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最強魔術師の魔力ゼロ転生  作者: アベ
第二章 異邦の勇者

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29/40

.28 無敵

 女との距離は約十五メートル。依然動きを見せず、開いた瞳孔でじっとこちらを見続ける。

 三十秒にも満たない睨み合いの末、先に動いたのは――僕の方だった。


「『圧縮空気砲(エアキャノン)』!」


 狙ったのは本人ではなく、その足元。先ほどよりも濃い煙が、女の周りを取り囲む。


 視界は奪った。ここから――

 足先に力を入れ、『高速移動靴(ハイスピード)』で加速した。肌を突き刺すような、一瞬の風を身に受けながら、一歩目で煙の前まで跳躍し、視界一面が灰色になる。


 煙を回り込むように、二歩目を外側へと踏み出す。

 女にとっての側面位置。ここまで、一秒足らず。


 そのまま腰を捻り、未だ煙の中にいる女に向けた最大火力のハイキックを、


「『高速移動靴/蹴(ハイスピード)』ッ!」


 後頭部へと繰り出した。



 蹴りと同時に煙が晴れ、視界がクリアになる。

 ハイキックは後頭部を捉えていたが……。


「くそっ」


 女は全く微動だにしていなかった。瞬き一つ、まぶたの揺れすら感じない。先の空気砲と同様、ダメージが入っている様子が、全くない。


 なんだ、この異常なまでの硬さッ――


 触れて初めてわかる、人を蹴った感触がしない。そしてなにより、()()()。触れてる足先が、つま先から凍るみたいに、体温を奪われていく。


 足を離し、体勢を整えようとした時、


「!」


 女と目が合った。黒い泥を連想させる、深い闇。吸い込まれるとはまた違う、拒絶の(まなこ)。その目を見て、一瞬だけ身体が岩のように固まった。

 恐怖、いや違う。


「――熱ッ」


 足を掴まれ、ミシミシと音が鳴る。だが、痛みよりもまず、彼女の手のひらの熱さに意識が向いた。


 その後、およそ女性の腕力とは思えない力で僕を持ち上げ、まるで棒切れを投げるかのように、片手で壁へと投げ飛ばした。


「ぐッ!」


 受け身は、なんとか取れた。けど……。

 壁には大きなクレーターが出来ていた。背中に電流が走ったような痛みが流れるが、それより問題なのは足だ。


 ――掴まれてた右足の感覚が無い。


 ドクドクと心臓が脈打ち、聴覚を遮る。

 心臓の音がうるさい、落ち着け。無闇に突撃したのは失敗だった。だが、得たものもある。


 あの無敵には何か弱点がある。そうでないと、わざわざ男達を使って攻撃を仕掛けてきた意味がない。

 常時発動――だったら、逃げ道を探さないと。


 片足に重心を乗せ、立ち上がる。


 少しでも時間が欲しい。魔術を解析する時間、それとあと一つ、何か突破口を開けるピースが一つあれば。口を動かせ、時間を稼げ。


「勧誘にしては、随分と強引すぎないか?僕の生死はどうでも良いって感じだな」


「そもそも、入る気のない人間を入れて、統率が取れるとは思えないけど」


 女はいずれも反応しない。小声でぶつぶつと言ってるが、遠くて聞こえない。もう会話できる状態じゃないか。


 ――ふと、男達が言っていた言葉を思い出す。


「ラヴって人、そんなに凄い人じゃないな」


「――!」


 食いついた。あんなに拒絶していたのに、“ラヴ”って単語には反応するようだ。


「だってそうだろ。魔力の無い僕を捉えようとして、出来てないんだから」


「…マ…」


「そんなのがトップにいるなら、聖使者教団も存外怖くないか――」


「ダァマァレェェェェッ!!!」


 女の叫び声が、心臓の鼓動よりも大きな音で鼓膜を貫き、反射的に耳を塞ぐ。

 この街に来てから、一番大きな音だッ!


「あの人は、あぁ、あの人は、私にっ、居場所と力をくれたっ……」


 涙を流すほど、心酔しているのか。

 人をここまで心酔させる人間に目をつけられたと思うと、血の気が引く。


「許さない、ラヴ様を侮辱するカスは許さない、許さない」


 壊れた機械のように同じセリフを繰り返す。

 時間は十分稼げた。後は、


「許さないッ――!」


「っ!」


 僅か一歩の跳躍で、二十メートルはある距離を詰められる。瞬く間に視界が埋まり、身体を横に逸らす事しか出来なかった。

 女が勢いよく壁と衝突し、その衝撃に吹き飛ばされる。


 速さも尋常じゃない、次は避けれるか――

 

「なっ……」


 女が衝突し、触れたであろう壁が、ドロドロに溶けていた。拳大の穴が空いており、息を切らして佇んでいる。

 そんな中、僅かに当たる光が彼女を照らす。


 ――頬の擦り傷、あれはなんだ?


