表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強魔術師の魔力ゼロ転生  作者: アベ
第二章 異邦の勇者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/40

.26 とある噂

 僕のことを“従者”と言ってきた謎の男は、毅然とした面持ちで細い兵隊と相対する。自信と確信を前面に出したその立ち姿は、気品が身体から滲み出ているようだ。


「ル、ルインジュディ男爵ッ……!」


 目を泳がせた兵隊は、謎の男の名を言った。

 男爵……貴族様か、初めて見た。どうりで立ち姿や振る舞いに品があったわけだ。


「私と、それから彼。この街に入るための手続き、お願いしても良いかな?」


 隣に立ち、皮手袋で覆われた手が、僕の肩にポンっと置かれる。反射的に身体がグローブに触れ、いつでも空気砲を撃てる体勢へと移す。


「大丈夫、君と敵対するつもりはない。ここは私に任せてくれ」


 警戒心が悟られたのか、男は兵隊に聞こえないよう、僕の耳元で囁く。吐息があたり、耳がムズムズと不快感が襲う。

 チラリ、と男の方を見ると、白い歯が見える爽やかな笑顔で、また微笑む。


 嘘は言ってなさそうだが警戒は続けさせてもらう。

 グローブには手をかけつつ、身体を一歩後ろへと後退させる。

 男の後ろに立ち、着飾れた背中を眺める。何故だかわからないが、男の背中がやけに大きく見えた。



 男は慣れた手つきで、あっという間に入場の手続きを済ませた。兵隊も早く終わらせたいという思いが顔に出ており、子供のように機敏に動く。

 僕一人では堅く閉ざされていた入り口は、魔術の起動音と共にその姿を見せる。


 トンネルの形状。その少し先の景色が、街の様子を部分的に映し出し、自然と身体に熱を帯びていく。

 動き出しそうな足を必死に抑え、その場凌ぎの“従者”として行動する。


「ようこそパミストラへ、ルインジュディ男爵、並びに従者様」


 さっきとは別人じゃないか。

 

「それでは、行こうか」


「はい」


 “従者”の立ち振る舞いがよくわからないから、とりあえず男の二歩後ろを、目線を落として歩く。

 兵隊が頭を下げているその横を通る際、「チッ」と何か擦るような音が聞こえた。


 短いトンネルに、男のブーツと僕の靴の音がコツ…コツ…と反響し、小さかった景色がゆっくりと大きくなる。一瞬光が視界を遮り、思わず手で隠す――


「凄い……こんなに魔術が発展してるとは」


 開けた視界で見る景色に、僕は感嘆の声を漏らした。



 地上と空中を繋ぐ無数のパイプ、アレはなんだろう。あの建物、空中を飛んでいる。人が、逆さまの道を歩いてるのか。揚げ物のような香ばしいこの匂いは一体……。

 こんな景色ニューエイラはおろか、前世の記憶ですら見たことがない。


「私も、初めてこの街に来た時は、君のように目を輝かせたものだ」


 その声で我に返り、いつの間にか歩いていた足を止めた。声の主人は、黄金色の瞳で真っ直ぐと僕を見つめる。


「あなたの目的は、なんなんですか」


「急だね。まだお互い自己紹介すらしてないじゃないか」


 探り合うのはあまり得意じゃない。男爵という地位を持ちながら、僕に声をかけてきた理由は何か。

 男は顎に手を当て、「うーん」と考える。


()()言えないな」


「どうして、僕に声を?」

 

