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最強魔術師の魔力ゼロ転生  作者: アベ
第一章 魔力を無くした男

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.14 違和感の正体

 ロイゼの母と呼ばれる人物は、僕が寝ていた寝室の隣の部屋で、僕と同様寝かされていた。

 拘束の魔術は使われているが、スヤスヤと寝息をたて眠っている。そして何より――


「目……元に戻ってますね」


 異様ともとれたあの目。昆虫のような、別の生物を想起させる目は見られず、凛々しい女性の顔がそこにはあった。


「先生が治したんですか?」


 一緒に様子を見にきていた先生に聞く。先生は首を横に振り、経緯を話し始めた。


「いえ、私ではありません。セージ君が彼女を気絶させた後、お二人を運ぼうとした時には、既に顔が戻っていました」


「そこで、何処かで見た顔だと思い出してみたら、ロイゼ君の母親だった、というわけです」


 その後先生は、軽く一息つき、グラスに入っている飲み物をゴクリと飲んだ。

 その話を聞き、この女性が呟いていた言葉を思い出す。


 ――ロ、イ――ゼ――


 母親だったら、ロイゼの事を知っているのは当然か……

 ロイゼ失踪の手がかりを持つかもしれない唯一の人。できれば話を聞きたいところだが……


「セージ君。今日はもう遅いので、自宅まで送ります」


「え」


 意識に反して、声が出てしまった。

 先生の方を見ると、既に外出する準備が完了していた。


「でも、この人が起きたらロイゼの情報を聞かないと」


「それは私の仕事です」


 コツコツと靴の音を響かせ、先生がこちらに歩いてくる。やがて、僕に目線を合わせ、先生の手が肩に触れる。


「これ以上、君を危険に巻き込むわけにはいかない」


「でも、先生を助けられました。僕がいた方が戦えると思います」


 肩に触れていた手に、力が入った。


「……確かに、君に助けられたのは事実です。ですが、君が傷ついたのも事実です」


「それは……」

 

 言葉が出てこなかった。言いたい事はあるのに、喉がつっかえて、言葉を出させないようにしていた。


「これ以上は、君を守れないかもしれない。もし君が死んだら、私は親御さんに合わせる顔がありません」


 気がつくと、先生の手は震えていた。

 子どもの姿になって初めて、"生きづらい"、と思った。大人が誰でも、父や母のように僕の意志を尊重してくれるわけではない、とこの時分かったから。


「だから、お願いします」


 先生の琥珀色の目にも、僕と同じように強い意志が宿っている、そう見えた。


「わかりました……」


 そう、言うしかなかった。



 襲撃を受けた日、先生の言いつけ通り僕は自宅へ戻り、夜を明かした。

 帰宅後、母が叱りつけてきたが、先生が上手く言い訳をしたおかげで、お咎めは特になかった。


 その翌日、僕は校舎へと向かい歩いていた。

 最近、毎日通るこの道。サルビアとも一緒に来た事があるこの道は、食べ物や道具、どれも見たことのない物で溢れ、自然と足取りが軽やかになる。


「?」


 だが、今日はその活気が少なく感じる。心なしか一通りも少なく、僕の足音が鮮明に聞こえるくらいには、周りは静かだった。


「こんな日もあるか」


 昨日の今日で、疑心暗鬼になっているな。

 深く考える事はせず、僕の足は校舎へと歩き続けた。



「おはよう……セージ君」


 教室に向かう途中、後ろからサルビアの声が聞こえてきた。


「おはよう……サルビア?」

 

 歩いていた足を止め、振り返り挨拶をしようとしたところ、サルビアの様子が、どこかおかしかった。

 頬は少しコケ、目にはうっすらと隈ができている。明らかに、いつものサルビアじゃない。


「元気がなさそうだけど、大丈夫?」


 ぼーっと空中を見つめたまま、反応が無い。

 肩をポンっと軽く叩き、意識をこちらに向けさせる。


「あ……!ごめん、ぼーっとしてた……」


 そう言いつつも、未だに意識はこちらに向いていないように感じた。


「とりあえず、教室に行こう」


 サルビアを教室まで導きつつ、違和感を覚える。


 教室に着き扉を開けると、いつもよりどんよりと、ジメジメとした空気が蔓延していた。

 他の子達に視線をやると、サルビアと同様の症状で溢れている。


 なんだよこれ、皆んなどうしたんだ――?


 普段と様子の違う道、サルビアや他の子達のこの症状。なにか関係があるのか……?


 サルビアを席に座らせ、僕も自席へと着く。

 続々と来る子達も、皆同じように()()()()のような形で教室に入ってきた。


 ――うわの空?


 そう言えば、昨日戦ったロイゼの母親も、戦いながらうわ言を言っていた。

 疑念や違和感が、少しずつ確信へと変わっていく。


 ロイゼ以外の全ての生徒が揃ったのに、誰一人として会話せず、シーンっと静まりかえった教室は、居心地の悪い異様な空間へと変容を遂げていた。


 ガチャリ、とドアが開き先生が入ってくるが――

 昨日とは比べ物にならないほどやつれ、目の隈にくっきりと黒い影を落としていた。


「先生!?一体何が――」



 バタンッ



 大きな音を立て、目の前で倒れた。

 人が倒れたと言うのに、教室の子どもは誰一人騒がず、依然静まり返っていた。


 駆け足で先生の元へ近づき、肌に触れる。ヒンヤリと冷たく、とても人の体温とは思えなかった。

 顔色も白く、唇は青紫色に変色している……


 なんなんだ……これじゃまるで魂が抜けたような――


「あ」


 嫌な予感が身体を支配し、硬直させた。

 昔、()()()()()()同じような人達を見た事があった。


 その魔術は、人の生命力を吸い取り衰弱させ、何も身動きが出来なかった状態で、ジワジワと殺されていた。

 人類が、()()()()()、この魔術によって殺された。

 アイツが使っていた――



 ――魔王の魔術ッ!



 それしか考えられない。けど、なんで僕には魔術が効かないんだ?いや、それよりも、もしかして……



 まさか、もう、魔王は復活しているのか……?



 額から流れる汗が、地面へぽたりと流れ落ちる。

 今、この現状をどうにかしなければいけない。分かってはいても、萎縮した僕の小さな身体は、その場に立ち尽くす事しか出来なかった。

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