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心の海へと帆を上げて①

 体育祭まで残り一週間。これまでの日々をダンスのみに集中してきた僕は、すでに筋肉痛も乗り越えメンバーといかに息を揃えるかまで整ってきていた。自分でも驚くくらいに上達できたのはペアの葉月さんであったり、俯瞰的に踊りを見てくれている大久保君のおかげに他ならない。喜多川もすでにいじけるそぶりもなく、踊りに集中している様子である。

 全体練習中からしばらくして、衣装係がダンス衣装を男女一人分ずつ完成したとのことで、団長の高城さんと副団長の木村さんが試着することとなった。

 衣装のテーマはワイルドアラビアン。アラビアンナイトをモチーフに青軍の「青」が全面的に押し出され、男女ともにパンツはダボっとしていて俗に言うワイドパンツである。そこに金の装飾であったり、アラベスク模様が散りばめられていて異国情緒溢れる雰囲気が漂う。

 上部については男子は裸にこちらもアラベスク模様のある丈の短いベストのようなものと黒の腰帯を身につける。女子はワンショルダーシャツを着て、こちらも腰帯を巻く衣装だ。

 木村先輩はもう少し露出したかったようだが、見せブラのようなものは流石にアウトだったらしい。

「いい感じじゃーん」とテンションの上がる木村先輩。すると、団長と一緒になって一通り踊ってみることとなった。

 結果として、候補にあったターバンの着用は見送られることとなる。男子数名がバク転なりバク宙をするため脱げるからという理由だ。女子もベールを被る予定であったがこちらも踊りづらいパートがあるため無しとなった。

 多くのメンバーが衣装を見たことでよりモチベーションが向上したようだ。意外にも僕自身、気持ちが昂っているのが感じ取れる。それは葉月さんも同様だった。

「衣装いい感じだね」

「そうだね」

「よーし。あと一週間、頑張って踊り合わせられるようになろうね」

「うん」

 この時の僕は、ダンスに誠心誠意向き合いたい気持ちと葉月さんのダンス衣装を見たいという邪な気持ちで渦巻いていた。


 迎えた体育祭本番。僕たち体育祭リーダーは早朝から学校へ赴き、体育祭の準備を進めていた。

 本番前最後のダンス練習のために衣装を着ることになり、衣装係の3年女子の先輩から衣装を渡され早速着替える。

 着替えが終わり、練習場所に戻ろうとすると、近くにいたその先輩がニヤニヤ顔でスプレーを向けてきた。

「髪、染めちゃうよー」

「えっ、僕も染めるんですか?」

「もちろん。だって君、バク転するんでしょ?だったら派手にしとかないと」

「・・・・・・しなきゃダメですか?」

「うん。団長め・い・れ・い」

 泣く泣く承諾すると、簡易スプレーで青色に染め上げられる。

 集合場所に戻り、しばらくすると、僕よりも入念に染め上げられた団長らが現れた。彼らは前日にブリーチでがっつり染め上げたらしい。副団長の近藤先輩は青色に、団長の高城先輩は更に金色のメッシュが施されていた。

 遅れて葉月さんら女性陣が衣装を着て戻ってきた。露出が多いと言われればそうではないが、やはりワンショルダーシャツが目にかかる。特に僕の目には葉月さんの姿が多く注がれる。

 その葉月さんは僕を見かけると、

「おっ、髪染めたんだね。カッコイー」

と衣装を含め僕を褒めてくれた。こうやって人に褒められると何とも言えない高揚感が芽生えてくる。

「わたしのことはどう?」

 衣装を見てくださいと言わんばかりに腕を広げ、僕に感想を聞いてくる葉月さん。

「・・・・・・似合ってるよ」

 間近にいる彼女を、あまり凝視できなかった僕はただ一言そう呟いた。遠目では見ていたが、どうにも至近距離だと恥ずかしくて見れなかった。露出が多いというわけではないのに。

「えー。それだけー?」

 正直それ(衣装)だけではなかった。普段は綺麗なストレートの髪が、今日はウェーブがかかっている。女子はそういった変化を気付いてもらいたいようだが、今はやめておこう。

 案の定、僕の感想に納得していない表情の葉月さんは何を思ったのか、ワンショルダー部分をパタパタと上下に揺らし始めた。あの時の、タンクトップの仕草と同じだ。

「ワンショルダーってちょっといやらしいよね。片方の肩丸見えだし」

「・・・・・・」

「わたし、生まれて初めて紐なしブラつけたんだよー気づいた?」

「・・・・・・何となく」

 薄々気付いてはいたが、人前でブラの話するのはやめてもらえるかな、と言いたい気持ちであったが、葉月さんのテンションに押されて言えない。というか『ブラジャー』という単語をここでは言えない。

 本当に最近の葉月さんは照れというものを忘却の彼方に置き去ったかの如く、浮ついた発言が多い気がする。これが体育祭マジックというやつなのか・・・・・・。

「気付いてたんだぁー。川端くんやらしぃー」

「気付くも何も、察するのは自然の摂理だから・・・・・・」

「出たー川端節。まあ全然いいけどぉー」

 そう言って、準備運動として軽く踊ってみせる葉月さん。やはり彼女の持つオーラというか雰囲気は魅せるものがある。

 そんな彼女とは対照的に、何やら不安な様子の喜多川。

 髪を結ばずに靡かせている葉月さんとは対照的に、彼女は髪の毛を二つの束に整えた『ツインテール』。

 言いたくはないが、葉月さんと同等かそれ以上のスタイルとオーラを兼ね備えている彼女に、内面を知らない多くの男子が見惚れてしまうことだろう。要するに知らぬが仏というやつだ。

 緊張気味の喜多川を彼氏である大久保君は、リーダーを退いてからも今日まで僕らをサポートしてくれた。その彼は最後の役回りとして、喜多川を安心させようと優しい言葉遣いで彼女を落ち着かせてくれていた。

「よーし。じゃあ直前練、始めようか」

 さらにもう一人の強いオーラの持ち主である木村先輩の声がけのもと、僕らは最終練習に臨むことになった。


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