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この学園に女はいない?

「女の人も、いるんですね」


 女人禁制のオビュリシカ王国勇者創成学園レンフィーマ・アカデミーに入学を果たした男子生徒リガッタ・ゲダール=大魔術師ライカ・ダゲレオの『妹』であるリコット・ダゲレオは、自分を案内するという女教師、ベダ・ウィルダックへついついそんな質問をした。


 なにせ、ベダは見るからに女である。身長は百八十を超えていて、さらにハイヒールを履きこなしている。そんな彼女の、豊かに揺れる胸はちょうど彼の顔の横。どうみてもベダは女人である。


 結果、恨みを込めてリコットはベダを睨んでいた。しかも、羨ましや。リガッタはレンフィーマ・アカデミーの制服の下、リコットの体形を思い出す。さらしで抑えつければあっさりと、十二分に体形が男性っぽくなる己の胸。故に、もしも半端な理由でこの女がここにいるのなら、怒りに任せて噛みつきかねない。女人禁制はどうしたのか、校則はどうしたのか、規則はどうしたのか、規則は。そう問いたい。


「いるに決まってるだろう、女ぐらい。確かに女人禁制、なんて言われてるけど、それはあくまで生徒だけだから」リガッタの視線を知ってか知らずか、彼女は快活にいう。


「本当ですか」


 リガッタは目を丸くした。早速、自分がやっと男装してこの学園に忍び込んでいることが馬鹿らしくなった。


『お姉ちゃんの権力をバカにしちゃあいけないんだなあ。大丈夫、リコットを立派なレンフィーマ・アカデミーの男子生徒に仕立ててあげよう』


「……権力があるなら、先生とかでいいじゃん」リガッタは思わず小声で毒づいた。


「でも、わたしがここで先生をやっているのは『特別』だからだよ」ふふん、とベダは鼻を鳴らす。その得意げな様子が、なんとなくリコットの神経を逆撫でした。


「特別って何ですか!」故に、リガッタは食いついた。その様子にベダは優しく微笑む。


「それは、内緒」


 彼女は悪戯っぽく微笑む。男だったらそれだけで押し通されてしまうような魅力的な笑顔だった。でもリガッタはリコットなのでそんなことはない――でも、にっこりと笑って真っ白な歯を輝かせる彼女を可愛いなー、と思う気持ちは止められない。なんということだろう、ベダ・ウィルダックとはセクシーとキュートが両立している怪物なのだ。


「そうですか。わかりました。特別なら仕方ないですね」何故か敗北感を抱え、リガッタは頷く。本当は納得などしていなかったが、多分言葉では勝てないだろう。そんな気がした。


「おや珍しい」そんなリガッタの様子を、ベダはそう評価する。リガッタには、どういう意味かはわからない。


「ほら、それにしてもいい庭園でしょ。リガッタ君のご実家とはまた、違う花がいっぱいあるんじゃないかな」


 この学園は、門から校舎までずっと庭園が広がっている。ベダはどうやら、二人の間に漂い始めた悪い雰囲気を掻き消したいようでもあった。


「そうですね。少し嗅ぎなれないです」リガッタは無意識のうちに鼻を擦った。


「その内慣れるよ。異国の草花も多いから、毎日飽きない。あ、でも、男の子に言ってもしょうがないか。この時期なんて、北国から取り寄せた花がいい具合に咲いていて、こういう時だけは日頃から女を恋しがっている君達に同意するよ」


 呆れたようにベダは言う。確かに、男だらけの学園にしては眩い庭園だった。ご婦人方なら目を輝かせるような、赤やピンク、黄色に橙色と、色彩に溢れている。


「先生以外には、いないんですか」


「いないね。残念ながら」先生は首を振った。リガッタは何となく落胆した。と、同時に、今ならあの質問が許される、とも思った。


「そうなんですね。あの、それじゃあ、呼んだらいいんじゃないですかね、例えば、女子生徒とかを」


 リガッタは唾を飲み込み、意を決して訊ねた。この質問は、性別を偽りいつ学園に殺されるかもしれないリガッタを救うはずだ。


「馬鹿だなあ。死ぬよ、その生徒」


 リガッタの勇気をベダは一撃で圧し折った。さっきまでの朗らかな雑談ムードとは打って変わって冷たい声。たったそれだけでリガッタの奥歯が勝手に鳴り出した。


「えっと、どうしてですか。呪いとかでしょうか。あ! 例えばなんですが、男子生徒に見せかけて、女子生徒をこっそり呼ぶんです。そしたら、お花のお話もきっと出来……」


「駄目だね、死ぬ。間違いなく。絶対。必ず。百パーセント。確実に」


「なんでそんなに念を押すんですか」


「理由は……それはちょっと面倒なんだけど、この学園の始まりを話さなくてはならない」


 そう言って、ベダは無感情な視線をリガッタに送る。そして、この学園の創立の所以と、かつて起き、現代にも続く因習と、悍ましい歴史の話を口にした。


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