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夏の日、ズボラガールを破壊する。  作者: 北岡涼平
夏の日、ズボラガールを破壊する。
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ウェイウェイ大学生(1)

 そして翌日の八月七日。火曜日。

 北海道では、一応今日が七夕ということになっている。

 どうして七月を七夕にする地域と八月を七夕とする地域があるのかは詳しくはわからないが、旧暦の七月七日を現在の暦に換算すると八月二十日に当たるかららしい。それなら二十日が七夕じゃねぇかよ、とは僕も思ったが、とにかく北海道の七夕は今日らしい。


 とまあ、そんなどうでもいい話は置いといて、僕は今カラオケサークルのメンバーとBBQ大会を満喫中。場所は滝川キャンプサイト。市街地の郊外、石狩川に流れ込むラウネ川のほとりにある温泉施設「滝川ふれ愛の里」の敷地内にあるキャンプ場だ。


 ふれ愛の里は、さらりとした肌触りのお湯の温泉が有名で、美肌効果も抜群だ。浴槽の種類も多く、気泡湯や、寝湯、露天などが楽しめる。サウナは乾式とスチームの二種類があり、選べるのも個人的にはポイントが高い。館内で醸造されるクラフトビールも人気があるみたいだが、僕はあまり酒を飲まないため、この辺のことはよくわからない。


 と、見どころの多い施設ではあるが、今回はBBQということで温泉はまたの機会に。その隣にある滝川キャンプサイトの一角を使用させていただき、僕たちは飲み物が注がれた紙コップを片手に、部長を取り囲むように集まる。


 カラオケサークルは兼部も認めているため気軽に入りやすく、今では総勢五十人余りのメンバーを抱えている。吹奏楽団や野球サークルみたいなメジャーなサークルには足元にも及ばないが、田舎町にある大学であることを考えると割と大きなサークルと言えるんじゃないだろうか。


「さて、それではみなさん準備はいいかな? それじゃ、かんぱーい‼」


 部長兼幹事のたに先輩が乾杯の音頭をとり、僕は近くにいるメンバーと適当に紙コップをぶつけ合った。


 それからは誰が言い出すでもなく自然にいくつかのグループが形成され、そのグループ単位で各々メンバー達は楽しみ始める。

 大人数サークルになると、話したことがない奴がいるのなんて当たり前で、そもそも顔すらよくわからないような奴もちらほら。BBQという性質上、そういう関わりのないメンバーと新たな関係を構築することもできなくはないが、実際に行動に移すのは出合い厨くらいなもんだ。


 余程のコミュ障でもない限り、サークルに入った時点でどこかしらのグループには属せているし、友達が少ないからといって、わざわざ勇気を振り絞ってまで新たな関係を作ろうとする奴は少ない。友達が多いいわゆる陽キャの人たちも、仲のいい身内で固まって、新たな出会いには目もくれていない。


 つまりサークルの大会とはいっても結局は、見知った友人間でこぢんまりと楽しんで終わる。

僕が属しているのは、陽でも陰でもない普通のグループ。僕だけが個人的に平均的グループと呼称しているこのグループだが、新歓のカラオケ大会でたまたま席が近くなり仲良くなった数人で構成されている。

 面白みに欠けると言われたらそれまでだが、一応サークル一の美少女・芹江美琴様を擁しているのもこのグループだ。


 たまにしか参加しないレアキャラの美琴とお近づきになろうと、美琴がいるときには陽キャグループの奴らがグイグイと関わってきたりもするから、そっちのグループにも何人か知り合いはいる。美琴には少し悪いが、カースト上位のやつらともそこそこ親しくできる美味しいポジションではあるな。


