.22 あれから……〜age 13 〜
「え、サルビアまだセージに気持ち伝えてなかったの」
「……うん」
イバラさん、二年前のおもちゃの件以来、気兼ねなく話す仲になって、今では私にとって、かけがえなのない友達だ。
そんな彼女に、いつものように相談事をしていたけど、そんなに驚くこと……なのかな。
「てっきり、伝えてるのかと思ってたよ」
「なんなら付き合ってると思ってたし」と冗談混じりに言われて、顔が熱くなってくる。
セージ君は、多分、私のことをそういう風に見てはいないと思う。それに……。
「わからないの……セージ君への気持ちが」
この気持ちが『好き』なのかわからない。付き合うっていうのも、何をするのかわかってない。だって、私はセージ君に助けられて、今ここにいるんだから。
セージ君と対等じゃない私は、付き合うことなんてとても――
「サルビアー?なんか、またいっぱい考えこんでない?悪い癖だよ、それ」
「あ!ご、ごめん」
セージ君のことになると、どうしてこんなに胸がいっぱいになるんだろう。色々なことを考えるのは、セージ君のことが好き……だから?
「うーん、じゃあこの教室の中で、一番気になる男子は誰?」
「……セージ君」
「じゃあ、二人だけで遊びに行きたい男子は?」
「……セージ、君」
「なら、もう答えは出てるんじゃない」
「で、でも、これは……!」
少しでも、恩を返したくて。ずっと、助けられてばかりだから、少しでも。
「……」
なんて言ったら良いのか、わからなくなる。
「サルビアがセージに助けられたのは聞いたよ。恩を感じてて、それを返したいっていうのもわかってる」
イバラさん、私のことよく理解してくれてる。
嬉しいな。
「はぁ、しょうがないなサルビア」
イバラさんはそう言うと、立ち上がって、教室の後ろの方へ行ってしまった。向かう先にいる人は、セージ君?
セージ君とイバラさんが、何か話をしてる。セージ君、私と話してる時より楽しそう。なんだか、モヤモヤする。二人が話してるところ、あんまり見てられないかも。
「お待たせって、なんでそんな方向見てるの」
「う、ううん……!何でもない」
ずっと、机ばかり見ちゃってた。何してるんだ私。
「実は今、セージをとあるイベントに誘ってたんだ」
「とある、イベント?」
「『ニューエイラ記念式典』って知ってる?」
ニューエイラ記念式典……そう言えば、ママとパパがそんなこと言ってた気がするけど、何をするのか聞いてなかった。
「な、名前だけ……」
「ま、簡単に言うとお祭りだね。ニューエイラ全土でやるらしい」
「それに私とサルビア、それからセージの三人で一緒に行こうって、今誘ってきた」
「そう、だったんだ」
だからあんなに楽しそう、だったのかな。お祭り行ったことないから、なんだかドキドキするな。
「サルビア」
「な、何?」
イバラさんの緑色の瞳が、私を真っ直ぐと見つめる。私、このイバラさんの瞳が好き。宝石みたいに綺麗で、可愛い。
「この校舎を卒業するまで残り二年。うかうかは、してられないからね」
そうか……もう二年しかないのか。セージ君は、この校舎を卒業したら、何をするんだろう。
「気持ちはちゃんと伝えれる内に、ね?」
「うん……わかった」
このお祭りで、気持ちを伝えよう。上手く伝えられるかわからないけど、伝えてみよう。
ニューエイラ記念式典、当日。いつもよりカラフルな装飾と、見たことのないお店の数々、美味しそうな匂いが心を躍らせる。
お祭りって、こんな雰囲気なんだ。二人とも、もう来てるかな。
待ち合わせの噴水前まで行くと、いつもと変わらない見慣れた顔の人が。
「セージ君、お待たせ……ごめん待たせちゃって」
「サルビア、全然待ってないよ」
予定時間の15分前だけど、セージ君いつから来てたのかな。もしかして、私と同じで、楽しみで早く来ちゃったのかな。それだったら、良いな。
「サルビア、その服」
「えっ!あ、いや、可愛いなって思って……」
昨日、ママと一緒に選んだ花柄のワンピース。腕を出してるから、ちょっと恥ずかしいけど……。
「うん、とても似合ってるよ」
「あ、ありが、とう……」
セージ君がそう言ってくれると、胸が温かくなる。この服を着てきて、良かった。
「それじゃあ、行こうか」
「え、イバラさんは……?」
まだ来てない、よね?周りを見ても、やっぱりまだいない。
「聞いてない?今日、用事で来れなくなったんだって」
そう、だったの?じゃあ、今日はセージ君と、ふ、二人ってこと……!?
