初出社
女神の熱愛発覚
記者会見が終了した
3週間後
渋谷にある
オリファルコン本社に
立花の姿があった。
前職のFAXとプリンターの
複合機のメンテナンスを
する仕事とは
全く関係ない仕事である
ゲ-ム会社
会長の知り合いだと言うだけで
実績も経験もない自分は
他の社員に
よく思われていないのでは?
誘われて調子に乗って
大企業に転職して
しまったが
自分に副社長なんて
務まるのだろうか?
立花隆は
オリファルコン本社の
ビルの前で今更
不安になっている。
すると
『副社長、おはようございます』と
猪木会長の秘書さんが
立花を見つけて
声をかけてきた。
『おはようございます』
慌て挨拶をした立花を見て
『どうされたんですか?』と
心配そうに
顔を覗き込んでくる。
『いや、前の会社に比べて
オリファルコンがデカいので』
『俺は本当に、この会社に
入っても良いのかな?と
不安になって』
『少しビビっていました』と
素直に心境を白状すると
『何を言っているんですか?』
『会長と副社長が
ここまで大きな会社に
したんじゃないですか?』と
秘書さんは笑って
励ましてくれた。
そう言っても
立花の表情が晴れないのを見て
美人秘書さんは
『会長が待ってらっしゃいますから
早く行きましょう?』と言って
立花の背中を押して
高層ビルの中にある
オリファルコン本社へと
入る事を促す。
高層ビルの21階と22階の
全フロアを
オリファルコンが借りているが
賃料は月いくらになるのか?
クイズになりそうな
立地の良さが自慢な場所だ。
エレベーターに乗った
立花と秘書さんは
22階に向かい
すぐに会長室の
ドアをノックすると
『どうぞ』と
ご機嫌な声で猪木会長が
返事をしてきた。
秘書さんは
『私は、ここで』と
小声で挨拶をして
廊下の方にフェ-ドアウトして
消えていく。
『失礼します』
立花が会長室に入ると
両手を広げて猪木会長が
『この日が来るのを
どれだけ待っていた事か』と
言いながら
立花を抱きしめた。
この行為に深い意味がある事を
立花は知らない。
喜んでいる猪木会長に対して
浮かない顔の立花の
テンションに気が付き
『どうか、されたんですか?』と
会長が聞いてきたので
秘書さんに説明した事を
話すと
会長は大笑いをしている。
?
『俺、何か変な事を
言いましたか?』
立花が猪木会長に質問すると
『立花さんの実績が無いなんて
ウチの社員は
誰も考えていないですよ』
『むしろ、副社長の入社は
早まらないのか?と
聞いてくる社員も
多かったみたいでしたよ』と
教えてくれた。
エクシブハンターの
世界大会の終了と
同時に発表された
国別の代表による
ワ-ルドカップ
オリファルコンの社員ですら
一部の人間しか
事前には知らず
翌日から
プロジェクトチ-ムに
入れて欲しい、と言う要望が
社員から多数出ていた、との事だ。
『3週間、前の会社での
退職手続き中も』
『色々とアイデアを考えていたんじゃ
ないんですか?』と
会長が嬉しそうに聞いてくると
立花の入社を待ち望んでいた
社員が多かったと言う話を聞いて
すっかりご機嫌になった立花は
『まぁ、多少は
考えて来ました』と
鼻の穴を膨らませて
会長にアイデアを
話し始めた。
立花が考えていた色々な
アイデアを聞いていた会長は
最初はニコニコしていたが
次第に真剣な顔になり
立花の話にメモを取って
立花に質問をしながら
熱く議論を交わして
没頭していくまでになっている。
『ワ-ルドカップの参加する各国で
スポンサーを募集する考えは
ありませんでした』
『ゲ-ムの世界観を壊すので
他社の広告を出す事は
御法度と言う
固定観念があったもので』
『確かに大会の冠スポンサーや
試合前やインターバル』
『大会参加者を紹介している間に
バナ-広告を出す事は
可能ですし』
『スポンサーにも
メリットは大きいですね』と
猪木会長は
目を輝かせていた。
サッカーのワ-ルドカップや
オリンピックなどの
スポンサーになるには
数十億円から数百億円の費用が
かかると言われているが
そこまで出費しなくても
エクシブハンターの
世界大会と同じくらい
世間の注目が集まれば
スポンサーにとっても
リターンは大きい。
何せエクシブハンターの
ペア戦世界大会は
延べ閲覧者は
5億人を超えていたので
注目度は高くなる。
『世界大会の大成功は
オリファルコンに
どれだけ利益をもたらしたか?』
『ウチの社員なら
誰でも知っている事です』
『立花さんの入社と副社長就任に
ケチをつける社員なんて
いませんよ』
会長に、そこまで言われて
立花は、すっかり
ご機嫌になっていた。
『この後、全社員に向けて
リモートのweb会議システムで
副社長就任挨拶を
して貰いますので』
『よろしくお願いします』と
猪木会長に言われても
『わかりました』と
自信満々で答える
立花であった。
『そう言えば、女神さんは
変わらずお元気ですか?』
猪木会長が2人の付き合いを
さりげなく探ると
『記者会見から一カ月は
会うのを控えようと
していたんですが』
『何だかんだ、理由をつけて
新しい家に2回ほどは
お忍びで来ています』と
苦笑して報告している。
『まだホテル暮らしを
続けているのですか?』
パパラッチから逃れる為に
千歳烏山のマンションから
避難している事を
知っている猪木会長の質問に
『どうやら新しい家を探していて
目星はつけたみたいです』と
彼女の近況報告をした。
やがて、定刻となり
web会議システムを使った
オリファルコン全社員向けの
リモート朝礼が始まる。
会長室で待機していた2人
カメラの前に猪木会長が写り
『本日は皆さんにご報告があり
リモート朝礼を開いています』と
話しが始まった。
『オリファルコン設立時から
役員で名前は載っておりましたが』
『諸般の事情で当社に
在籍されていなかった方が』
『今回、副社長に就任されました』
『立花隆さんです』
会長が名前を紹介すると
カメラが立花を写し
やや緊張した顔が
流された。
『立花さんの副社長就任を機に
私は経営に専念して』
『副社長には新規プロジェクトの
責任者として働いて頂き』
『当社を更に飛躍させて
発展に寄与して頂きたいと
考えております』
『それでは立花副社長に
ご挨拶をお願いします』
猪木会長に紹介された立花は
『多くの方が初めてに
なると思います』
『今、ご紹介頂いた
立花 隆です』
『猪木会長の多大な期待に
困惑していますが』
『オリファルコンを発展させたい
気持ちは、皆さんと同じです。
『まずは、私の考えている
オリファルコンの第二期の
創世期案を発表したいと思います』
第二期の創世期?
