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最強魔術師の魔力ゼロ転生  作者: アベ
第二章 異邦の勇者

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31/40

.30 魅惑の声が示すもの

 出された料理はどれも薄味で、旨味がほとんど無い味付けだったが、そんなことは全く気にならないほど、今この食事が楽しい。


「ラヴさんはそのぉ、好きな食べ物とかあるんすか」


「『カモフ・ラゼ』が大変美味で、幼少の頃より好んで食べております」


 どこの料理かわからないけど、食べてる姿も美しい。でも、食べる時もベールを外してくれないのは、何か理由があるのかな。


 料理を一通り食べ終え、ラヴさんはワインのような赤い飲み物で口直しをしている。俺には赤い飲み物は出されず、代わりに白い飲み物が出てきた。

 匂いは無いな。味は……甘じょっぱい。出された料理より味濃いし、普通に美味しいな。

 飲みやすく、ゴクゴクと喉を通していると、あっという間に飲み干してしまった。


「お食事も済みましたし、そろそろユウマ様の置かれている状況、これらをお話し致しましょう」


「あ、お願いします」


 ラヴさんの声が少し、低くなった。


「ユウマ様は、私達の魔術によってこの地に召喚されました。この場所は既に、ユウマ様の居た地ではありません」


 それって、つまり――


「異世界召喚ってこと!?」


 あ、しまった。つい叫んでしまった。

 ラヴさんが、ベール越しからでも分かるほどキョトンとしている。


「す、すいません」


 でも、そうか。確かによく考えてみれば、謎のヒビに触れて瞬間移動、かと思ったら急な勇者呼びに頭に響く声。全部、異世界召喚テンプレートそのままだ。

 ヒビを見つけた時に感じた、“自分を変えられる予感”というのは、こういうことだったのだろうか。


「ふふっ」


「?」


 ラヴさんの口元が艶然(えんぜん)と上がり、その口を魅入るように見つめてしまう。


「おかしな人」



 ――ドクッ



 あー、これはもう、駄目なやつだ。恋の過程とか全部すっ飛ばした気がする。


「お話を続けても?」


「はい」


 なんだか、頭がクラっとするな。部屋の温度が上がったのか、心なしか身体も熱い。でも、ラヴさんの話はちゃんと聞かないと。


「ユウマ様を召喚した理由は主に二つ」


 ん?指の輪郭がぼやけて、よく見えない。

 白く細長い指が、数字の()を形作っている。


「一つ目は、勇者として我々を導き、地上にいる者達と対峙して欲しいこと」


 地上…?確か、そんな言葉どこかで聞いたような…どこだっけ。というかあれ、なんか視界が…ラヴさんが二人?いる…なんで、


「そして、二つ目は――」


 あ、無理。ラヴ、さん……。

 急激な眠気と意識の混濁で、ラヴさんの話を聞き終わる前に、俺は死んだように気を失った。



 寝る前に、瞼を閉じると見る光景があった。網膜にこびりついて離れない、あの時の母の顔。でも何故か、今は思い出せない。


「優馬君の成績ですと、少し厳しいかと」


 ――なんだ、これ。


 短髪で眼鏡をかけた男が、俺ではない誰かにそう伝えている。隣には、外用の装いをしている母親がいるが、顔だけが黒く塗りつぶされたみたいになっていて見えない。


 あーこれ、中学の頃の三者面談か。


 高校の進路を決める大事な面談だった。学年全体で見ても、成績は別に悪くない。でも、母さんが求めている高校には、全然足りていなかった。


「優馬君の成績なら、こう言った高校などあります」


 提示されたのは、平凡な男女共学の高校。


「   」


 母が何か言っている。けど、聞こえない。

 担任が少し困ったような表情で話しているが、音量が消されたテレビのように、会話が聞こえない。


「優馬君は、どうしたい?」

 

