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最強魔術師の魔力ゼロ転生  作者: アベ
第一章 魔力を無くした男

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.17 僕に勝負を挑んで来いッ!

 俺の家は、昔から魔力を持つ家だった。父上と母上も魔力を持ち、俺も魔力を持って生まれた。


 父上の口癖は「わたし達は特別だ」と言い、母上はそれに合わせて頷く。一日に一回は、その口癖と行動を目にしていた。


 そんなある日、父上と母上がよく顔を出している集会に、俺も行くことになった。

 誇らしげな父上と母上を見て、俺も嬉しかったのを覚えている。


 集会に集まっている人たちは、何故か皆、同じ服を着ていて、頭から下まで全部真っ白。

 見た目は気持ち悪かったが、道を通るたびにペコペコと頭を下げられて、気分は悪くなかった。


「君が、ビートル君だね」


 父上と母上に連れられて来た場所には、道にいた奴らとは違う、何か特別な扱いを受けているジジイが座っていて、父上と母上は何故かそいつに頭を下げて、お願いしている。


「うんうん、そうかそうか」


 隣に座っている女達をベタベタと触りながら、何がわかったのか、俺に一言、こう伝えた。


「素晴らしい、君は神にも選ばれた子だ」


 なんでだろう。今あったばかりの爺さんの言葉に、なんでこんな嬉しく思うんだ。こいつ、神様の使いとかなのか?


 そこからはよくわかんなかったけど、色んな人に身体を触られて、ご飯を食べさせられて、気付かないうちに寝ていた。


 爺さんに会ってから、生活が変わった。

 デカい家に引っ越して、なんでも指示を聞く奴ができて、父上と母上も喜んでる。 

 

 父上にある時聞いた。特別って何?って。

 父は鼻高々に「わたしやビートルのように、魔力を持って生まれた存在の事を言うんだよ」と言った。


 これか。これを、特別って言うんだ。

 魔力を持って生まれた俺は、神に選ばれた特別な人間なんだ――それなのに。



「ビートル、お前、その魔術を知ってるのか」


「あぁ!?」


 うるせぇよ。お前みたいな魔力のない奴が、俺と話してんじゃねぇよ。

 特別でもないお前が、俺の攻撃をかわしてんじゃねぇよ。


「その魔術は――」


「うるっせぇぇぇんだよ!!」


 殺したい。コイツを今すぐに、コロシタイ。どうやって、ころす?


 ――腕の形を剣みたいに変えたら良いんじゃない?


 けん、剣。あぁ、剣!そのアイデア良い!

 ……さっきの腕のやつで、うまく形、変えられない。


 ――しょうがないなぁ。君は特別だから、うちが変えてあげる。


 俺は特別!そう、俺はアイツより特別だ!


