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最強魔術師の魔力ゼロ転生  作者: アベ


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11/22

.10 少女の告白

 少し前に、私はかいぶつに襲われた。それまでのことはよく覚えてないけど、それからのことはよく覚えてる。

 ただひたすら、怖かった。大きな声を出して、でも怖くて、何も出来なくて。気づいたら――男の子がそばにいた。


 あの時の、あの男の子の顔を、忘れたことはない。

怖くて動けなかった私を引っ張ってくれたこと、涙を拭いてくれたこと、私は忘れない。


 足が痛くなるほど走った。男の子との約束だったから、大人の人を探した。

 走って、走って、走って、息をするのが辛くなって、でも走った。

 けど――大人の人は見つからなかった。



 その後は、ママとパパにいっぱい怒られた。怒ってたけど、二人とも泣いてた。私もいっぱい泣いた。

 そんなことがあってから、私は森に近づくことができなくなった。


 そのあとすぐ、森で男の子がボロボロになって見つかったというのを聞いた。

 胸が痛くなって、苦しくなった。助けてくれた男の子との約束を、守れなかった。


 男の子に謝りたかった、約束守れなくてごめんって。伝えたかった、助けてくれてありがとうって。

 でも、会ったらきっと嫌われる。


 いつの間にか、魔力というのが私に出てきた。髪の色も、気づかないうちに薄いオレンジ色へと変わってた。

 これなら、あの男の子にもバレないかな。


 ママとパパが知らない人と話してて、私もその人の話を聞いてた。魔術?とか専門?とかよく分からなかったけど、ママとパパが喜んでたから、私も嬉しかった。

 

 パパが森に行っても良いと言ってきた。なんで?と聞いたら、かいぶつが倒されたからと言っていた。

 倒したのは、私と同い年の子と聞いた。私を助けてくれた男の子だと思った。


 男の子が校舎に入ってくることは知ってた。だって、私が住んでる【ニューエイラ】では、男の子の噂を聞かないことはないから。

 会って話がしたかった。けど、会いたいと思うと胸が痛くなって、涙が出てきた。


 校舎に入ると、男の子がいた。助けてくれた時と変わらない顔をしていた。

 私は少し、変わってた。髪の毛とか…でも、もしかしたら、男の子が気づいて話しかけてくるかも。その時あやまろう。その時ありがとうって伝えよう。



「これ、落としたよ」


 男の子から話しかけてきた。いや、名前はもう知ってるんだ。セージ君。

 セージ君は私って気づいてるのかな?怒ってないかな?嫌ってないかな。


 あれからセージ君は、何も言ってこない。セージ君は多分、私って気づいてない。

 それなら、もう何も言わなくて良いんじゃないかな。このまま気づかれず、何もしなければ、良いんじゃないかな……



「嘘つくんじゃねーよ」


 ロイゼ君達が、セージ君に何かいっぱい言ってる。

きっと、噂のことを言われてるんだ。

 セージ君は、嘘をついてない。だって…だってセージ君は、私を助けてくれた――


 バンッ!


 気づいたら、机を叩いて立っていた。手が少しだけ痛い。けど、言わないと。


「セージ君は…そんなこと、しない」


 心臓がバクバクする。上手く、声が出せない。いっぱい、見られてる。


「な、なんだよお前!」


「そうだそうだ!」


 言いたいことがまとまらない。だけど、セージ君は嘘をつくような子じゃない。

 

「ロイゼ君は、セージ君の、何を知ってるの…?」


「はぁ!?」


 私は知ってる。セージ君の優しさを。助けてくれた、強さを。

 でも、ダメだ。涙で前が見えない。ありがとうも、ごめんねも伝えられてないのに、私は――


「ロイゼ、僕が魔物を倒した証明をしてやる。明日、校舎裏の広場である物を見せてやる」


 セージ君を庇ったつもりなのに、私が庇われた。また、セージ君に守ってもらった。何をやってるの、私は。

 


