第19話 食は百薬の長
ぐぅうううう~~~~・・・
山にコダマする怪奇音。
ぐぅぅぅうう・・・
何かの異変の前触れか?
それとも山に潜みし龍の唸り声か?
否、それらにあらず。
明文の腹の音である。
「なんか凄い音してるよ~」
「こ、これは・・・オレの中で気の力が高まっているからだ・・・」
そんなわけはない。
彼は五穀を断ち、草を食み、まだ吸いも出来ぬ自然の霊気を吸っているつもりでいた為、ガリガリにやせ細っていたのだ。
梨などの果実を食してはいたが、修行の苦を高めれば、その分早く仙人になれると思い立って、梨などの果実を食する事を止めた為、不健康に瘦せてしまった。
「今、浮世の言葉の意味がわかった・・・この世は不安定に浮いて揺れ動くからだ・・・」
「明文、それはめまいしてるだけだよ~」
天華はそんな彼が心配だ。
このまま彼がお亡くなりになったとしても、尸解仙になれそうにもない。
天華は、空の向こうにある自宅に戻った。
「天華~。何してるのだ~?」
髭を生やし、大師のような高貴な衣装を身にまとった初老に見える大きな男が巻物を片手に、天華が何やらこそこそとやっているのを眺めていた。
「あ、お父さん。何でもないよ~」
「あれ?それ、お父さんのちまきだよ?」
「じゃ、ちょっと行ってくるね~」
「天華~。お父さんのちまき~。後で食べようと思ったやつ~」
父の言葉を背に、天華は空を舞った。
そして、すぐに明文の元へたどり着く。
笹の葉を開くと、味付けされたもち米の姿、美味しそうなちまきが姿を見せた。
とてもいい臭いだ。
「・・・く、食えと言うのか?」
「食べないと体に良くないよ~」
「果たして、修行中にこの様な美味そうな飯を食っていいのであろうか・・・」
しかし、明文は我慢の限界だった。
肉体が生命を維持する為の食を欲している。
気が付けば明文はちまきにかぶりついていた。
むしゃむしゃ・・・
「う、美味い・・・」
久々に感じた、誰かが作ってくれたぬくもりを感じる食事。
明文は歓喜し、涙をこぼした。
「え~、泣く程美味しかった~?も~、大袈裟だな~」
明文は、腹も心も満たされたそうな・・・