 ――そうそう。形変えてあげたから、あんな子ども、早く殺しちゃお。


 すごい、めっちゃ尖ってる。これでアイツ刺せば……ころせる。



***



 なんだ……ビートルの奴、さっきから様子がおかしい。

 一人でブツブツと何か言っているが、ここからじゃ聞き取れない。


「おい、ビートル!聞こえてるのか!」


 叫ぶが反応が無い。時間はまだ大丈夫だろうか。

 焦るのには訳があった。それは、この魔術の性質が、他の魔術とは異なっているからだ。


 思考を巡らせていると、ビートルの右腕だけ、再度ボコボコと変形を始めた。

 出来上がった形は、今のビートルと同じくらいの長さを持った剣。


「セージ!見て見て!これ、セージぶっ殺す剣ね」


 友達に自分の宝物を自慢するかのように、右腕の凶器をこちらに向け、手を振る。

 背筋が凍る。外見は(おぞ)ましい肉塊なのに、言動や行動は七歳の子ども。


「ビートル、僕の話を――」



 ザシュ



 左肩から、熱を帯びたと同時に、鋭い痛みが腕を襲い、思わず膝を落とす。

 剣の形状に変えたビートルの腕が、超高速で伸び縮み、僕の腕を傷つけた。


「っ!」


「あれぇ、狙い定まんないや、なんで」


 幸いにも、肩を少し掠っただけだったが、目に負えないあまりの速さに、冷や汗をかく。

 アイツは聞こうとしない。それでも聞かせるんだ。


「その魔術を使い続けたら、お前も死ぬぞビートル!」


 僕の大声が、広場全体へと響き渡った。


「しぬ……?」


 随分と久しぶりに、この広場に静寂が訪れた。

 ビートルは意味を理解しようとしてか、完全に動きを止めた。


「そうだ。その魔術は他のとは訳が違う、使い続ければ自分の命を削る事になる!」


 動きを止めたビートルに、喉が痛むほど叫ぶ。


「……ウソだ」


 そう呟き、またボコボコと身体を変形させようとするが、形が上手く安定出来ないのか、肉塊はボトボトと崩れ落ちていく。


「その魔術は、他人の生命力を奪う代わりに、自分の生命力も使う。使えば使うほど自分も衰弱して、最終的には――死ぬ」


 魔王はこの魔術で、人同士を争わせた。人の欲望と渇望を利用して。

 時間も少ないはず。先生に使用していたなら、数日は使ってる。子どもの身体でどこまで持つか。


「願うんだ、そんな力いらないと!そうしないとその肉は、お前の憎悪を増大させ続ける!」


「……イヤだね」


 返ってきた返答は、無情を告げるノーだった。

 口だけしか見えないその顔に、僕は何も感じとる事は出来なかった。


「これは俺が特別な証!()だってそう言ってる!お前を殺せと!」


 再びビートルの腕がウネウネと動き、触手のように複数箇所から伸び、攻撃を仕掛けてきた。

 だが、先ほどの見えないスピードではなかった。

 

 立ち上がり、ビートルへと駆ける。触手状となった腕が僕の身体を傷つけ、ジワジワと熱を感じ始めたが、止まらず走る。


「くっ!」


 細い触手の一部が、左腕を貫通する。痛みと共に、指先まで血が滴る。

 微細に動く自分のものではない肉が、ウネウネと傷口を広げようと暴れる。

 

「ビートル!お前の目的は僕に勝つ事だ、殺す事じゃないだろ!」


「殺セバ、勝ちだ」


 ロイゼを利用するほどの勝ちへの執念。そこにつけ込まれたんだ、お前は。

 足に乳酸が溜まり、少しずつ走るスピードが落ちる。だが、確実にビートルへとの距離は縮まっていく。


「声に惑わされるな、魔王なんかの力に頼るな、お前だけの力で――」


 ビートルとの距離が片腕一本分の近さになり、懐に潜り込んで真上へと右腕を構える。頭上には、肉で守られていない、ビートルの顎が露出していた。

 この距離なら、確実に。



「僕に勝負を挑んで来いッ!」



 ドンッ!



 圧縮空気砲の反動を上手く殺せず、衝撃が骨身に響き、仰向けに倒れ込んだ。

 ヒリヒリと痛む背中を感じながら、ビートルを見上げる。


 デカい肉の巨体は、少しずつ大きく揺れるメトロノームのようにグラグラと揺れ、大きな衝撃音を響かせながら倒れた。

 ズキズキと痛む身体にムチを打ちつつ、ビートルの様子を見るため立ち上がった。


 ビートルは肉に覆われた顔から、普段見せる顔へと戻っていた。肉はドロドロと溶けていき、少しずつ消滅している様子だった。

 色々と聞きたい事はある。けど、今じゃない。


「くそっ……また、負けた」


 倒れたまま口元だけを動かし、つぶやいた。

 だが、表情は柔らかく、子どもが勝負に負けて悔しがる、そんな顔をしていた。


「ビートル、僕はお前を殺そうなんて思わないよ」


 僕が殺したいのは魔王だけだ。

 子どもだって、一度や二度誰かを傷つけたいと思う事はある。そんな心を利用された。けど、ビートルは戻った。


「勝負なら、いつでも受けるから」


 魔王の誘惑に、最後は勝ったんだ。お前はちゃんと特別で、強い奴だよ。


「上から生意気に……言ってんじゃねぇ……」


 口調は先程と変わっていなかったが、憎しみや殺意が篭っていないのは明白だった。

 魔王についてもわからないし、わだかまりが解消されたわけでもない。けど、今はこれでいいと、そう思えた。

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