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最強魔術師の魔力ゼロ転生  作者: アベ
第二章 異邦の勇者

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.38 貴方の全て

 異様に長いテーブルがあり、装飾された窓ガラスが並ぶ。多種多様に光り輝くその様式は聖人を彷彿とさせるが、それが誰なのか、僕にはわからない。

 目の前に置かれた簡素な食事。パンにスープとサラダ、少量の赤身肉が焼かれ、綺麗に盛り付けられている。だが何故だろう、ここまで食欲が湧かないのは。


「初めましてセージ様。お会い出来て、とても光栄に思います」


 座らされたテーブルの先、ロウソクの灯りが不規則に照らすその先に、彼女は現れた。

 冷たく深い、しかしどこか安らぎを与えるような慈愛の声に、思わず首筋に冷たいものが走る。あまりにも、()()()()()()()()


「わたくし、ラヴと申します」


「まずは同胞が貴方を傷つけたことを、深くお詫び申し上げます」


 パミストラでの襲撃の件か、それとも先の爆発の件か。“どちらとも”にとりうる謝り方だな。


「もう一人いた殿方も、治療を終え休養なさっていると聞いております」


 深々と頭を下げる彼女を見つめながら、別の想いに思考を馳せる。

 虚勢が効いたと見ていいだろうか。確認が取れていないから油断はできないが、ひとまずこの状況に集中しよう。

 頭を上げた黒いベール越しの彼女を見つめるが、表情は読めない。そのまま席に座り、しばらく沈黙が続いた。


「わたくし達の食事では、お口に合いませんか」


「僕は食事をする為にここに来た訳ではないので」


 ふっ……と、溢れるような息が彼女から聞こえた気がしたが、すぐにまた静寂が僕達を包む。


 彼女の使うナイフとフォークが食器にあたり、楽器のように一定のリズムで鳴る。時計代わりのようにカチカチと響き、人によっては居心地の良さを感じるだろうが、僕は只々――不快だ。


「何も聞かれないのですね」


 口元を拭くと同時に、食器の不協和音が止まった。


「聞いたら答えてくれるんですか」


「えぇ、勿論」


 淡々と答える様に眉を(しか)めつつも、一番の動機を彼女に投げかける。


「僕を狙う理由は?」


「端的に言うと、わたくしの“我が儘”になります」


「セージ様の存在は、この街に来た時から認知しておりました」


 その日の夜に襲撃を受けたのだから、知っているのは当然か。男爵と行動を共にし始めた時に感じた視線も、教団員のものだったし。

 我が儘という単語に引っかかりつつも、そのまま話を聞く。


「その時から想っていたのです。貴方とお話ししてみたいと」


「どうして」


 その質問に彼女は答えない。


「セージ様は、何か大切にしている存在などはございますか」


 結局答えないのかと思いつつも頭に浮かんだのは、ニューエイラにいた人達。

 パミストラのような派手さもなく、モルのような陰鬱とした空気もない。ただの普通の街で――僕の帰るべき場所。


「……いる」


「同じです。わたくしにとってその存在とは、願いの元となる『思想』であり、他者を愛しむ『想い』であり、人たらしめる『記憶』なのです」


「人間は脆く弱い。弱いから魔力を持たない者を虐げ、社会の形が歪になる」


「そんな形を――人が作り出した歪みを変えたい。だから我々は、人間を新たな形へと進化を促すべき、そう考えております」


 彼女にとってのそれが、僕にとってのニューエイラの人達というのは理解した。だが、


「それがどうして僕を狙う理由になるんだ」


 肝心な部分を濁して話されてる気分だ。

 グラスに入っている赤い飲み物を口に含み、しばらくすると彼女は答えた。


「“我が儘”と言いましたね。それが全てです」


「貴方という存在を初めて認知した時、その大切な存在とは別の、しかし同等以上のものが心の中に生まれました」


「決して無視はできない、大きく広がる波紋のような感情。魔力を持たず、ここまで強く聡明な方がいるという、この高揚感」


 何が……言いたいんだ。


「セージ様、わたくしは――」


 全身に力が入る。



「貴方の全てがほしいのです」



 感情の機微すら感じさせず、そう言うと決まっていたかのような抑揚のない声色。

 あまりに突拍子の無い言葉に、喉元の力が緩み声が漏れ出す。


「僕の、全て……?」


「はい。貴方の爪先から血の一滴に至るまでのその全てを、わたくしの物にしたい」


「貴方という存在を()で、手元に置き、奮起する理由としたいのです。魔力を持たずともこれほどまでに強くなれると、皆の希望の光に」


 物のような言い方。

 なら何故、教団員を使ってわざわざ僕を襲ったんだ?僕と話したい、大切にしている物と同等と言いつつ、僕の生死は関係ないような行動の数々。いずれにせよ――


「悪いが貴方の物になることはない。僕が一緒にいたいと思う人は、もう決まってる」


 サルビアの陽に負けないほど輝く笑顔が脳裏によぎり、思わず口元が緩む。

 気づいたらその場で立ち上がっていた。


「貴女達と敵対するつもりはない。探している人を見つけたら、すぐに地下都市から出ていく」


 それに良い情報も手に入った。このラヴという女性、魔力は持っているがパミストラを覆い尽くすほどの強大な魔力を持っている人物ではない。


 入り口へと歩みを進める。残り十数メートルというところで、一人の人影が目の前に立ち光を遮った。僕をここまで連れてきた、あの男だ。


「そういうわけには参りません」


 振り向き彼女の方へと視線を送る。


「まだ何かあるんですか」


「セージ様、取引を致しましょう」


「断る」


「貴方の探している人物を見つけて差し上げます。その代わりに」


「――っ!」


 有無を言わさない男の右拳が左腕へと衝撃を加え、数メートル後退させられる。咄嗟にガードしたものの、骨を軋ませる打撃が軽い痺れと痙攣と共に身体を襲う。



「わたくしの物になりなさい」



 さっきの会話ではついぞ無かった、声の低さと情。他を利用しようとする傲慢さ、少しだけ彼女の本性が見えてきた。


「ゴルト、彼を私の前に連れてきなさい。()()()()()()()()()()()()()


「了解しました、ラヴ様」


 そう言うと暗闇へと姿を消したラヴ。腕の痺れが残る中、ゴルトと呼ばれた男に問う。

 

「これじゃ、あんた達が魔力を持たない僕を虐げてるみたいにならないか」


「黙れ。お前はラヴ様の願いを断った、それすなわち否定」


「会った時から鬱憤が溜まってたんだ。覚悟しろよガキ」


 聞く耳持たず。

 傷つけられた右手に力を入れ、閉じては開いてを繰り返す――力は入る。

 空気砲を男へと構え、全身に力を込め


「僕もだよ」


 辺り一体を揺らす空気砲の音が開戦の合図となった。

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