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第一話 距離を見る者

丘の稜線で、小隊は止まった。

草が短く刈られた斜面の向こうに、敵の動きがある。

投げ槍を指に掛ける者が数人。

短槍を低く構える者。

隊形は崩れず、それぞれが距離を測っている。

その中で、一人だけ、腰に下げた斧に手を置いている者がいた。

刃は小さく、柄も短い。

剣の代わりに選ばれた、投げ斧だ。

敵が斜面を登り始めた瞬間、合図はなかった。

だが小隊は同時に動く。

投げ槍が飛ぶ。

一直線に、確実に。

敵の前列が止まり、流れが詰まる。

次の瞬間、斧が投げられた。

回転は速く、低い。

盾の縁に当たり、金属音が短く鳴る。

貫きはしない。だが、構えは崩れた。

崩れた間に、短槍が踏み込む。

距離を詰めすぎない。

深追いもしない。

投げた斧が地に落ちる前に、足はすでに次の位置にある。

斧を拾う。

もう一度投げるか、振るか。

判断は一瞬で済む。

敵は散り、斜面に静けさが戻る。

投げ槍を回収する者たちの中で、斧もまた拾われる。

同じ「投げた武器」だが、使いどころは違う。

「剣は持たないのか」

声は淡々としている。

責める響きはない。

「向いていない」

それだけだった。

理由を重ねる必要はない。

誰かが短く言った。

「止める武器と、壊す武器か」

否定はされなかった。

肯定もされない。

丘の上を風が抜ける。

武器の形は違う。

だが見ているものは同じだった。

距離。

流れ。

次に起きること。

それを読む者が、風走りだ。


風は一定ではなかった。

斜面を抜ける気流が、草の向きを乱している。

隊列は広い。

密集しない。

互いの背中は見えないが、間合いは外していない。

先に動いたのは敵だった。

低く、速い。

一直線ではない。

一歩、下がる。

半歩、横に流れる。

腕が振られ、斧が飛ぶ。

弧を描き、空気を切る音だけが残った。

当たったかどうかは見ていない。

見る必要がなかった。

すでに次の距離を測っている。

敵が止まる。

足がもつれる。

その瞬間、別の方向から短槍が伸びる。

深追いはしない。

斧を投げた者は、前に出ない。

前に出るのは、斧を失っても崩れない配置の者だ。

もう一本、斧が飛ぶ。

今度は低い。

跳ねる敵の足元を狙っている。

風走り隊は、走らない。

距離が崩れた時だけ、踏み込む。

剣を抜く者はいない。

必要になってからでいい。

敵が引く。

追わない。

斧が回収される。

血の付いた刃を、無言で受け取る。

「剣、使わないんだな」

「必要な距離じゃない」

短い言葉だけが交わされる。

問いでも説明でもない。

斜面の上から、また風が変わる。

誰かが言った。

「距離を見てるやつは、生き残る」

それが教本の言葉かどうかは、誰も確かめなかった。

ただ、隊は前に進む。

同じ間合いを保ったまま。

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