「あっちに気になるお店があるんだ、行ってみよ」
「う、うん!」
急に二人って思うと緊張するけど、前はよく二人で出かけてたし、多分大丈夫。
――気持ちはちゃんと伝えれる内に、ね?
頭の中で、イバラさんの声が聞こえる。もしかして、気を使ってくれたの、かな。
でも、うん、大丈夫だよイバラさん。今日、ちゃんと伝えるんだ。
色々なお店を、セージ君と見て回った。果物の甘い飴を食べたり、ボールで的当てをしたり、魔術道具分解選手権とか出たり、あっという間に時間が過ぎて、気づけば夜になっていた。
楽しかった、けど、なんだろう。セージ君の様子がいつもと違うような……気のせいかもしれないけど、なんだか焦ってるような、そんな気がする。
「サルビア、あの上のベンチ空いてるから、ちょっと休憩しよう」
ベンチに座って景色を見てみると、思わず心が跳ね上がる。
お昼の時はわからなかったけど、夜になるとこんなに綺麗な街になるんだ。カラフルな光がキラキラとして、なんだか見ているとホッとする。
「き、今日、楽しかったね」
「そうだね」
「そうだ、コレ。魔術道具分解選手権の景品のぬいぐるみ、あげるよ」
「あ、ありがとう!」
なんの動物だろう?オリジナルのキャラクターなのかな?
そうだ、私も渡したいものが。
「セ、セージ君!私も、コレ」
「これは、サルビアもぬいぐるみを?」
「う、うん……」
セージ君をイメージして作ったんだけど、少し形が変になっちゃった。私も、オリジナルのキャラクターということにしておこう。
「ははっ、ありがとう。大切にするよ」
「私も、大切にするね!」
お昼はお店を回るのが楽しくてつい忘れてしまったけど、まだ、気持ちを伝えられてない。今伝えよう、とりあえず、なんて言ったら、いや正直に――
セージ君の街を見る目が、とても悲しそうに見えた。
多分、一度も見たことのない顔。表情は泣いてないのに、涙を流しているような……。
「セージ君、何かあったの?」
考えていたら、いつの間にか口が動いてた。伝えたい気持ちはあるけど……でも今はそれよりも。
セージ君はかなり驚いていたけど、また、いつもの優しい表情に戻っていた。
「ううん、何でもない。これから先の事を、少し考えてたんだ」
「これから、先……?」
「僕、校舎を卒業したら、この街を出ようと思ってるんだ」
心臓が、大きく跳ねる。景色を見た時よりも、さらに大きな激しさで、ドキドキと。
自分の心音で、他の音、よく聞き取れない。セージ君は、今、なんて――?
「で、出ていく……って、どういう」
苦しい。あの時、セージ君にお礼を言えなかったあの時と、同じ苦しさが、胸をいっぱいにする。
「やらなきゃいけない事があるんだ」
セージ君が、遠くに行ってしまう。もしかして、卒業したらもう、会えなくなるかも。そんなの――嫌だ。
トクッ
そうか……『好き』って、こういうことを言うんだ。セージ君と離れ離れになりたくない、恩とか気持ちとか全てまとめて、ただ、そばにいたい。
「セージ君っ!私、君のこと――」
――好き。だから離れたくない。
声が出ない。いや、止めたんだ、自分で。これはあまりにも、卑怯だ。
一方的に私の思いをぶつけて、セージ君を、困らせることになる。
「サルビア……?」
セージ君を困らせたくない、けど、やっと自分の気持ちに気づけたのに……。
自分の手の甲に、雫がポタポタと落ちた。ヒンヤリと冷たい。けど、セージ君への想いを冷ましてくれるほど、冷たくはない。
「私、セージ君と、もっと……一緒に、いたい」
涙と共に溢れた言葉。止められなかった。
「僕も、一緒にいたかったな」
ニューエイラ記念式典から数日が経った。私はあの日以来、セージ君と話はできていなかった。
「そんなことがあったんだ……」
イバラさんに一通り話したけど、気持ちを汲んでくれたのか、深くは聞いてこない。
私とセージ君の間に、ちょっとした見えない壁ができたような、そんな気がする。
「でも、気持ちには気づけたんだ」
「……うん」
気づいた方が良かったのか、気づかない方が良かったのか……。セージ君と話せなくなるなら、いっそのこと、自分の気持ちに気づかない方が、良かったんじゃ。
セージ君を見つめる。いつもと変わらない優しい顔。小さい頃、私を助けてくれたあの時と、今も全く変わらない。なのに、今はすごく遠く感じる。
心のモヤモヤは晴れたはずなのに、別の痛みが、心を支配している。いつか、セージ君のそばにいられる日は来るのかな。