その立花の発表に
web会議を見ていた社員達が
ザワついている。
『ゲ-ム開発会社である
オリファルコンで
別の新規事業を展開したいと
考えています』と立花が
掟破りの事を言い出したのだ。
『ゲ-ム開発会社である
オリファルコンだから
売れるゲ-ムを作る』
『これは当たり前の事ですが
いつか、何かしらの
壁にぶつかった時に
限界を迎えるかも
しれません?』
『一部雑誌を発行していますが
ゲ-ムの派生の考えもあります』
『そこでゲ-ム開発会社一本だった
オリファルコンの新業態
ビジネスを展開する事を
考えており』
『全社員の皆さまからの
応募を募りたいと
思っています』
『突拍子も無い考えでも
大歓迎です』
『例えば私が考えていたのは
オフィス街でランチタイムだけ
売るキッチンカ-を
当社で展開する』
『それを当社の社員で
売りだすと言うモノです』
『普通に考えれば
ゲ-ム会社の社員で
誰が売るんだ?、と
考えますよね?』
『キッチンカ-で働く時間は
ランチタイム』
『準備の時間から撤収まで
考えると』
『働く時間は10時30分から
14時30分くらい、だと思います』
『普段の仕事は?』
『そう考えると思われると思います』
『でも、オリファルコンでも
産休、育休を取っている
社員が10人ほどいます』
『その方達は現在、休業中ですので
給料を貰っておりません』
『ですので育児休暇が
終わると』
『子育てと仕事の両立を諦めて
当社を退職して
しまう方が多いそうです』
『でもオリファルコンが
このビルの中に
保育園を作ったら
どうでしょうか?』
『自分が働いている間は
保育園で預けておける』
『育児休暇が終わっても
そこに預けておけるなら
復職し易くなる』
『当社は優秀な人材を
失うわずに済む』
『このビルみたいに大きければ
同じ悩みを持っている
他社のママは多いと思います』
『他社の社員さんの
お子さんは有料で預かり』
『当社の社員は無料にしたら
男性も育児休暇を
取り易くなりませんかね?』
『キッチンカ-を作る』
『こんなアイデアを出して
貰えたら』
『後は私が、仕上げていきます』
web会議に参加していた
社員達は
既に立花の発言に
心を掴まれていた。
コイツは、やっぱり凄い
キッチンカーの話を
立花が最初に
しだした時は
何を言い出しているんだ?と
思った社員が大多数だった。
だが、そこからの
話の展開で
有益な話だと
みんな感じていたのだ。
『開発の仕事をしている方でも
経理の人でも結構です』
『開発の人以外の方の
アイデアで新しいゲ-ムを
考えるのも面白いと思います』
『社員が500人も
いるんですから
アイデアは無限だと思います』
『社内メ-ルで、コッソリ
私宛に送付して下さい』
『もちろんタダとは
言いません』
『採用者には特別
ボ-ナスとして100万円を
支給致しますし』
『月曜日から金曜日までの
5日間の有給休暇を
セットします』
『土曜日、日曜日とセットで
連続9日間の休暇に
なりますから』
『ハワイ旅行なんて
良いかもしれませんよね?』
『ただ休暇明けで出社すると
仕事が山積みで
休暇を取らなければ
良かった』
『そんな事にならない為に
休んだ人のヘルプをした
同じ職場の方には』
『一日つき5万円のヘルプ手当を
支給します』
『5日間で25万円ですが
自分の仕事をしながらじゃ
大変ですので』
『上司を含めて最大4人まで
同じ課の方にも支給します』
『25%の残業なら
手伝う人も負担が少なくなる』
『そんな事を色々と
オリファルコンで
やって行きたいと思っています』
するとパチパチと
1人が拍手をして
それに釣られるように
他の人間も拍手をし始め
やがて離れた会長室にも
拍手の渦は聞こえてきた。
猪木会長は立花の
プレゼンを聞き終えて
目を細めている。
立花は副社長として
オリファルコンの社員に
受け入れられたのであった。
『あれが、GOD』
『待ってたわよ』
1人の女性が不適な笑みを
浮かべる中
新天地で立花が
歩き始めたのであった。