第18話 術比べ
明文が寝床とするほら穴の前に、1人の若い道士の姿があった。
「ここにおられるは官職を辞して高山に籠りて仙術を極めんとする林 明文氏であるか!?」
「そうであるが、何の用であるか?」
「我はこれより南の国に生まれ、気功や霊力、魂の強さを求めて何千里、この足で歩み続け、いずれは神仙となるべく修行を続ける道士、李 光平と申す!」
「・・・声がうるさい」
「中つ国の都において、官職の身分を捨ててまで仙道に励むと噂の明文氏と術比べをしたく訪れた!」
「馬鹿者。術比べなどはせぬ。オレは争う為に仙道に身を置いたわけではない。帰ってくれ」
「術比べを受けてくれるまで、我はここから動かぬぞ!」
そう言って、光平はその場に座り込んでしまった。
「困ったな・・・」
そんなやり取りを空から見下ろしていた天女の天華が舞い降りて来た。
「お客さんかな~?」
「招かざる客だ・・・お前も」
「え~、私は招いてよ~」
「招かぬ。修行の邪魔だ!」
「本当は~・・・うれしい癖に~」
「ば、馬鹿言うな!修行の邪魔されて、う、うれしいわけなかろう!」
「あ、今、一瞬顔がにやけたよ~?」
「にやけてない!お前の勘違いだ!」
「ふ~ん、顔が赤いぞ~」
「赤くなんかない!例え赤くとも、それは日の光に照らされて赤いだけだ!」
「・・・・ね~え~」
「・・・・な、なんだよ?」
「えへっ、なんでもな~い」
「な、何でもないのに声をかけるな!」
「ウガアアアアアアアアアアア!!!」
座り込んでいた光平が突然、叫び声を上げ、のたうち回った。
「我は術を競う為に来たと言うのに、なんというものを見させられているんだ!天女と仲良くしやがって!うらやましいじゃねえかあ!」
光平は深呼吸をして、立ち上がる。
「そうだ、お嬢さん。我と一緒に修行の旅に出ませんか?こんなわからず屋なんかよりもずっといいと思いますよ」
「そんな事よりあなた、鼻毛が出てるわよ~。呼吸する度にゆらゆら動いてる~」
光平は自身の鼻の穴近くを触り、出ている毛をつまんでぬいた。
「いてっ!・・くぅ~、ど、どうです?これで完璧・・・」
「そういうの、ダサいよ~」
「だ、ダサい・・・」
光平はショックを受けた。
「しゅ、修行をしなおしてくる!」
そして彼は脱兎の如く、山を下って行った・・・