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第三話 盾を持たない理由

武器を失った者が、隊列の後ろに回る。

当然の配置だ。

誰も責めない。

数えもしない。

谷を越えた先は、開けた平地だった。

遮るものがない。

敵は遠い。

数は読める。

「盾、持ってないのか」

歩きながら、ふいに出た言葉。

「必要な距離じゃない」

即答ではなかった。

少しだけ、間があった。

「昔は?」

「持ってた」

それだけ。

隊は止まらない。

風に合わせて、進む。

敵が動く。

直線。

盾があれば、正面から受けられる距離だ。

だが、誰も構えない。

横に流れる。

斧は投げない。

短槍も出ない。

敵が踏み込んだ、その瞬間。

距離が、ずれる。

一人が下がり、

一人が横に出る。

正面が、空く。

そこに、何もない。

盾も、壁も。

ただ、踏み込めない空間が残る。

敵が止まる。

止まった瞬間、終わる。

短槍が入る。

深くはない。

十分だ。

戦いが終わったあと、

誰かがぽつりと言う。

「昔、盾を捨てろって言われたんだ」

「命令?」

「違う」

「判断だ」

それ以上、言葉は続かない。

風走り隊の教本には、

盾を捨てろとは書いていない。

ただ、こうある。

——距離が保てないなら、装備が多すぎる。

誰が書いたかは、誰も言わない。

ただ、その行は、

今も残っている。


平地を抜ける前、隊は一度だけ止まった。

珍しいことだった。

斧を失った者が、短槍を受け取る。

新品ではない。

刃こぼれのあるやつだ。

「これでいい」

誰に向けた言葉でもない。

遠くで、風が変わる。

草が同じ方向に伏せる。

「盾があれば、楽だったか?」

問いは軽い。

冗談に近い。

「楽は、距離を縮める」

答えも、重くない。

しばらく、足音だけが続く。

「昔、盾を持って前に出た奴がいた」

「どうなった」

「前に出た」

それで終わり。

誰も続きを聞かない。

斧を使う者が、短槍の重さを確かめる。

剣は、まだ触らない。

「盾を持たないのは、勇気じゃない」

誰かが言う。

「判断だ」

風走り隊では、

勇気は教えない。

判断だけが、次に残る。

隊はまた動き出す。

盾のないまま。

だが、距離は失っていない。



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