表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強魔術師の魔力ゼロ転生  作者: アベ
第二章 異邦の勇者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/40

.36 赤いリボンと指輪

 『導く小石(リードストーン)』の後を追うこと二十分。コロコロと転がり続け、止まることの無かった挙動がようやく止まる。

 石の壁を何度も打ちつけ、視線を目の前にやると、壁の先にはかなりの歳を感じさせる老人が座っていた。


「探してる人じゃないですね、やっぱり」


「どれ、そうしたらもう一度声をかけてみよう」


「気をつけてください、さっきの男の人のように済むとは限らないので」


 『リードストーン』を拾い、老人へと近づく。一瞬目が合うが、何事もなかったようにそのまま座り続ける。


「そこのお方、少しお尋ねしたいことがあるのだが」


「……上の人間かい。珍しいな」


 渋く、しゃがれた声が老人から発せられた。

 敵意は感じられないな。やつれて疲れきっているような弱々しさが目に留まる印象だ。


「あまり驚かれないのですね」


「まぁな。この歳まで生きてたら、大抵のことは驚かなくなる」


 そう言うと老人は力なく立ち上がり、自宅と思われる石小屋へと入っていく。


「わしの家だ、茶ぐらい出すぞ」


「お気遣いなく」


 さっきの人とは打って変わりだ。全員が全員、上にいる人に対して何かを思っているわけじゃないのか?まだ怪しさは残っているが……。

 男爵も同じことを思っているのか目が合う。警戒は続けるという意味を込め、その老人の家へと足を運んだ。



 足を踏み入れると、七畳ほどの小さなドーム型で中は意外と暖かい。一人で暮らすには支障はないが、誰かがいると少し手狭に感じる部屋だ。

 丸い机を挟んで、男爵と老人が向かい合って座り、僕は傍で立っていた。


「この男性を探しています。どこかで見かけたりしていたら、教えていただきたいのだが」


 老人は人物画を見つめながら、自身の伸びた顎髭を触っている。


「勿論、タダでとは言わない。それ相応の対価をお支払いしましょう」


 男爵はすかさず胸ポケットから通貨を一枚取り出し、机に置く。キラキラと輝く通貨が机に合わず、妙に不恰好だ。

 少し考えた後、老人は答えた。


「……悪いが見たことはないな。少なくとも、この辺にはいないだろう」


 嘘を言う可能性、は少ないか。お金を見せられた上で、わざわざ嘘をつくメリットはないよな。


「そうですか。ちなみに、どこか見つけやすい場所などあったら教えていただきたい」


 また黙り込む老人。その際、タンスの上に置かれた物に目がいく。やけに小綺麗に保たれており、そこだけ別の世界にあるとさえ感じさせた。


 ――赤い小さなリボンに、指輪?


 老人の手を見てみるが、指輪らしき物はしていない、となると別の人のか。

 別の考えに思考を馳せていると、


「聖堂に行ったら、何かわかるかもしれん」


「!」


 “聖堂”という単語で、一気にこちらに引き戻される。

 多分だが、聖使者教団の根城だろう。あるかもしれないと思っていたが、ここで繋がってくるのか。

 心拍が上昇し、体温が一瞬熱くなったが、呼吸を整え落ち着かせた。


「聖堂というのは、どこにあるんですか」


 動揺を悟られぬよう、平静を保ち聞く。


「なあに、道なりに進めばわかるさ」


 やっぱり嘘は言ってそうにない。どうしてここまで素直に答えてくれるんだ、この人は。


「あなたは、上から来た僕達に、なんとも思わないんですか」


「なんだい、急に」


 男爵が驚くのも無理はない、僕自身も驚いている。聞くつもりなんて無かったのに、喉が意思に反して動いてしまった。

 水の落ちる音さえ聞こえるほどの沈黙が流れ、その後ポロポロと語り出す。


「そりゃあ、わしが若かったら、こんな親切にしてなかっただろうなぁ」


「四十年前だ。娘と女房を“上の人間”に連れて行かれた。それ以来、わしは死んだように生きてる」


「何かをするには、わしは歳をとりすぎだ」


「もう、疲れたよ」


 先ほどよりも、より力なく立ち上がり、タンスの前へと歩き出す。リボンと指輪を大事そうに両手で持つ。


 カチ…カチ…


 なんの音だ?


 さっきまで聞こえなかった、何か秒針を刻むような機械的な音が――


「お前ら上の人間を恨み続けるのも、いなくなった家族を想い続けるのも」


「――!セージ君ッ!」


「え」



 ドンッ!!



 爆音と、身体を焼き尽くすような熱が、身体を蝕む。だが、それはほんの一瞬だった。何かが僕の間に入り、熱と衝撃を防いだ。


「痛っ――ルインジュディ男爵!」


 そうか、僕を庇って……!

 背中で守るように、僕に覆い被さった男爵がそこにはいた。


「やあ…無事かい…」


「どうして僕を」


「ここに来てから、良いところが無かったからね。せめて君の盾になれたらと思ってたんだ」


 掠れた声で見栄を張る男爵に、心が痛くなる。


「待っててください、今『治療丸』を――」



 ――囲まれてる。



 爆発の煙と熱で、意識が外に向けられなかったが、確実に人がいる。しかも何十人も。

 灰が空気と共に空中を伝い、思わず咳き込む。煙で染みる視界を必死に凝らす。


「お待ちしておりました、セージ様」


「聖使者教団……!」


 その声は、さも待ち望んでいたとは考えられぬほど、冷徹で機械的な声だった。

 老人はこいつらの仲間だったのか。なぜ、僕達の居場所を突き止められた。早く男爵の傷を手当てしないと――


「随分と焦っているようですね」


 教団員の男と思われる人物が、僕に問いかける。哀れなものを見捨てるような、侮蔑の視線。

 煙が晴れ、周りには同じ黒服、同じ表情で薄ら笑う人間がこの惨状を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