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小さな翼⑨

体育祭リーダーになって、初めての週末。僕は自宅近くの駅で葉月さんを待っていた。

 前日の練習後、土日の練習が夕方からあることが、団長の高城先輩から告げられ、その前に二人で練習しようと葉月さんに提案された。

 公園での練習も考えたが、休みの日は家族連れが多く、また音楽も流しづらいため、どちらかの自宅で練習することになった。葉月さんの家はアパートであるため、騒音に厳しく、よって僕の家の軒先にある小さな庭で練習することとなる。週末は両親が外出していることを知っていたので、承諾したという経緯だ。

「川端くーん、お待たせ」

 下はハーフパンツで上はTシャツにパーカーを羽織った葉月さんが現れる。既に準備万端といった様子だ。

「うん。じゃあ行こうか」

 最寄駅から自宅までは10分ほど。それでも今の僕には長い10分だ。

 なぜなら、我が家に女子を入れるのは初めてなのだから。幼い頃に近所の女の子の家には何度かあるが、行くのもそれっきりであった。

 こんな僕でも女子が家に来るというのは中々に緊張するものだな・・・・・・。

 そんな僕とは裏腹に随分と楽しそうな葉月さん。僕は自身の気を紛らわそうと彼女に尋ねた。

「何だか楽しそうだね、葉月さん」

「そりゃあ川端くんの家だしぃー。どんな感じか楽しみじゃん」

 笑いながらそう答える葉月さん。何か目的がお互いに異なっていると感じた僕は、

「ちなみに家に入れると言っても庭、もしくはリビングだけだからね」

 と念を押してみた。すると、彼女の不貞腐れた表情が見てとれる。

「えー。川端くんの部屋も見てみたいのにぃー」

「汚いからダメだよ」

「ケチぃー」

 駄々を捏ねる葉月さんを尻目に僕はひたすら拒否し続けた。そして、我が家に到着する。

「へぇー。川端くんの家ってこんな感じなんだね」

 リビングへ迎えた葉月さんが、ジロジロと部屋の周囲を見渡している。残念ながら僕の私物はここにはない。家での生活時間のほとんどは自分の部屋にいるからだ。

「失望でもしたかい?」

「ううん。広くていいなぁって思った」

「そう?普通の一軒家のリビングだと思うよ。じゃあ僕は部屋で着替えてくるから葉月さんも準備してて」

「はーい」

 葉月さんの何かを目論む表情に訝しつつも、僕は二階の部屋で学校の体操服に着替えた。ジャージも一応持っているのだがそれらは寝衣に使用しているため憚られたのだ。

 リビングへ戻ると音楽を流しながら練習を始めるポニーテールの葉月さんが目に入る。てっきり葉月さんが僕の部屋を覗きに来ると思っていたが、やはりやる時はやるメリハリのある子だ。

 今やる自主練は主にペアダンスの練習だ。お互いに背を向け合って動くものであったり、腕を組みもう片方の腕や脚をポップな曲に合わせて動かす。どの動きもペア同士が息を合わせて、いわばシンクロさせることがこのペアダンスの重要部分であり醍醐味なのである。

 そんなダンスを僕は当然ながら未だに恥ずかしながら踊っている。ただでさえまともに女子に触れることなんて生まれて初めてなのに、その相手が葉月さんであるなら尚更だ。

 この胸中を彼女に察しられないように、必死に踊ることで平静を装うとしている。

 一時間近く練習しただろうか、日中の軒先の庭でのダンス練習は流石に汗が流れてくる。

「少し休憩しよっか?」

 葉月さんの提案に逡巡なく受け入れた僕は、冷蔵庫から飲み物を取りに行くことにした。

 2つのコップに氷を2、3個加え、ポットに作ってあった冷えたウーロン茶を入れる。それらをお盆にのせ、一応足りないだろうからポットものせた。

 それらを持っていくと、パーカーを脱いだ葉月さんが窓辺に背を向けて座っていた。首から汗が滴り落ち、タンクトップの下のアレがうっすら透けている。というか真夏でもないのにタンクトップだなんて凄い気合いというか印象を僕に植え付けた。

「はい、どうぞ。冷たいお茶だよ」

 目の置き場所に困りつつも、葉月さんをこちらへ振り向かせる。

「ありがとー」

 そう言って、すぐにウーロン茶をガブガブと飲み干す葉月さん。余程喉が渇いていたんだな。すぐにポットのお茶にも手をかけた。

 そんな彼女の様子を僕もウーロン茶を飲みながら見ていると、

「どうしたの?もしかして、この二の腕見てた?失礼だなー」

 と葉月さんは少し不機嫌そうにこちらを見る。

「・・・・・・別に二の腕を見てたわけじゃないよ」

 それに決して矯めていたわけではない。むしろ時折、葉月さんが暑そうにタンクトップの肩の部分をパタパタと肌から離している、その時に見える白い紐らしきものが僕の目に入り、思わず視線を外していたほどだ。アレが初めて見るブラジャーというものか・・・・・・。まあ母親のものは洗濯物を干している時に見たことはあるが。

「えー。じゃあもしかして、私のこの辺を見てたの?川端くんやらしぃー」

 そう言いながら胸の辺りを人差し指で指している葉月さん。気になったのはそこではないんだけどな。

 彼女のからかいを、とりあえず反応しなければ真に受けるかもしれないと感じた僕はとりあえず否定することにした。

 それにしても今日の葉月さんは妙にテンションが高いな。下ネタに近しいことも言ってくるし。

 それでも彼女の元気な姿を見ていると、僕もダンスに対してモチベーションも上がるし意外にも頑張れる。

 休憩の後も約一時間ほど練習を重ねた僕らは、この後の夕方の全体練習に臨むこととなった。


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