驚きの声をあげる。

 一見金属に見えるこの甲冑はとても柔らかかった。


「コスボードとかサンペルカって言う柔らかい素材を使っているんだ。本物に見えるように何度も色を重ねて工夫しているんだよ。コスプレとか興味あるの?」


 その言葉にハッとした。



 興味、今、興味を持った。


 

 全く知らない世界、だけどカッコいい。

 こんな僕に話しかけてくれたこの人はコスプレを脱いでも同じ人格なのだろうか?


 全く違う自分を演じられる場所。

 顔を見せなくてもいい。

 そのキャラクターのような人格として認められる異世界。


「あ、あの、僕、今、たった今興味を持ちました。僕でも、作れるでしょうか?」


 バカみたいなことを言ってしまったと心が冷える。

 そんなこと、この人には関係ないのに、そう気がついて気まずくなり顔が赤くなるのを感じた。


「大歓迎! 興味持ってくれて嬉しいよ。俺、こうみえて三十八のおっさんだけど、SNSやってるからフォローしてよ。DMで相談とか乗るよ!」


「あ、はい! 僕山田と言います。僕十七歳で、あの、よ、よろしくお願いします!!」


  *


 僕が出会った甲冑のコスプレイヤー、通称ナベさんはロボコスと呼ばれる有名なコスプレイヤーだった。


 ガワと呼ばれるコスプレイヤーは全身を甲冑やロボットで纏う。

 自ら作った造形物を纏っている。

 

 その芸術性の高さと細部までの美しい造り込みで圧倒的な存在感がある。


 僕は幼い頃から物作りが好きだった。

 何時間でも絵を描き続け、何時間でもモノを作り続ける。

 

 けれど、進学校に受験すると決めた時から全ての時間を勉強に捧げ、ものづくりから遠ざかり、全く何もしなくなった。


 そして今に至る。

 だけど、今日、目が覚めた。


 僕は何かを作りたい。

 夢中になれる何かをこの手で生み出したい!!


 これが僕の夢で人生で、生きる場所!!


 そう思った時に胸が熱くなり涙が滲んだ。

 何もないと持っていた僕が、生きる意味がないと思っていた僕が見つけたやってみたいこと!!


 それから僕は家に帰り今日あったことを両親に話した。

 やっと見つけた僕だけの光。生きる道。


 両親は興奮気味の僕に戸惑いながらも話を聞いてくれた。


 そして言った言葉。


「やりたいことはわかったし、応援する。でも学校はいつから行くの?」


 その無情な言葉に僕の心は奈落に落ちた。

 

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