夢のマイホーム
『こんな事まで
お願いして申し訳ありません』
女神が馳さんに
謝っているのは
女神の両親と弟達5人も
乗り込んだ車の中である。
ボロアパートに
家族が住んでいると
女神の評判が悪くなる事を
心配した両親は
少し家賃の高い
見栄えの良い場所に
引越しをしようと
考え始めた。
それを聞いた女神は
CMのギャラが入ったら
マイホームを
プレゼントしようと
考えていると話をする。
すると両親は
すぐに不動産屋に
連絡を入れて
内見を勝手に予約して
しまっていたのであった。
気になった物件が
3件まで絞れたが
スポンサーである女神が
OKを出さないと
買えない事に
しびれを切らした
不動産屋が
両親を焚き付けて
今回の女神の
北海道凱旋が
決まった経緯がある。
だが18才の
女の子である女神に
不動産の良し悪しが
分かる訳もなく
立花に泣きついて
同行して貰っていた。
不動産屋とは現地で
待ち合わせをしていたので
8人乗車で
向かっていたのである。
今回の北海道遠征で
立花は一つ知った事があった。
女神の父親は
右足が悪いようである。
後日、女神に聞いた話では
若い頃に事故で
足をケガして
それ以降、1人では杖なしでは
歩けなくなってしまい
仕事も限られた事しか
出来ないとの事だった。
女神の実家が
生活に困窮していた理由
立花は胸のつかえが
なくなっている。
むしろ、ここまで
女神を立派に
育ててくれて
感謝をしていた。
一件目の中古戸建てに
到着すると
不動産屋の営業らしき
30代前半の男性が
家の前で待っている。
『絵色様、
お待ちしておりました』
そう言って女神一家を
建物に案内している時に
オ-ラの違う存在に
彼も気付いた。
立花に手を引かれて
ワンボックスカ-から
降りてきた女神である。
『本物の絵色女神だ』
そう呟いた
不動産屋の男は
足元から腰のラインに
視線を移した後に
胸の膨らみを舐めるように見て
顔を凝視しながら
舌舐めずりをしていた。
女神に近づき
『本日はお忙しい所
わざわざ、お越し頂き
誠に有難うございます』
名刺を差し出す。
トップアイドル絵色女神と
お近づきになれるチャンス
そんな、よこしまな気持ちが
混ざりながら出した名刺を
女神が受けとろうとした瞬間
『預かっておきます』と
立花が奪い取ってしまった。
唖然として驚きながら
立花を睨みつける男に
『マネージャ-です』と
男と女神の間に
割って入って
挨拶をする立花に
不動産屋は浅い会釈をすると
女神の両親の元に走り
物件案内を始めた。
『何か、いじわるっぼく
接していましたね?』
女神が立花に並んで
歩きながら話すと
『あの営業マン
エロい目で
女神を見ていたから』
『何かムカついた』
そう言ってクチを
尖らせて説明する立花を見て
『嬉しい、立花さんが
嫉妬してくれている』と
女神は大喜びをしている。
その事を指摘されて
立花は恥ずかしそうに
していたが
女神は立花に近づいて
『安心してください
アタシは立花さんの
モノですから』と
笑顔で言ってくる。
それを聞いた立花も
嬉しそうに頷いているが
その一部始終を見ている
小さな目撃者がいた。
女神の弟と妹だ。
イチャイチャしている
姉を見て
ニヤニヤして
両親の元へ
走って行った。
『ちょっと待ちなさい』
照れ隠しを誤魔化すように
女神も両親の方に
走って行く。
その光景を見て立花は
女神がママになった姿を
想像して、
にこやかに微笑んでいる。
男は女性と付き合う時に
結婚まで考える女性と
遊び相手の延長だけで
結婚はしない女性と
分けて考えている。
本気で好きになって
全てを尽くす女性を
男性も好きであるが
男にモテると勘違いして
誰にでも股を開く女性で
幸せな結婚をした女性を
聞いた事がない。
女性の内面を見ずに
自分の欲望処理で
甘い言葉を掛ける男性が
女性に対して
本当に優しい訳がない。
当然、付き合いも
浅いモノとなる。
女性も、それを分かっているから
彼氏が自分の親に会ってくれると
言ったら嬉しくなる。
アタシは大事にされている。
真剣に考えてくれている。
そう思えると
女性は、その相手に
全身全霊を捧げる。
そして女神が
全幅の信頼を預ける立花が
また、女神のピンチを救った。
それは物件巡りが最後になる
3件目の中古戸建てに
来た時だった。
女神一家が
一番気に入っている
5LDKの物件を見ていた時だ
『ここなら子供達の通学の
学区も変わらないし』
『予算の範囲内だから
ココで最終的に
決まりかな?』と
女神の両親が
話しをしていた時だ。
『絵色様、この物件は
値段が変わってしまいました』
『2000万円から2500万円に
値上がりしたんです』と
不動産屋の営業が
残念そうな口調で
説明をしてきた。
『だって昨日の電話の時は
そんな話は無かったじゃ
ないですか?』と
女神の両親が
不動産屋に言うと
『あの後、売主さんが
突然値上げしたいと
おっしゃって
来たんです』と
申し訳なさそうに言ってきた。
すでに弟達は
『ココが自分の部屋』と言って
もう自分の家になったつもりで
喜んで家の中を走り回っている。
当初の予算から
500万円も上がってしまい
女神の両親に
アップした分を払える
資金力は無い。
困ったように
ママは女神を見ると
事態を理解した女神は
差額の500万円を
払うつもりになっており
『お金なら、』と
女神が言いかけた時に
立花が彼女の肩に手を置き
制止をする。
何故、止められたか
分からない女神は
立花を見つめると
『値段は昨日、
値上がりしたんですか?』と
立花が不動産屋の営業に
確認すると
『そうなんです』と
視線を合わせようとはせずに
答えた。
すると立花は
『ちょっと待っていて下さい』と
女神の両親を含めた全員に
そう言うと
スマホを操作し始めた。
立花が何をしているか
分からない状態で
彼に言われたまま
その場にいた全員は
固唾を飲んで
見守っていたが
すぐに立花は
『3分ほど待って貰えますか?