 僕たち平均的グループは、ボウルに入れられた肉をバーベキューコンロに並べていく。

 道産子たるもの、BBQはジンギスカンでしょう。

 他のみんなはタンやホルモン、ロースなどを思い思いに焼いていくなか、僕はまるで何かに取りつかれたように、ジンギスカンとカルビだけを焼く人になっていた。

結局この二つが一番美味いからな。

 肉と網とが触れあい、唾液腺に強烈な刺激を与える音色を奏でる。


「青木くんは最近何聴いてる?」


 焼いている最中、隣でオレンジジュースを飲んでいた同期の新田香音にったかのんが訊いてきた。

 新田は、大学生らしく茶色に染められた長髪を後ろでゆさゆさとさせながら微笑む。服は花柄のワンピースで、ザ・清楚系といった感じ。

 おっとりと優しそうな瞳に反して、胸の膨らみは中々なものを隠し持っている、ギャップがとても魅力的な女の子だ。


「僕は基本的にロックしか聴かないからな。ずっとウーバーが好きだったけど、最近はオーラルとか、ワニマ、アジカン、マイファスとかも割と聴いてる」


 他にも、ワンオク、バンプ、アレキ、フォーリミ、ブルエン……と挙げ始めたらキリがない。


「ロックかぁ。青木くん、ロッキンとかは行くの?」

「行きたいとは思ってる。貯金次第だけど」

「やっぱりお金だよね~、わかる。でもそっか~。私全然ロックわからないから、ちょっと聴いてみようかな」

「ハマっちゃいなよ。ロックいいよ、ほんとに」

「うーん、聴くならバックナンバーとかかな? 青木くんのおすすめは?」


 新田に訊かれ、僕は首を傾げる。好きなものを勧めるのが一番難しくて厄介なんだよな。


「最近はバクシンとか打首聴いてるけど……新田のキャラではないよなぁ。リョクシャカとかどうだ?」

「リョクシャカ?」

「緑黄色社会。結構聴きやすいと思う」

「あー、『Mela!』の!」

「そうそう」


 僕が言うと、新田はすぐに音楽アプリを開き、気になるアーティストに緑黄色社会を登録していた。さすがは音楽好き。音楽に関しては、やたらとフットワークが軽い。


 ……とまあ、このように。

 カラオケサークルの集まりである以上、音楽の話題は避けられない。僕たちが集まったら確実に誰かしらが最近のフェイバリットソングを声高々に語り出す。

 前提として、ここにいる全員がもれなく音楽好き・歌うことが好きな人達だ。

 音楽の話をすることは僕らにとって当然のことで、好きなジャンルの違いこそあれど、こうやって好きな音楽を語り合って共有できる時間は嫌いじゃない。


「新田は? 最近聴いてるアーティストは誰なんだ?」

「えっとね、TOMOOとか聴いてる! 今度武道館でライブやるらしくて、私まだライブとか行ったことないから、興味あるんだ!」

「いいじゃん武道館。でも、また遠征になるのか」


 北海道あるある。飛行機を避けて通れず、遠征が辛い。


「仕方ないとはわかっていても、やっぱり大学生だと出費辛いよねー。私の場合だとバイトもしてないし」


 飛行機代だけで往復約二~五万円。そこにチケット代約六千円、ホテル代、食費、色々考えるとバイトをしないで道外のライブ参戦は中々ハードルが高め。ライブの経験がない人からすると「サブスクで聴けるのになんでそこまでして音楽聴きに行くの?」と疑問に感じるのも無理はない。

 実際、僕も何度か淳にそう言われたりしたし。


「新田って、バイトしてなかったっけ」

「してないんだよー、これが。探したいんだけどね、そろそろ就職ってのもあるし、ここまできたらもういいかなとも思っちゃってて」


 新田は苦笑交じりに「だから興味はあるけどなかなか……」と肩をすくめる。


「まあ確かにな。でもその分、生で出会えた時の感動は凄いぞ。旅費含め、ライブにかかった費用以上のものは貰えてると思う。僕はだけど」


 初めて生のライブというものを経験した日のことを僕は今でも鮮明に覚えている。

生の音楽からしか得られない栄養は凄まじい。なんかこう、体の奥の深い所まで自分の好きな音が入り込んでくる感覚がある。


「いいこと言うじゃん、瞬! 俺もそう思う」


 いつから聞き耳を立てていたのか、僕の言葉に浅野雄大あさのゆうだいが強く頷いて、肩を叩いてきた。


 浅野について説明すると、こいつはアコースティックギターを趣味で弾いていて、僕たちによくそれを聴かせてくれる。卓球サークルと兼部しているため、カラオケサークルの方にはあまり顔は出さないが、歌は贔屓目なしにめちゃくちゃ上手い。恐らくサークル内で一番上手いんじゃないだろうか。


