.15 お前は……
すげぇ……この魔術すげぇ!こんなの、最強じゃん!
この魔術があれば、あのセージに勝てる……!
「……」
いや、セージなんか相手にならない。俺は今、誰も逆らえない力を手に入れたんだ。
やっぱり俺は、神に選ばれた存在なんだ――!
「ふ、ハハッ、アッハハハハハ」
来いよセージ。俺をコケにした事、ぜってぇ許さねぇ。
必ずお前を――ぶっ殺してやる。
***
先生を楽な体勢で寝かせ、他の生徒達に視線を送った。
皆んな、さっきよりもさらに顔色が悪くなってる。このままだと、全員衰弱死してしまう。
もれなく、全員だ。
「セー……ジ、君……」
か細く弱々しい声が、僕の名前を呼んだ。
「サルビア……!」
呼んでいたのはサルビアだった。
小さな手が、力弱くこちらを指さしていた。
「大丈夫、僕がなんとか――」
駆け寄り声をかけたが、依然としてサルビアは指を刺し続けた。
意識が朦朧としているのかと思ったが、サルビアの視線は、指先の一点を見つめていた。
「先……生の、ポケット……」
「?」
先生が寝ている方へ視線を向けると、ポケットから拳大の、石のような物が落ちていた。
さっき寝かした時に落ちたのか……?魔石じゃない、なんだ?
手にとって見ると、ゴツゴツとした表面に魔術式が刻まれていた。
これは――魔術道具!魔術式は……振動?見た事が無い。
手探りで触っていると、上手く起動したのか、石が光り、魔術が発動した。
「やぁ、セージ君」
その石から、今倒れているプリケンプクス先生の声が聞こえた。
今、いや予め声を入れておいたようだ。これは先生からのメッセージだった。
「これが起動しているという事は、私は直接君に話が出来ない状況、という事だろうね」
顔は見えず、声だけだが、確かにこの石の中から先生が話している。
「この道具を君に見せるのは初めてだから言っておきますが、これは私が一方的に話せるだけの物。だから、会話はできません」
先生は、一体何故こんな物を残したんだ。
いや、なんとなく察しはついてる。
「さて、どうしてこんな物を残したか。君も薄々気付いていると思いますが、ロイゼ君の母親が目を覚ましました」
やはりそうか。サルビアはこの石がどういうものか知っていたのか?
サルビアの方を見ると、すでに目を瞑り気を失っていた。
「教えてくれて、ありがとうサルビア」
――みんなの事は、必ず僕が助けてみせる
石の方に再度意識を向け、先生の言葉に耳を傾ける。一言一句聞き逃しが無いよう、耳を澄ます。
「ロイゼ君の母親が話してくれた情報を伝えます。時間があまり無いので簡潔に」
「実は――」
「……」
そういう事か。
それじゃあ、この魔術を発動しているのは――
***
セージ君、気付いてくれたかな。ププ先生の伝言。
私も少しは、セージ君の役に立てたかな。少しでも恩返しできたら、良いな。
チカラガ、ホシイカ――
「え?……誰?」
心の中に、誰かが話しかけてくる。
チカラダ――誰ニモ負ケナイ強イチカラ
「ちから……」
チカラガアレバ、恩ヲ返セル――
セージ君には助けられてばかり……もし、私が強くなったら、セージ君の隣にいられるかな。
チカラヲ受ケ取レバ、貴様ノ願ウママ
「……」
サァ、チカラヲ受ケ取レ
「ごめんなさい」
セージ君には、沢山恩がある。でもこの恩は、私のちからで、私の気持ちを返さなきゃいけない。だから――
「ちからはいらないです」
少しずつ、ゆっくり返していこう。
ナラバ――チカラヅクデ与エルマデ
「ゔっ」
なんだか……苦しい……!頭、痛い……!
息が、出来ない――助けて――!
ボンッ!
風が、顔に……何?
……何かが、光ってる。あれってもしかして――
「セージ君がくれた、お守りだ」
あの時交換した、空気が出るおもちゃ。
そっか。また、セージ君が助けてくれたんだ。
「ありがとう、セージ君」
これに触れてると、胸が温かくなる。
今度また、お礼を言わなきゃ……それと、また……一緒に……出か……け……て……
***
校舎から外に出て、僕は街の人達を見回した。
生き倒れている者、子どもを抱えながら倒れている者、姿は違えど教室にいた生徒達と同じ状況だった。
「早くしないと……」
魔術を使用している者が何処かにいる。
この魔術の効果は絶大だが、効果範囲はそこまで広くない。何人も魔術を使っていたら危険だが、今回は恐らく一人だ。
走る足が更に速くなる。次第に呼吸が苦しくなり、鉛のように重くなった足を止めた。
落ち着け、無闇に探しても見つからない。近くにいるはずだ。
再びあたりを見回す。色、形、大きさ、どれかが似たり寄ったりな建物ばかり。
本来だったら、高い所から見渡せば目星がつけられるが、この場所にそんな大きな建物は無い。
高い場所で使っている線は薄い。室内……にいられたら、時間的に探し出すのは困難。
だが、僕だけ魔術の効果が無いという事は、何か意味があるはずだ。
目を閉じ暗くなった視界で考える。
頭の中で、文字が浮かびは消えてを繰り返す。
先生の話的に、僕に相当な恨みがある。しかも生半可なものじゃない。僕という存在自体にだ。
思考がぐるぐると周り、混ざり始めた事によって、一つの解答が導き出された。
「挑発……勝負……そうか、あそこか」
身体の向きを反転させて、校舎近くまで走る。
元々あった因縁を、更に深めてしまったあの場所に向かった。
校舎裏の広場に到着した。
あの時と変わらず、ただ広い空間がそこにはあった。だが、あの時と違うものが一つ――
「見つけたぞ」
後ろ姿の人影があった。
人影とはまだ距離があり、土埃が相まって詳しくは見えないが、この魔術を発動した本人と思われる人物がそこにいた。
「お前とここで会うのは、二回目だな」
ゆっくりと足を進めて、影に近づく。額から汗がジワリと滲む。
距離はおよそ10メートル。その場所で僕は歩みを止めた。
「正体はもう分かってるよ」
「お前はロイゼ……」
ゆっくりと人影がこちらを向く。
「じゃないな」




