.11 幸せのお裾分け
許せねぇ……コケにしやがって……あんな、石ころ以下の奴に……
言ってたんだ。魔力を持ってるのは凄い事だって、俺は選ばれた人間なんだって…!
――素晴らしい、君は神にも選ばれた子だ
そうだ。あの人も言ってた。だから、俺は凄いんだ。それなのに……
チカラガ、ホシイカ――
「ん?何」
変な声が聞こえる。
「誰だよ!」
チカラダ――誰ニモ負ケナイ強イチカラ
誰にも……?って事は
「セージにも!?」
欲しい!アイツがいなければ、アイツさえ倒せれば、俺は特別だ!
――ナラ、クレテヤル
「!!」
からだが、熱いッ!なんだ…頭が、わ、割れる…!痛いッ!――!!
「あがッ…!あ……あ"ぁ"」
ソノチカラデ、ヤツヲ殺セ――名もなき魔術師を
***
ロイゼと決闘?してから数日が経った。あれから目立った動きはないものの、それが逆に怪しかった。だがあれで懲りてくれたのなら、それに越したことはない。
「セ、セージ君…!おはよう」
「サルビア、おはよう」
サルビアとのいざこざのようなものも無くなって良かった。前のように、まだ若干のぎこちなさはあるが、こうして挨拶を交わせるようになったのは素直に嬉しい。
「今日は実戦だよね…?セージ君は…何をするの?」
「ああ、今日はとある魔術道具の――」
こうして誰かと話していると、自分はただの子供だと錯覚する事がある。使命を忘れて、ただセージとして生きたのなら、この世界はどうなるのかと。
「はーい皆さん、席についてください」
いつものように、プリケンプクス先生が室内に入ってきたが、いつもとは違ってどこか、元気が無い様子だった。
「本日ですが、ロイゼ君がお休みとなりました」
室内がザワザワとし始めた。それもそのはず、僕とロイゼが争ったことは、先生を除く全員が知っていた。
「ロイゼ君、最近元気なかったもんね」
「やっぱりセージ君かな」
あの時、サルビアの他にも誰か見てて、それが広まったらしい。
それにしてもロイゼが休み……昨日までは体調が悪い素振りは見えなかったが。
「ロイゼ君の分まで、今日の実戦頑張りましょう!」
「「はーい!」」
気にしすぎかも知れないが、何か違和感を感じる。喉元まで届くような、黒い何か……
その違和感は残りつつも、今日という日は過ぎていった。
「サルビア、ちょっと良いかな」
「セージ君…!どうか、したの?」
「魔術道具が見たいんだけど、どこか良いところ知らないかな?サルビアここに住んでるから、分かるかなって思って」
魔術道具の分解も、少しずつだが出来るようになってきた。だが、まだ時間はかかる。そろそろ新しい武器となる魔術道具を作っておきたいと思ったのだが…僕はこの場所に詳しくない。
「うん…!うん!良いよ…!」
「それじゃあ、案内するよ…!」
「ありがとう」
サルビアとの交流も兼ねて、この【ニューエイラ】という場所を教えてもらう事になった。
【ニューエイラ】、僕の住んでる村からは少し離れているが、ここら一帯の流通や商売の基盤としている場所。生活に不便をするような事は無いが、他の都心に比べると発展が遅れているらしい。
「あら、可愛いお二人さんだね」
サルビアと歩いていると、おばさんに声をかけられた。
「こんにちは」
「ど、ど…どうも」
サルビアって、僕以外の人にもこんな感じなのか。
「あ!ちょっと待っててね!」
何かを思い出したかのように、店の中へ入っていった。一瞬だけ開いた扉の中から、甘い匂いが漂っていた。
「はい、これ二人にあげる」
扉から出てきて渡された物は、まだ温かさがあるパンだった。
「え、いいんですか?」
「いいのいいの!焼き過ぎちゃったから、食べて食べて」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうござ、ます!」
貰ったパンは程よく甘く、美味しさが詰まっていた。僕とサルビアはものの数分で食べ終えてしまった。
「おぉ〜い、お二人さん」
今度はおじいさんが声をかけてきた。
「可愛い子たちだ。そうだ、これをあげよう」
手渡された物は、シュワシュワと音が出ている飲み物だった。
「ソイダーって言うんだ、美味しいよ」
「ありがとうございます」
「あり、ありがと、ざいます!」
飲むとさっきのパンよりもさらに甘く、口の中でパチパチと弾けて、癖になる感覚だった。
それからもサルビアと歩いていると、様々な物を貰った。食べ物だけでなく、魔石やおもちゃ、魔術道具なんかも手に入った。
「ここの人たちって、色々な物をくれるんだね」
「う、うん…ここら辺は特に人が多いから…」
サルビアも貰うたび困惑していたが、嫌がっている様子はなく、物を返したりせず受け取っていた。
「ここの人たちは、その…物をあげるのは良いこと、なんだって」
「良い事?」
「うん…」
サルビアはポツポツと話し始めた。
「幸せを分ける…?みたいな、良い事があったら、物をあげて、他の人も幸せに、というか…」
「自分の幸せを、その、他の人にもわかってほしい、みたいな…パパとママが言ってて…」
言葉に詰まりつつだったが、言いたい事はよくわかった。
そうか……人の幸せを思いやれる。現代はそういう場所なんだな。
「だ、だから!」
サルビアはそう言うと、今まで貰った物の中には無い物を、僕に渡してきた。
「これは…人形?」
少しだけ、僕に似ている気がする。
「そ、その…今日実戦の時間で作ったの…まだ下手っぴだけど、」
サルビアの手がほんの少し震えていた。
「今日、セージ君と一緒に出かけられて、嬉しかったから!」
そうか、幸せのお裾分け。この人形に触れてると、なんだろうな……心がじんわりと温かくなるような、自然と人形を握る手が優しくなる。
「ありがとう。大切にするよ」
「うん…!」
僕も何か返さないと。何かないかな……これぐらいしかないか…
「そしたら、僕も。こんなものしか無くてごめんだけど…」
「これって…」
僕が渡したのは、ロイゼを転ばし続けたあの空気砲だった。
「僕も今日、楽しかった」
今度、ちゃんとした物を送らないとな。サルビアが好きな物はなんだろう。
「ありがとう…!大切にするね!」
彼女の表情に少しだけ――涙が見えた。
その粒が一層彼女を際立たせ、目が離せなかった。
「セージ君は、この場所…好き?」
不安そうに聞いてくるサルビア。優しが溢れ人に伝えられる場所、幸せを分かち合おうとする場所、そしてサルビアがいるこの場所――
「うん。好きだ」
そう言うとサルビアは笑った。陽の光に照らされた、年相応の眩しい笑顔で。
この笑顔は、忘れないようにしよう。魔王が復活しても、この笑顔は絶対に守ろう。そう心に誓った。