ちょっと電話をしてきます』と
言って
全員を残して
廊下に出て行ってしまう。
『マネージャ~さん、
何をしているんですかね?』
不動産屋の営業は
ソワソワした感じで
女神一家に聞いているが
彼女達も分からないでいる。
すると立花が戻って来て
『この物件の値段は
2000万円のままですよ』
『むしろ、すぐ契約するなら
値下げ交渉に応じて
くれるそうです』と
不動産屋の言っている事と
全く違う事を
女神一家に
説明をしだしたのだ。
それを聞いて
不動産屋の営業が慌て
『誰が、そんな
デタラメな事を
言っているんだ』と
しどろもどろに
文句を言って来たので
立花は笑顔で
『売主側の不動産屋である
誠不動産の田中さんです』と
答えると
ヤバい、という表情に
不動産屋の営業は変わった。
事態が分からず
キョトンとしている
女神一家に
『危なく、不動産詐欺に
逢うところでした』と
立花が説明を始めた。
グ-グルの検索で
検討している物件を入力する。
例えば具体的に
自由が丘 8000万円 4LDK
100㎡等を入力すると
検討していた物件がヒットして
その物件を扱っている
全ての不動産業者が
表示されるのである。
不動産の取引では
売主から
販売を頼まれた
不動産業者と
家が欲しいと思っている
一般人から依頼を受けて
物件を探す不動産会社がおり
互いに自分が管理している
お客さんをマッチングさせて
互いに納得すれば
契約となる。
その際に不動産会社は
仲介手数料として
契約金額の3%を
手数料として貰う。
2000万円なら60万円だが
2500万円なら手数料も
アップして
75万円になる。
不動産は取引の
不透明さを無くす為に
地主さんは不動産業者と
専任媒介契約を結んで
売却の窓口を一本化している。
今回の値上げの件を
売主側の不動産業者が
知らないって事は
目の前の担当者が
ウソをついていると
いう事になる。
『この事は警察に
連絡しますから』
立花の、その言葉を聞いて
不動産業者は
その場に膝から崩れ落ちた。
『この物件は、
どうなるんですか?』
心配そうな女神が
立花に質問すると
『売主側の不動産業者さんが
引き続き、契約まで
対応して下さるそうなので
安心してください』
そう言って
女神一家に説明をする。
その一部始終を見ていた
不動産業者は
立花に向かって
『アンタ、マネージャ-
じゃないのかよ?』と
半怒りで怒鳴ると
立花は笑顔で
『宅地建物取引士の資格を
持っていますので』と
答えてきた。
それを聞いた
不動産屋の営業は
泣きそうな顔になり
女神は大喜びをしている。
結果、女神一家は
今回の物件を買う事となり
一件落着となった。
女神の実家アパートに
帰る車の中で
『不動産の契約で使う実印を
女神は持っているのか?』
立花に
そう聞かれた女神は
自分の実印を
持っていない事を思い出し
ハッとする。
絵色と言う苗字も珍しく
100円ショップの
認め印コ-ナ-にも
中々売っておらず
デビューする際に
契約書に押す印鑑も
実家にあったモノを
借りてきたのであった。
不動産の契約
権利書の登記
これらの手続きには
印鑑証明書が
必要となり
役所に実印登録が
必要となってくる。
女神と立花の話を聞いていた
女神ママが
『め-ちゃんの実印は
作ってあるわよ』と
2人に報告をしてくる。
アパートに帰り
タンスの引き出しから
ママが取り出した印鑑は
立派な実印だった。
『一生使うモノでしょ?』
『安い印鑑だと、端っこが
カケちゃったり、するから』
『ちゃんと、したのじゃないと
ダメでしょ?』と言って
黒い水牛の印鑑を
女神に渡した。
『ママ、ありがとう』
そう言って受け取り
ママに感謝しつつ
女神は印鑑の表面を見て
気がついた事があった。
『ママ、これ
絵色って言う苗字が
無いんだけど?』と
質問をしてきた。
立花 隆の実印なら
苗字と名前の
フルネームで
印鑑を作るモノだが
彼女の実印には
女神としか彫られていない。
『だって、め-ちゃん
すぐに苗字が
変わるでしょ?』と
笑顔で説明してきた。
結婚する前も
結婚してからも
同じ印鑑を使えるように
配慮していたのである。
『ママ』
その意味が分かり
女神は抱きついている。
その光景を見ていた
立花も微笑んでいた。
こうして女神の
弾丸里帰りツアーは終わる。
帰りのプライベートジェットの中で
『立花さんの実家には
いつ行くんですか?』と
女神が質問をしてきた。
『長野県なら飛行機じゃなく
車で行けるから』
『タイミングが合えば
いつでも行けるだろ?』と
立花が言うと
『何時にします?』
『来週ですか?』と
女神が前のめりに
聞いてくるが
立花は
『お前の予定次第だろ?』と
女神の頭を指で
つついた。
『そうでした』と
落胆している女神は
『運営に休みを交渉します』と
息巻いている。
彼女の両親への
ご挨拶と言う
重要ミッションを
終えた立花は
外の夜景を見ながら
ホッとしていた。
この後日に届く
プライベートジェットの
チャ-タ-料の請求書が
5000万円だとは知らずに。




