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最強魔術師の魔力ゼロ転生  作者: アベ
第一章 魔力を無くした男

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.18 意外と気が強い

 ビートルと戦闘後、傷が深かった僕は、その場から動けず地面に座り、状況の確認を行っていた。

 肉塊はドロドロと溶け落ち、魔術は無事阻止された。だが、この付近にいる人達が無事元気になったのか、それを調べるには体力が残っていなかった。


「ビートル、聞きたい事がある」


 未だ、大の字で倒れているビートルに、気になっていた事を、左腕の出血をなるべく抑えながら聞いた。


「お前のあの力、どうやって手に入れた?」


「……」


 目は閉じ、寝ているように思えたが、少し眉間に皺と、口元が(すぼ)んでいる為、聞こえている上で黙っているようだった。

 少しの沈黙の後、ヤケになったように答えた。


「お前に負けた日、声が聞こえてきたんだよ、力が欲しいかって」


「それで、ほしいって言ったら、あの魔術が使えるようになってた」


 やはり、魔王の力で間違いない。

 他に何かなかったかと聞くと「特に」とだけ返された。


「あ、でも」


「?」


「名もなき魔術師を殺せとか言ってた」


 確定だ。魔王は復活してる。それに、僕が転生している事も知っている。

 不思議と、先ほどより不安や焦りは無かった。痛みで身体と感覚が麻痺しているのもあるが、覚悟が出来ていたから、と言うのもあるだろう。


「そうか……」


 だが、復活しているなら妙だ。魔王はこの世界の住人にはお伽話程の存在。実害が無い事を意味してる。

 復活して暴れてないなんて、なにか事情があるな。


「セージ君!ビートル君!」


 黙々と思考を巡らせていると、顔色が良くなったプリケンプクス先生が、ぎこちない走りでこちらへ駆け寄った。


「お二人とも無事ですか……って、セージ君傷が!」


「僕はなんとか、ビートルも無事です」


 横目で視線を送ると、ビートルはスヤスヤと寝息を立てていた。


「セージ君すみません、君の仕事ではないと言っておきながら、こんな事になってしまって……」


「とりあえずセージ君には治癒の魔術を。ビートル君には、色々聞かなければいけませんね……」


 険しい顔でビートルを見つめる先生。子どものいたずらでは済まないレベルなのは、先生も理解していた。

 これからビートルがどういう処罰を受けるかわからないが、彼は被害者である、というのを僕は主張しようと思う。



 あれから一週間ほどが経ち、生徒や街中の人達は、以前のような活気あふれた元気な姿を取り戻した。

 先生の話によると、幸いにも死傷者は出ておらず、ビートルが壊した建物には、誰も住んでいなかったという。


 そして、事情を知るもの以外の人達は、今回の件を『集団睡眠事件』として扱い、噂で持ちきりになった。

 

 僕は今、その噂話が絶えない道を歩いている。いつも通りの、賑やかな道を。

 そんな中、少し先の方で、薄いオレンジ色の髪の、見慣れた後ろ姿を見つけ、足を早めた。


「サルビア、おはよう」


「セージ君!お、おはよう」


 サルビアはつい最近回復して、こうして二人だけで話すのは久しぶりだった。


「身体はもう大丈夫?」


「う、うん!」


 頷く彼女には、あの時のようなやつれた表情ではなく、年頃の元気な表情へ戻っていた。

 そういえばと、思いつく。


「そうだ、まだあの時のお礼言えてなかった」


「お礼?」


「うん。先生の伝言(メッセージ)。あれを教えてくれてなかったら、今頃どうなってか……」


 実際、あの時はかなり焦っていた。ポケットから石が落ちた音にすら気づかない程。

 彼女が影の立役者なのは間違いない。


「だから、ありがとう」


「そ、そんな!私の方こそ……ありがとう」


 彼女もそうだが、今回僕が事件を解決したというのは、殆どの人には知られていない。先生が解決した事になっている。

 だが、彼女は薄々気づいているだろう。


「わ、私ね……実は意識を失ってる時、またセージ君に助けられたんだ」


「意識を失ってる時?」


 彼女はポケットから、僕が以前渡した空気砲を両手で持ち、見せた。


「実は、セージ君に伝言の事伝えた後、変な声……みたいなのが聞こえてきたの」


「え」


 思わず歩いていた足を止める。寒く無いのに、やけに背中に冷たさを感じる。

 その声ってまさか。


「な、なんかね、力をあげるとか、なんとかって」


 この子にも魔王は接触してたのか……!?

 空いた口が閉じず、唖然としていると、彼女も不思議そうにこちらを見つめた。


「で、でもね!私、いらないって言ったの。その、私の力で、返したいからって……」


 魔王の誘惑を断った……七歳の女の子が。

 サルビア、意外と気が強いんだな。


「それで、なんだか苦しくなって、助けてって思ったら、このお守りがポンって」


 持っている物を大事そうに胸に抱える仕草を見て、自分がどれだけ凄い事をしたのか、この子は分かっていないだろうな、と思わせた。


「だからね、ありがとう!」


 無邪気に笑う彼女は、今この街にいるどの人よりもキラキラと輝かしい、眩しくて思わず目を逸らしてしまう。


「僕の方こそ、ありがとう」


 彼女には、助けられてばかりだ。このままじゃ恩を返せそうに無い。

 そう思いながら、僕は歩き始める。


「そういえば、あの石のことはなんで知ってたの?」


「あぁ、それは実践の授業でね――」


 校舎に着くにはまだ時間がある。ゆっくりと歩いて行こう。その間に、彼女に何かお返しできる物でもあったら、目星をつけといても良いかもしれない。

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