.12 探索チーム
「本日もロイゼ君はお休みです……」
プリケンプクス先生が、昨日に引き続き同じセリフを言う。ロイゼが休むようになってから三日が経った。
流石におかしい。先生はロイゼが休んでいる理由を話していない。心なしか、元気もどんどん無くなっている気がする。
「それでは本日は、魔術が起こした事件についてお話しします。資料の――」
授業はつつがなく行われた。だが、先生に対する不信感と違和感は拭いきれなかった。ここでも何か、言い表せないモヤのようなものを感じたけれど、それが何かわからなかった。
授業が終わり、先生の所へ行って、直接聞く事にした。途中サルビアやロイゼの取り巻きが話しかけてきたが、用事があると言って断った。
「先生、聞きたい事があります」
「おぉ、セージ君……」
授業終わりよりもさらに元気の無い先生が座っていた。明らかにやつれている。
「君が来るのはなんとなく、わかってました。ロイゼ君の件、ですよね」
「そうです……けど、大丈夫ですか?」
元気がないと思ったが、それ以前の問題な気がする。最初に会った時のフレッシュさは見る影もない。
「大丈夫ですよ。君は察しが良いから、もうわかってるかも知れませんが……」
一呼吸置き、先生が話し始める。
「実はロイゼ君、休んだ日から失踪しているんです」
「失踪……?」
「えぇ、ロイゼ君本人もですが、親御さんとも連絡がつきません」
「実は連日連夜、魔術を使って捜索しているのですが、どれも成果は無く……」
「じゃあ、それだけ疲れてるのは?」
「単純に魔術の使い過ぎですね、最近魔力が殆ど無い状態で生活しています」
トホホと先生は笑う。それにしても、やはり疲れ過ぎていないだろうか。
「セージ君は心配しなくて大丈夫です。それと、この事は他の子たちには内緒でお願いします、不安にさせたくないので……」
「……わかりました」
ロイゼには正直、良い印象はない。因縁をつけられた挙句、喧嘩のような事もした。だが――
「その代わり、条件があります」
「条件?」
「僕もロイゼの捜索、協力させてください」
助けない、という道理もない。もしかしたら、魔王を倒す力をこの先身につけるかもしれない。
戦力は多ければ多いに越した事はないんだ。
「駄目です。どういう危険があるかわかりません」
「人を探す魔術なら、夢で見たことあります」
「……」
先生が僕の入校に後押しを出したのは、前世の魔術知識を信用したからだ。交渉のカードとしては、申し分ないはず。
先生はしばらく口をつぐんだが、やれやれとも言いたげな顔をして答えた。
「良いでしょう……ただし、私と行動を共にしてもらいます。何かあったら、私が盾になりますから」
「わかりました」
こうして、ロイゼ捜索のチームが結成された。
ロイゼ捜索は、授業のない夜に行われた。昼間と違って夜は人はあまりおらず、活気付いていた時間との落差に驚いた。
「先生、どうやってロイゼを探してたんですか?」
「よく聞いてくれました!実は先生、魔術を知識的に収めてはいたんですが実戦となると中々できないもの多々あったりあまり役に立ちそうないものも覚えたりと中々――」
口早々と語る先生の目はどこか輝いていた。先生って意外と、魔術マニアだったんだな。僕の魔術知識に興味を示したのも頷ける。
でも、さっきより元気な姿が見れたのは良かった。
「というわけで、捜索に使っていた魔術なんですが、痕跡や追跡を調べる魔術、あとは分身を使った人海戦術ですね」
「なるほど」
「ただ、手がかりが無い状態だとどうも厳しくて……正直かなり困ってました」
肩を落とす先生。無理もない、ここで現状を打破できる良い魔術を教えられたら良かったんだが……
「しかし!セージ君の夢の知識で得た魔術!ロイゼ君の居場所がわかるとっておきの魔術を私に教えてください!」
「それなんですが……」
魔術師時代に使っていた魔術は、どれも戦闘に特化しているものだった。捜索や探索類の魔術は正直管轄外、特定の人間を見つける魔術はあるにはあるが……
「その、ロイゼの身体の一部とかあったりしません?爪とか、皮膚とか……じゃないと発動できなくて……」
「……」
驚愕というか、悲壮感漂うというか…… 何回か見たことある顔をしていた。ほんと、申し訳ない。
