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最強魔術師の魔力ゼロ転生  作者: アベ
第二章 異邦の勇者

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30/40

.29 自己紹介

 どうやったら、画面の向こうにいる“君”に会えるのかな。いっそのこと飛び降りとか……いや、そんな勇気があったら、()()()()()になってないか。

 カタカタと、タイピングの音が暗い寝室にこだまする。


「あ、萌林檎さんログインしてる」


 この時間にインしてるの珍しいな。社会人じゃなかったっけ?時間は……っと午前二時、まだそんな時間か。

 そろそろ腹の虫が鳴り出してくる頃。周りに食べ物が無いか、ガサゴソと探していると、


「あ」


 高校の、パンフレット。

 表紙には、「明るい高校生活」と大きく書かれ、四人の在校生が俺を見て、嘲笑うかのような笑顔で写っている。


「……ハァ」


「…ハァ…ハァ」


 ――苦しい。


 誰かに首を絞められてるみたいだ。

 ただのパンフレットに、何こんな息荒げてんだ。


 ――バサッ


 汚い物を投げ捨てるように、紙の束は壁へとぶつかる。震えはまだ、止まらない。


「飯、買いに行こ」


 寝ている両親を起こさず、音を殺し家を出る。夏前だからか夜風は妙に冷たい。パーカーだけじゃ、少し物足りない。


 牛丼は昨日食ったから、コンビニでいっか。

 毎日変わらない道、似たり寄ったりな時間、多くない目的地。なのに不思議と、飽きは来ない。

 いつも通りの――


「何あれ?」


 目線の先に、小さな()()がある。誰かが黒板を傷つけたような、そんなヒビが宙に浮いている。

 目の錯覚?光が反射してどうのこうの〜的な。てか他の人、こんな時間にいるわけ無いか。


 無意識のうちに、ヒビは目と鼻の先、手を伸ばせば触れられる距離まで近づいてしまった。


「マジで浮いてる……」


 ヒビの中、近くでよく見てみるとキラキラと輝いて、まるで小さな宇宙みたいだ。

 そうだ、スマホ。写真撮ってみれば何か分かるかも。


「あれ?写らない」


 そこにあるのに、レンズ越しに見えるのは、いつもの見慣れた道だけ。

 ついでに軽く調べてみたが、それらしい情報は見つからなかった。


 ――少しだけ、触ってみるか?


 脳裏によぎる好奇心。


「いやいや」


 危ないだろ、どう考えても。人間に害のある物だったらどうするんだ。

 触れないように横を通り、コンビニへと歩みを進める。


 今日萌林檎さんいるなら、新しいランク帯目指せるな。新武器練習してるって言ってたし、昼までコース確定だ。そしたら、


 ……なんで、こんなに足が重いんだ。

 

 後ろ髪を引っ張られているみたいに、歩きづらい。振り返ると、ヒビはまだ、そこにあった。


 危ないとか、常識的に考えてとかじゃない。そんなの、ただの言い訳だ。

 ヒビは依然、寂しそうに宙に浮く。


「変わりたいんだ、俺は」


 これを見た時、なんでかわからないけど、駄目な自分を変えられるんじゃないかって思えた。

 その気持ちからは、逃げたくない。だから――


 指先がヒビに触れる。ひんやりと冷たい。


「――っ」


 眩っ…しい、光が…。

 優しくも棘のある光が、身体を包み込んだ。



 なんだかカビ臭い、というか埃っぽいな。さっきまでとは明らかに空気が違う。もう目、開けて大丈夫そうか?

 ゆっくりと瞼を開け、光を取り込むと、


「ちょ、な、にこれ」


 ボロ布?――いや、人だ。拝んでる人が沢山いる。百とか二百、それ以上いるかも。というか視点が高い、どこに立ってるんだ俺。

 下を見ると、祭壇のような石の上にいることがわかった。


「な、何すか、これ。ドッキリ?」


 妙に声が響く。洞窟っぽいが、明かりが少なくてよくわからない。それに、所々人が暮らしてある形跡が見える。


「あ、あのー」


「……!」


 やっと気づいてくれる人がいた。みんな下向いてるからこっちに気づいてくれな――


「勇者さまだ」


「はい?」


 何言ってるんだこの人。

 その言葉を皮切りに、下を向いていた人達が続々と顔を上げ、皆の視線を一身に浴びる。


「勇者さまが復活したぞォォ!!」


 誰かが叫んだ。悲鳴にも似た、歓喜を含んだ声。


「上にいる奴らに鉄槌を!」

「勇者さまっ…私の娘が上の人間にっ…」

「我々に安寧をもたらしください」


 ――何なんだよこの人達ッ!