 今日、ちゃんと言おう。ここに残って、セージ君にちゃんと伝えよう。


「あの、さっきはありがとう。庇ってくれて」


 違うよ。庇ってくれたのは、セージ君だよ。今も、あの時も――

 涙がいっぱい出てくる。辛くて苦しくて、言いたいこといっぱいあるのに、声が出ない。


「ど、どうしたの?」


 もう、セージ君を困らせたくないのに。


「……さい」


「ん?」


「ごめんなさい……」


「え」


 また、私は逃げ出した。



 次の日になって、いつも通り校舎に行った。セージ君に、どんな顔をして良いか分からなかったから、なるべく見ないようにした。


 魔術の実戦があったけど、セージ君とは離れられたから、気持ちが少し落ち着いた。

 これじゃ駄目だって、わかってる。


「ロイゼ君すげー!もう魔術覚えたんだ!」


「へへ!これで今日、アイツ泣かしてやろーぜ!」


 ロイゼ君達が、またセージ君に何かするつもりだ。止めないと、でもどうやって……

 そう言えば昨日、校舎裏がとうとかって言ってた。そこに行けば、セージ君はいるかな…言わないと。



 校舎裏の広場に着いて、凄いものを見た。ロイゼ君達が、何か風?のようなもので転ばされてる。


「くっ!」


「うわっ!」


 やっぱり、セージ君は凄い。私が言わなくても、大丈夫だった。


「う……お、覚えてろよ!インチキヤロー!!」


 私も、もう帰ろう。私はセージ君のこと、助けることも出来ないんだ。


「君も来てたんだ」


 セージ君の声が、私の胸を締め付けた。あの痛みが、また心をいっぱいにした。


「あ、あの、その…」


 昔のこと、言わないと。いや、その前に昨日こと、泣いちゃったこと、あやまらないと。


「そう言えばさ、聞きたい事があったんだ」


「え?」


「昨日、どうして泣いてたの?」


 それは、私が弱くて、言いたいことが言えなくて、それで……


「あれから色々考えてさ、もし僕が何か悪い事をしたなら謝りたいと思って…」


「ち、違うよ!セージ君のせいじゃない!その、私が…」


 胸が、痛い。心が痛い。セージ君に、嫌われたくない……


「ごめんなさい……」


 また逃げ――


「待って!()()()()!」


「!……私の、名前…」


 セージ君、覚えてて、くれたんだ。


「同じ先生の授業を受けてるんだ、知ってて当然だよ」


「無理に聞くつもりは無かったんだ、ごめん。嫌だったら言わなくて良い」


 どうして、そんなに優しくしてくれるの?私のこと知ったら、きっとそんな優しくできないよ。


「それじゃあ、また明日」


 それでも、セージ君が名前を呼んでくれて、嬉しかったんだ。また、呼んでほしい。だから――


「待って!セージ君」


 今なら、伝えられると思う。


「セージ君に、伝えたいことがあるの」




 私は全部、セージ君に話した。あの時かいぶつから助けてもらったこと、大人の人を呼べなかったこと。

 涙が溢れて上手く話せない。けど、ようやく、伝えられる――


「セージ君っ……約束、守れなくてごめんっ……あの時助けてくれて…ありがとう……」


 やっと、言えた。ずっと苦しかった。ずっと胸が痛かった。泣いても泣いても、涙が止まらない。


「うん。サルビアが無事で良かったよ」


 セージ君はまた、あの時のように涙を拭いてくれた。あの時と変わらない顔で、優しく。


「嫌いに…ならないの…?」


「ならないよ」


「むしろ…仲良くなりたい」


 胸の痛みが、スッと無くなっていく。心が、軽くなる。私も、もっとセージ君と仲良くなりたい。


「そろそろ時間だ」


 話が終わった時、ようやく、セージ君を真っ直ぐ見つめることができた。


「サルビア」


「また明日」


「うん…!また明日!」


 これから色んなお話をしよう。色んなところに一緒に出かけよう。そしたら、また、私の名前を呼んでほしいな。

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