「そうだなぁ、人助け四割、興味三割、打算三割ってところかな」


 返答が全て的を得ない。信用していた訳ではないが、何かしら話してくれると、勝手に想像してしまった。この男の行動や言葉がそうさせたのか。


「立ち話も何だし、良かったら食事でもどうかな?大丈夫、とって食べたりはしないよ」


 手をパンと叩き、髪の毛を揺らす。その後、近くのパイプを指差した。

 これ以上無闇に借りは作りたくない。だが助けられた手前、行かざるを得ない。

 考えに考え抜いた結果――


「わかりました」


 僕は男の提案に了承した。



 男が指を差したパイプ、あれは高速で移動出来る装置だった。入った瞬間、吸い込まれる感覚と浮遊感、この街を縦横無尽に駆け巡り、ものの数分で料理屋へと到着した。


「ここの卵料理、絶品だよ〜!」


 目を輝かせながら男は言う。卵と果物の芳醇な香りと香辛料のスパイスが鼻をつく。空腹のお腹には刺激が強い。

 それから僕達は、コテージでテーブルを挟んで腰を落ち着かせた。外の景色を眺めてみたが、建物が空中に浮いてるからか、人の顔までは見えない。


「さて、そしたら自己紹介でもしようか」


 男がグラスを置き、喋り出す。


「私はルインジュディ。ここの地主ではないけど、男爵だ。ここには……まぁ色々用があってね」


 一瞬言い淀んだのを、僕は聞き逃さなかった。


「僕はセージって言います。実は旅をしていて、この街に寄ったと言う感じです」


「へぇ、まだ若そうなのに旅なんて凄いね。じゃあ、他の街に行ったりしたの?」


「いえ、実はこの街が初めてで――」


 嘘はついていない。ただ、()()話してもいない。僕がこの街に来た目的、それは魔王を倒す仲間を見つけること。

 半年前、とある噂がニューエイラで流れた。魔術都市パミストラにて、


 ――異邦の勇者が召喚された、と。


 眉唾で殆ど誰も信じていなかった。僕も正直、本当か怪しいと思っていたが、これだけ魔術が発展しているなら、あり得るかもしれない。


 ただで食事の提案を了承したわけではない。男爵がこの街に来慣れているなら、色々と情報を持っているはずだ。


 二十分ほど雑談していると、頼んでいた卵料理が届いた。お肉をふわふわの卵で閉じ、特製の甘い果汁ソースをかけた逸品。

 とりあえず、今はこの料理を食べて腹ごしらえだ。お腹の虫も鳴っていることだし、情報を聞き出すのは、食べ終わってからでも良いだろう。



 料理を食べ終え、コップの水が喉を通り潤す。

 さて、どう聞けば良いか。

 僕が質問を考えていると、男爵は「ふふっ」と何故か笑う。


「いや、よほどここの料理が気に入ってくれたのかな」


「え……そう、ですね。とても美味しかったです」


 連れてきて良かったと言いたげな、安堵の表情に変わる。グラスの果実酒を手で転がしながら、口に運ぶ。


「私の目的が気になっている様子だね」


 全てを見透かすような金色の眼光に、指がピクりと動く。

 お見通し、というわけか。


「良いよ。ご飯も食べて、落ち着いたからね」


 持っているグラスを嗜みつつ、「どこから話そうか」と呟き、男爵は語る。


「実はね、君と兵隊のやり取りを、一部始終見させてもらってた」


「驚いたよ。魔力の無い君が、あんな強そうな兵隊を一瞬で倒しちゃうなんて」


 そう言う割には、表情に一切の変化はない。グラスに入っている果実酒を、遠い目で見つめている。


「君の強さを見て思った。この子に私の()()()を協力してほしいなって」


「人探し?」


 僕を助けた理由の、打算三割。そう言うことか。


「勿論手伝ってくれたら報酬は出すよ。それに、君を助けたのは私の勝手だ。断ってくれても構わない」


 断っても良い……か。この人は、どこまで僕の性根を理解しているのか。会って間もないと言うのに、“断るような人間ではない”と見透かされている物言いだ。


「探してる人はどういう人ですか」


「おや、協力してくれるのかい?」


 分かりきったような笑顔をしながらも、一枚の小さな人物画を取り出す。描かれていた人物は、男爵とは歳の離れた年配の男性だった。


「この人は?」


「私の友人でね。もう長い間連絡が取れずに、消息がわからなくなっている」


 男爵が三十代近いとすると、この人物画の男性は六十歳くらいの年齢に見える。貴族と言えばそう見えるが、どちらかと言うと着飾った一般人のような印象だ。


「どこにいるか、検討はついてるんですか」


「一応ね。そこは、君のように強い者がいた方が、私としては心強い」


 遠回しに言っているが、危険な場所にいると言うことだろう。場所は分かってるのに探さないとは、つまりそういうこと。

 コップの水を飲もうとするが、無いことに気づく。表面に水滴が付いており、氷がコロンッと音を奏でた。


「わかりました。その人探し協力します」


「ありがとう、そう言ってもらえて助かるよ」


 仲間探しは少し遅れが出てしまうが、貴族との人脈は持っていて損はないはず。それに、勇者とは言わなくとも、強い者を見つけられる可能性もある。


「では、アテをつけている場所なんだが……」


 男爵は指でテーブルをコンコンと二回叩く。


「【地下都市・モル】だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