 あっという間に取り囲まれた。

 登っては来れないようだけど、さっきから足が掴まれて身動きが取れない。


「ちょっと、ズボン引っ張るな!俺は勇者じゃないって!」


 クッソ……この人数と声で全く耳に入ってない。ゾンビみたいに次から次へと、



(皆さん、落ち着きなさい)



「え?」


 頭の中に、直接声が響く。女の人の声だ、何で。

 聞き間違いかと思ったが、声が聞こえた瞬間、群がってた人の動きが嘘みたいに止まった。


(彼を聖堂へ案内します。順路を作りなさい)


「嘘、だろ」


 さっきまでの、砂糖に群がる蟻のような乱雑さは無くなり、統率の取れた一つの生物みたいに、道を開け作りやがった。夢でも見てるのか。


(勇者様、どうぞお進み下さい)


 進めって言われても、大丈夫なのか。ナチュラルにこの声の人も勇者呼びだし。


(聖堂に来られたら、置かれている状況を全て、お話ししましょう)


「マジか」


 石の下を覗くと、地面との距離が想像以上にあり、足がもたつく。二メートル近くある高さの祭壇からゆっくりと慎重に降りる。

 道を開けている人達は、じっと見つめてくるだけで、襲ってはこなかった。


 視線が痛いし、居心地も悪い。自ずと足は早く回る。

 聖堂へと向かう頃には、この変な状況にも少し、慣れ始めてた。



「でっかいな〜」


 十分ほど歩き、聖堂を最初に見た時の感想は、「丸くて大きい」これにつきた。

 こういう、丸い聖堂のことなんて言うんだっけ。ピザなんちゃら建築とかって授業で習った気が、


「お待ちしておりました、勇者様」


 大きな扉が開き、出迎えてくれたのは、黒い服を着た男性だった。

 頭で聞こえていた声は女性だったから、てっきり女の人が来ると期待してたのに、残念。


「どうぞ中へ、お食事をご用意してあります」


 言われてみれば、微かに香ばしい匂いが。そういえばご飯、食べそびれてたな。

 匂いに釣られるように、男性の背中についていった。


 映画とかで見るお城みたいに、もっと豪勢な内装を想像してたけど、案外庶民的。

 家具や寝具と見られる道具に、体育館みたいな大きな運動場?もある。だが、豊かに感じないないのは何故だろうか。

 

 よく見るとこの聖堂、少しボロいというか、整備が行き届いてない感じだ。所々老朽化の跡が見える。

 それと……。


「こんにちは、勇者様」


「こ、こんにちは〜」


 なんでここにいる人、全く同じ黒色の服着てるんだ、普通に怖い。

 引き攣った笑顔で、本日五回目の挨拶を交わす。


「着きました勇者様。どうぞお座りください」


「おぉ〜」


 長いテーブルに少ない椅子。アニメとかでよく見るヤツだ。

 一番端の席へ誘導され、従うまま座る。目の前には白いスープとサラダ、パンと少しの肉が並べられ、当然のようにお腹が鳴る。


 もう食べて良いのか。でも、向かい側にも料理並べられてるし、待った方が良いのだろうか。



「勇者様」



 頭に流れてきた、女の人の声だ。声の主は、向かいの席奥からゆっくりとその姿を現す。


 黒いレースベールで目元は隠されているが、真っ白い肌、吸い込まれるような黒い口紅が、妖艶さを出している。


「綺麗だ……」


 心臓が、ドクドクと身体に血液を巡らせる。

 思わず溢れた言葉が聞こえていたのか彼女は、「ふふっ」とお淑やかに口元を隠し、笑ってみせた。


「そう言って頂けて、嬉しいです」


 もっと、声が聞きたい。笑顔を、ベール越しの素顔を見たい。


「まずは、自己紹介でも致しましょう、勇者様」


 座って向かい合い、彼女は言った。

 椅子に座る所作ですら、無駄が無く美しい。


「あ、あの!俺、斉藤優馬(サイトウユウマ)って言います。その、こんな綺麗な人初めて見たっていうか、なんていうか」


「ユウマ様、とても素敵なお名前ですね」


 テンパって自分で何言ってるかわからないけど、名前呼び、ありがとございます。


「えっと、貴方は……」


 ハーブのような、安らかな声色で、彼女は言った。


「わたくし、ラヴと申します」

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