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最強魔術師の魔力ゼロ転生  作者: アベ
第二章 異邦の勇者

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.35 羨望のような嬉々とした目

「とうとう着いたね、地下都市モル」


 トンネルを歩くこと約二十分。薄暗い道をようやく抜けた先に、住居らしき建物と人が通れる道を発見した。

 男爵が感嘆の声で呟くのも無理はない。ジャックマンティス戦以降、トラップと言うにはおざなりな、嫌がらせレベルの罠がいくつも仕掛けられていた。

 あれだけ綺麗だった男爵の礼装は、今やすすと泥が付着し、見る影もない。


「今すぐにでもシャワーを浴びたいところだが、ここからが本番だからね」


「そうですね、早いところ探しましょう」


 あちこちに無数に点在している住居。見たところ石と土で作られているが、かなり頑丈そうだ。

 だが、パミストラの建物と比べると、技術に圧倒的な差があるのは明白だった。


「天井、かなりくり抜かれてますね」


「私たちが降りてきた分くらいは、あるのかな?」


 暗くてよく見えないが、奥行きはかなりある。どうやってあそこまで広げたのか。

 石の道を歩いていると、ここで初めて人を発見した。座っていて、遠目からだと服というより布を被っている感じだが、大丈夫だろうか。


「人いますね、どうします」


「んー、ここは私に任せてくれ」


 いつもの道を歩くように優雅に歩く様は、良くも悪くもこの人の強さだと、この時ふと思う。その後をついていくと、


 ――な、なんだこの臭い。


 人に近づくにつれ感じる死臭のような香り。思わず眉間に皺が寄る。

 もしかして、死んでいたりするのか。

 そんな臭いなど気にしないと言わんばかりに、男爵はその人に聞いた。


「もし、そこのお方。少しお尋ねしたいことがあるのだが、いいだろうか」


「……」


 男の人か、死んでいるわけじゃないようだ。

 だが、男爵の問いには答えない。


「この人物画の男性なんだが、彼を探していてね。何か情報を貰えれば、それ相応の対価を――」


「おい」


 低く、それでいて暗い声が男爵の言葉を遮った。


「あんたら()()人間だろ」


「人に上も下もないだろう。少なくとも、今こうして私とあなたは対等に話している」


「そう綺麗事言う奴ァ、始めから上にいる人間が言う言葉なんだよ」


 明らかな敵意。

 自分でも無意識のうちに、『一人でに動く紐(オートロープ)』に手をかけていることに気づいた。


「消えな、俺がアンタらを殺す前に」


「……失礼する」


 男の人の前を横切る時、目が合った。教団の女と少し似ている全てを拒絶する目、だが少しだけ違う。どこか羨望というか、喜んでいるようにも見えた。



 男の人から離れた場所で、僕達は腰を落ち着かせた。石のイスのようなものに座るがほぼ石で、ヒンヤリと冷たく座り心地はあまり良くない。


「いやぁ、派手に嫌われてしまっているね私達」


 あれ以降人とは会っていない。パミストラよりも人口が多いはずなのに、ここまで一人しか会わないということはつまり、


「避けられてますね、かなり露骨に」


「やはりそう思うかい?あー、これだと私の作戦が水の泡になってしまうな」


 作戦、人探しの方法か。


「ルインジュディ男爵は、どうやって人物画の人を探そうとしているんですか」


「ん、そう言えば言ってなかったね」


 男爵は胸ポケットを弄り、ある小袋を取り出した。


「これさ」


「これ、通貨ですね」


 しかもかなりの額だ……そうか、そういうことか。


「お金を使って、情報を聞き出そうとしていたと」


「立派な方法だろ?私なりに持っている物を使ったまでさ」


 妥当ではあるが、地下都市にいる人達が予想以上に僕達を避けているのが計算外だった。今の状態では聞き込みはあまり意味がないだろう。


「まぁ、君も理解していると思うが、私の作戦は望み薄だ。君の魔術道具頼りになってしまうね」


 魔術道具を改造しておいて正解だったな。

 僕もポケットに入っている魔術道具を取り出した。


魔術道具(マジックアイテム)導く小石(リードストーン)


 手のひらに収まる、一見ただの小さな小石。


「言っておくんですがこれ、多分その人物画の人を見つけるのは無理です」


「え」


 石に刻まれているダイヤルを変える。性別、年齢、魔力の有無の項目がある。


「特定の人物を探す魔術には、何かしらの情報がいるんです。髪とか皮膚とか」


「『リードストーン』は、その情報を大雑把にまとめて、近しい人間を探すことしかできない。例えば……」


 性別男、年齢は十代、魔力無しっと。

 目の前に『リードストーン』を放り投げた。地面と衝突し、カランと軽い音を鳴らした後、その場で止まった。

 しばらくすると、グラグラと動き揺れ始め、糸を引かれたおもちゃのように、僕の足元まで転がってくる。


「こういう感じです」


「そういう仕様か。それでも、私の方法よりかは確実性があるね」


 『リードストーン』を拾い上げ、男爵に手渡す。

 何千、何万人といるこの地下都市で、一発で見つけられるとは思えない。


「結局のところ、この道具で見つけた人に聞くことになると思います。なので」


「私の作戦も“まだ”生きている、そう言いたいんだろ?」


 ニヤリと笑う彼に頷く。

 この地下都市のことは、やっぱりここに住んでいる人の方が良く知っているし、ここにいる人から聞いた方が確証が出やすいはずだ。

 ダイヤルを動かし終え、男爵は軽く放り投げた。続く道にカタカタと転がり、その後を追う。


「それじゃあ、気を引き締めて頑張っていこう」


 明るい声でそういう男爵に軽く苦笑するが、地下都市に来た時とは別で、足取りは重くない。

 着実に近づいている、あの強大な魔力を持つ者に。

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