「あるわけないじゃないですか〜!」
全身の力が抜け落ちたのか、糸が切れた人形のようにその場に倒れ込んだ。少なからず希望にして、頼ってもらった側としても心苦しい。
「じゃあ夢で人を探す魔術を見たというのは…」
「捜索に協力する為にその……」
さらにうなだれる先生。人を探す魔術はある、だが発動できない魔術を交渉材料にしたんだ。嘘をついたのと同じだ。
だが、手が無いわけじゃない。
「でも先生、実は試してほしい魔術があって」
「え……?」
カランッ
……何か、軽いものが落ちる音が、暗く先が見えない道から聞こえる。先ほどまでまばらにいた人が、いつの間にか姿を消していた。
身体がジワリと寒気立つ。
「先生、夜ってこんなに人、いないんですか」
「いえ、流石に一人もいないなんて事は……」
一人もいない。恐らく、目の前から来てる人を除いて。まだ、姿は見えない。だが足を引きずるような、擦っているような音は聞こえる。
闇夜に隠れた正体が、ゆっくりと露わになっていく。
「セージ君……側を離れないでください……!」
現れ出したそれは、明らかに人と呼べる形をしていたが、一点、ただ一つだけ違う点があった。
――目が、おかしかった
目が人のそれとは全くの別物で、昆虫のような、白い部分が黒く塗りつぶされていて、飛び出し、何か別の生物を想起させる形をしていた。
「先生……アイツ、何か言ってます」
ブツブツと何か小声で喋っているが、こちらからは聞き取れない。
暗がりでよく見えなかったが、手には刃物を持っていた。装いからして、料理人?
……しは、……ない……
なんだ、なんて言ってる……?
「私はァァ悪クなイィ――!!」
バキッという音を皮切りに、重心をフラフラとさせながら猛スピードでこちらに向かってきた。
「先生!」
「分かってます!!」
『魔術・強固な縛り』!
先生の唱えた魔術によって、ソイツは手足が拘束され、そのまま引きずられるような形で転倒した。
「あ……悪くナい……ワタしは……」
モゾモゾと動きながら同じ言葉繰り返していた。明らかに錯乱している。
「貴方、急になんなんですか」
先生がソイツに話しかけるも反応は無く、同じ言葉をただ一方的に話している。
誰に話してるんだ……自分?
「セージ君、危ないので少し離れましょう」
「はい……」
離れようとした時、今まで同じ言葉しか繰り返してなかったソイツが、確かに言った。
――ロ、イ――ゼ――
「!」
ロイゼと言った。ソイツから発せられた声、間違いない。コイツ何か知ってる。振り返って確認――
ワタ、あ私わたわたしワタしはハハ悪ワルわるくククナいいいいああああ
「セージ君!」
いつの間にか腕の拘束がとれ、目の前に刃物が――
ザクッ
「っ!」
軽い衝撃と共に、地面に身体をぶつける。気づくと僕は、先生の腕の中にいた。
「先生!血が……!」
「くっ……大丈夫……少しかすっただけです」
肩から血が溢れ、先生の上着を赤黒く染めていた……僕を庇ったせいで……!
先生の腕から怪我を広げないように抜け、アイツがいる方へと身体を向ける。
「先生、その肩、魔術で治療できますか」
「え、ええ」
「なら治療を優先してください。アイツは僕が相手します」
いつの間にか足の拘束をも解き、またブツブツとうわごとを繰り返しながら立ち尽くしている。
「な……!やめなさい!危険だ!」
「もう一回私が拘束します、だから君は逃げなさい!」
握る拳に力が入る。
「またすぐに解かれます。それに、アイツはロイゼの事を知っている。一度倒してから確実に拘束して、聞き出すべきだ」
「しかし――」
「先生。僕は魔物を倒して今ここにいる。信じてください」
僕の背後から唸り声が聞こえ、しばらくすると大きなため息を吐き、先生は答えた。
「……わかりました」
「ありがとうございます」
ヤツへと一歩近づく。
「悪くナイワタシはワタシ悪くワタシ無い」
お前が何に対して言っているのかはわからないが、先生を傷つけたのは許せない。ロイゼの情報も吐いてもらうぞ。
――ポケットにある武器に手をかける
「ワタシはぁぁぁアアア!!!」
あの時の物とは一味違うぞ――!
『魔術道具・圧縮空気砲』!