 担任が聞いてくる。なんて答えたんだっけ。どうあれ肯定しなかったのは確かだ。

 ここでしっかり、「この高校に行きたい」と言っていたら、少しは変わっていたのだろうか。



 なんだか、背中が痛い。安物のベットでも、もう少し柔らかいし寝やすい気が……。


「はっ!」


 急いで身体を起こした。辺りを見渡すと、五畳ほどの狭い部屋に、一通りの家具が揃えられている。

 どこだ、ここ。確かラヴさんと楽しく食事してたはずだけど、なんかよく思い出せないな。

 寝ぼけた頭で出した結論は、


「ま、いっか」


 忘れるってことは、そんな重要なことじゃないってことだろうしな、うん。それにしてもラヴさん、綺麗だったなぁ。

 そんなことを考えながら、一人でくねくねと動いていると、ドアが開けられ、見知った顔がその身を出した。


「お目覚めですか、勇者様」


「貴方は……」


 確か、食事の場所まで案内してくれた男の人。


「グランハムと言います。今後、勇者様のお世話をさせていただく事になりました」


「え」


 どうせお世話されるなら、ラヴさんが良かったのにな。あと、この人体格が良いからちょっと怖いんだよ、百八十センチはあるんじゃないか。

 律儀にお辞儀をしているグランハムさんに内心悪態を突きつつ、


「よ、よろしくお願いします」

 

 と伝えた。

 この人がいると、妙に部屋が狭く感じるな。


「それでは勇者様、こちらへ」


 グランハムさんは入り口を開け、手招いた。

 どこかに行くのだろうか、もしやまた食事、お腹は膨れているから勘弁してほしいところだが。

 手招かれた通りに部屋を後にした。


「そういえば、俺どれくらい寝てました?」


「ほんの小一時間ほどです。私が運び、あそこで寝かせていました」


「あ、それは、どうも」


 気まずい。「俺の手を煩わせやがって」みたいな物言いに聞こえる。

 グランハムさんの後ろを着いていく。幸いにも顔が見えないので、顔色を伺うことはなさそうだ。

 黄土色の街灯が少し足元を照らす、薄暗い洞窟を歩くこと十数分。目的地と思われる場所に到着した。


「あれ、ここって」


「はい。勇者様が召喚された場所です」


 数時間振りに戻ってきたその場所は、蜘蛛の子が散った後のように、誰一人としていなくなっていた。

 なんだろうな……なんとなく違和感が、


「ここでお待ちください、勇者様」


「え、あ、はい」


 そそくさとその場を離れていくグランハムさん。目視で確認できる人物は、俺一人だけ。

 しかし、こうも静かで広い空間に一人でいると、世界に俺一人だけになったみたいだな。案外、悪い気分じゃなかったりして。


(ユウマ様、聞こえていますか)


「!」


 この頭を溶かすような心地よい声は――


「ラヴさん!どこかにいるんですか?」


 周囲を見渡しても誰もいない。俺の声だけが、虚しく洞窟を反響させる。


(魔術を使って、ユウマ様の頭に直接話しかけております)


 あー、そういえば最初来た時もこんな感じだった。

 ラヴさんに会えないということが分かり、大きく肩を落とす。


(ユウマ様とのお食事、大変楽しゅうございました。次は是非、ユウマ様の身の上話をお聞かせください)


「ほ、ほんとですか!」


 次もある、次もラヴさんと会える。

 会えると思っただけでこんなにも心が揺れ動くなんて。しかも、俺のことを知りたがってる様子。

 動悸が、全力で走った時のように早く動く。


(その前に、ユウマ様には、“とあること”をして貰いたいのです)


 “とあること”とはなんぞや、と思考していると、グランハムさんが二人の男女を連れて戻ってきた。


(今、グランハムが二人の信徒を連れて来たと思います。彼らと共に、魔物討伐へと向かってほしいのです)


「異世界っぽいイベントキタァ!」


 また、叫んでしまった。

 洞窟に冷たい静寂が流れる。三人の視線が痛い。


「す、すいません」


 何度やれば気が済むんだ、しっかりしろ俺。ラヴさんみたいに笑ってくれるとは限らないんだぞ。

 グランハムさんが「コホンッ」と咳払いをし、空気が元に戻った。


「勇者様、私とこちらの二人が、今回魔物討伐のお供をさせていただきます」


「よろしくどうぞ」


「……」


 男の方は髭が特徴的だな、クルンってなってる。女の方は無愛想だ、無口タイプかな。でも大丈夫、俺はアニメとラノベに触れてるから理解はあるよ。


「よろしくお願いします」


 二人に軽くお辞儀をする。


(それではユウマ様、また後でお会いしましょう)


「はい、また後で!」


 誰もいない天に向かって力を込めた拳を挙げた。

 今ならなんだって出来るぞ。なにせ、この後ラヴさんとまた会えるからな。魔物だろうが悪魔だろうが、どっからでもかかって来い。


「それでは、行きましょう」


 グランハムさん先導の元、魔物討伐へと向かう。

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