 いつ出来たものだ?空気砲や蹴りで出来たものじゃない。自傷、はしていない。何かもっと、無作為にできたような……。

 この戦いで得た情報が順々に頭を駆け巡り、少しずつピースがはまっていく。


 そうか、わかった。


 倒れた体勢のまま、空気砲を女へと向ける。息切れも治り、鋭くなった視線と目が合う。


 ズドンッ!

 

 空気砲は女に命中したが、勿論ダメージは無い。彫刻のように佇んで動きはない。

 そのまま一定の間隔で空気砲を当て続け、その間に立ち上がる。


 やはりそうか、その無敵、()()()()()()()()()()発動出来ない。

 空気砲の反動が骨身に染み、筋肉が強張っていくが、止めずに撃ち続ける。


 そして、無敵を使ってる間、お前の体温はどんどん下がっていく。触れた時、人間の体温を感じられなかったのが証拠だ。


「あぁ…あ"ぁ!」


 十発撃ったところで、空気砲の魔力が切れ、攻撃が止まる。女はまるで、極寒の中にいるように震え、歯をガチガチと鳴らす。


「ラ、ラヴ様ァァァ!」


 両の手のひらをこちらに向け跳躍し、触れられる寸でのところで、勢いを殺すように手を掴んだ。


「熱ッ――!」


 熱い、痛い。グローブ越しから手が溶けていく。肉が焼けような焦げ臭さが鼻をつく。

 下がった体温を戻すための熱の魔術。だが――

 


「!?」


 『高速移動靴(ハイスピード)』の風により、僕と女はほんの数秒、宙に浮く。浮遊感が身体を占めるが、手の力だけは緩めない。


「無敵と熱、二つの魔術は一つじゃない。熱を使ってる最中は」


 宙に浮いてるから、片足でも関係ない。


「無敵は使えないッ!」


「がはっ!」


 ――入った。


 加速された膝蹴りが女の顎を捉えた。先ほどまで感じられなかった人の感触が、膝の痺れと共に伝わる。


 空中でバランスを崩し、地面に倒れ込む形で着地した。


「……気絶してるな」


 顔を確認すると、白目を向いて、顎の部分が少し腫れてる。


「終わった」


 今頃、痛みがどんどん悪化してきた。手と足、ちゃんとついてるよな。男達の様子は、


 ――こんな星、綺麗だったのか。


 力の抜けた身体で見る夜空は、いつかの青空を彷彿とさせ、痛みと達成感が心を満たしている。

 身体は痛いはずなのに、妙に心地いい。しばらくこのまま寝転がってても良いか。



 男二人と女一人をまとめて『オートロープ』で縛り、身体に巻き付け路地裏を出ようとしているのだが、


「重い……」


 片足しか使えないし、手は火傷でボロボロ。なんとか壁に寄りかかりながら来てはいるものの、人目を避けて、奥まで来すぎたな。


 息が上がり、汗が肌を何度も伝う。

 

 三人とも気絶しているのが幸いした。暴れられでもしたら、引きずるのすら出来なかった。


 二十分による移動の末、ようやく出口の明かりが見えてくる。


 あと、少し……あと少し。


 鉛のように重い身体に、最後の力を振り絞り、一歩ずつ歩く。やがて景色が近づき遂に――


「着い、たぁぁ……」


 人目を気にせず地面に倒れ込み、踏みならされた地面へと汗が落ちる。

 何人かの視線を感じるが、今は気にしない。もう、このまま寝たい。


「おや、君は」


 目を閉じようとした時、この街で聴き馴染んだ声が僕に向けられ、身体を起こし声の方へと振り返る。


「ルインジュディ男爵……」


「そんなにボロボロになってどうしたんだい?どれ、よく見せて――」


「待ってください」


 近づこうとする男爵を少し強めに止めた。

 おかしい、明らかにタイミングが良すぎる。偶然なんてものじゃない。


「どうして、ここにいるんですか」


「そこが私の宿舎だからね」

 

 指を差した場所には、一際大きく豪勢な建物が建っており、いかにも貴族御用達という雰囲気を醸し出していた。


「夜の散歩は私の日課なんだ。街に来る度、こうして歩き回っているのさ」


 散歩や日課は、今は重要じゃない。何故、今このタイミングで、鉢合わせることが出来たのかが重要なんだ。どこかで監視していたとしか思えない。


「それよりも、私は君の方が気になるな」


「いえ、お気になさらず」


 もしかして、教団と繋がりがある?断定はできないが、この三人を近づけるわけにはいかない。

 指一本動かすのも激痛が走る身体を、無理やり立たせ気丈に振る舞う。


「それでは、また明日」


 背を向け歩く。

 とにかく、どこかで休める所を探して、この三人から情報を


「――っ!」


 首筋に電流を感じたと同時、動かしていた身体から力が抜け、その場に倒れた。


 ――急に、力、が……


 視界がどんどんとぼやけていき、次第に暗くなる。男爵のブーツが目の前にあるように見えたが、確認する力もなく、暗い沼の底へと沈んだ。

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