 浅野は口元にご飯粒をつけながら、熱く語り出した。


「いいか? 音楽は絶対直接聴くに限る! 俺たちはライブに行くことで、そのアーティストの魂を感じに行ってるんだよ。魂の乗った生の音楽はまじで人生観変わる」

「そういうものなんだ~。でも演出とか凄そうだよね!」

「ああ! 絶対に行った方がいいぞ!」

「香音、親が厳しくて高校の間はライブ行けてなかったもんね~」


 今まで楽しそうに話を聞いていた森口紗耶香もりくちさやかがそう言う。新田は「うん」と照れ臭そうに頷いた。


「もったいねー。なあ新田、今度ライブ行こうぜ。連れてくからさ」

「うん、行ってみたい!」


 ライブのノリ方とか楽しみ方教えてやる、と浅野は頼もしく胸を叩く。

 新田も目を輝かせているが、それを良く思わない視線がひとつ。


「それ、デートだろ。雄大、新田にちょっかい出すなよな。ライブの後に打ち上げとか称してちゃかり狙ってんだろ」

「げげ。違ぇってはるか! 俺は単純に新田にライブでしか味わえない感動を知ってもらいたくて……!」

「ほんとかな。新田、雄大に何かされたらすぐ言うんだよ? 話聞くから」

「わかった~」


 一条いちじょう悠は新田に優しく微笑むと、話を切り上げ、美味そうな肉を回収する浅野の口元に指を差した。


「あと、雄大ご飯粒ついてる」

「え、どこどこ?」


 一条に言われ、顔を触りながらご飯粒を探す浅野。

 でこにはないと思うぞ、さすがに。


「口元」

「え、取れた?」

「取れた取れた」

「サー!」


 それご飯粒じゃなくて卓球で点取ったときの喜び方だろ。

 いつも通り過ぎるこのやり取りに、森口が呆れ顔で「男どもってほんとバカだねー」と溢した。

 僕もこいつらと同じにしないでくれ……。


 この僕と新田、浅野、森口、一条に美琴ともう一人……皆瀬梓みなせあずさを加えた7人がおなじみのメンツで平均的グループだ。

 基本的に大学三年生の同期で固まっているグループだが、唯一梓だけが後輩で大学二年生。サークルに入った当初、なかなか周りと馴染めずに一人でいた梓を僕がこのグループに引き入れ、それからはいつメンの一人として定着している。

 しかし、ここには梓の姿が見当たらない。


「そういや梓は? 今日来てないのか?」

「あー、梓なら新しいヘッドホン買ったからパスだって」


 僕が訊くと、森口がそう教えてくれる。

 最も趣味趣向が似通っているお気に入りの後輩は今日は来ていないらしい。


「私も、BBQなんて年に数回くらいしかやらないわけだし『参加しといたら?』って言ったんだけどね。『面倒なのでいいです』ってあっさりフラれちゃった」


 森口は残念そうに言って、小皿に乗った玉ねぎを口に運ぶ。


「なんだその理由。まじで野良猫みたいだな」


 そりゃ周りにも馴染めんわけだ。しばらく網の上に残って焦げ始めている、不人気な野菜を回収しながら、僕はため息を吐く。浅野はそれを見てドレッシングを渡してくれるが、え、お前って焼き野菜にドレッシングかけんの?

 僕はそのドレッシングを浅野に返しながら、今の森口の話を考えた。


 にしても梓は潔いな。面と向かって、しかも先輩に面倒と言ってのけるメンタルは僕にはなかった。

 こいつはサークルの参加者を把握するためのLINE投票にも全然協力しないくせに、突然やって来たり、はたまたドタキャンしたりもする。

 こういう幹事にとって迷惑でしかない輩はどこのサークルにもいるのだろうか。

 あまりにも自己本位が過ぎる性格で、美琴とは対極に位置していると言える。


「しかし、あいつらしい理由だな。ヘッドホンを試したい気持ちはわかるが、わざわざサークルの集まりをブッチまでするか? 夜にやれよ、夜に」


 僕から受け取ったドレッシングを焼肉のタレと混ぜて肉につけながら、浅野が理解できない、というように言った。お前も大概理解はできない。


「まあそれが梓ちゃんの個性だから……」


 新田は苦笑しながらフォローする。

 個性と言ったら個性なのだが、それにしても迷惑な個性ではあるよな。

 あいつとは最近熱いロックバンドについて話したかったのだが、これはまたの機会になりそうだ。

 苦言を呈する浅野に、僕からも言う。


「あいつ、かなりインドア派だしな。カラオケならともかく、BBQは性に合わないんだろ。浅野だって、苦手な空気感とかあるだろ?」

「まーなー。でも俺の中ではBBQは楽しいもののイメージだからさ、そういう人もいるんだって感じ。まあなんというか正直、自己中だよな。俺はちょっとわかんねえ」


 言いたいことはわかるとしても、やはり心が納得できていないという様子。

 どちらかというと陽キャ寄りの浅野と清々しいほどのマイペースな梓だ。考え方も当然正反対だし、衝突しても仕方ないことではある。

 それでも梓は協調性がなさすぎると思うが。

 僕は頑張って育て終えたジンギスカンを満を持して小皿に取り分ける。

小皿から顔を上げると、隣で暗い表情をしていた新田と目が合った。こいつも似たようなことを思っていたみたいだな。

一条が口を開く。


「断るにしても別の言い方はあるよな。面倒ならそれでもいいけど、嘘つくなり、周りの気持ちを考えた言い方はもっと他にあったと思う。ま、馬鹿正直なのが梓ちゃんのいいところなんだけどさ」


 ぐうの音も出ない正論だな。僕も、これに尽きると思う。

全く……このままではグループから嫌われてしまうぞ。

 僕は梓に一通だけLINEを送っておいた。

すぐに既読はついて、返信が返ってくる。


あずさ『了解です。楽しみにしていますね』


 こいつは平均的グループに混ぜてやったことに恩を感じているのか、僕にだけはやたらと愛想がよく、返信も忙しいときでなければ基本的に早い。

 僕にだけ愛想をよくしたって意味はないのに。

 願わくは、僕ら全員と平等に仲良くしてほしいところだな。


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