.プロローグ
手足の感覚が――今、無くなった
意識だけが宙を舞い、歪んだ視界で青空を見る。ジンジンと痛む背中、さっきまでの思い違いが、より一層身体を動かなくさせていた。
……獣の足音が聞こえる。地面を伝う振動が、身体を僅かに揺らす。きっと、アイツだ。
震えが、血が、どれだけ溢れようと、このちっぽけで小さな身体にできる事は、ただ空を見上げる事だった。
女の子は無事に、逃げられただろうか――
もし心が動かせたなら、僕の心はとうに、ここには無かっただろう。
瞼を閉じ、ゆっくりと呼吸する。息を吸うと肺が軋み、吐くと血液まで一緒に出て、思わず咽せる。
……寒い。血が流れすぎたのか、震えが止まらない。
視野も……だんだん、暗く……
これは――死だ
……
……
……駄目、だ……!
「っ!」
全身に力を込める。メキメキという音が鳴り、激痛が走るが、やめない。やめてはいけない。
ここで死んだら駄目だ……役目を、果たさないと……!
動け、動け、動け動け動け
半ばおまじないのように、自分の身体だったものを動かす。心臓が鼓動するたび、全身から血が吹き出そうになるが、堪える。
「ゔゔぅぅ」
喉が焼けるような唸り声をだしながら、なんとか身体を横向きに動かし、うつ伏せの状態になった。
「ハァ……ハァ……」
喉が熱い。肺が圧迫されて呼吸が、辛い。
けど――
僕は、死ねない――
腕を前へ出し、身体を引き寄せ、また腕を前へ。
ザサッと地面と擦られ、引きづられた跡ができていく。少しでも、アイツから離れないと
「!」
自分の呼吸とは別の、荒々しい鼻息が、背後から聞こえてくる。
コイツに対抗できる手段は、今はない。
いや、一つだけ。もう一度だけ、魔術の発動を試してみる。
……
何も、起こらない。やはりそうなのか。
この身体には――魔力が無い。
ブォォォ!
アイツの黒い雄叫びが、骨の髄まで響く。だが、もう、何も出来ない。
身体を揺らす振動を最後に、僕の意識はそこで途切れた。




