第13話 幽体離脱からの帰還
明文はほら穴に草の布団を敷いて、寝ていた。
夢の中でも修行を欠かすことは無かった。
すると、明文の体からスーッと魂が抜けだしたのだ。
幽体離脱である。
「おお、こ、これは・・・仙人になる前の第一歩ではないか?!」
自分の体が寝ているのを眺めている。
妙な気分にもなるものだ。
だが、魂の姿、自由自在に空を舞い、岩や木々などに妨げられることも無く飛び回れる事に喜びに浮かれ、一晩中山々を飛び回り続けた。
日が昇り始め、自分の体に戻ろうとするも、どこの山に自分の体が寝ているのかわからなくなってしまった。
このままでは、仙人になれず、永遠にさ迷い続けるだけの幽霊になってしまうと恐れた明文は、必死になって自分の体を探し、飛び回った。
すると、運よく天女の天華が飛んでいるのを見つけた。
彼女は自分の所へ向かうだろうと思い後をつけた。
天華は明文の体が寝ているほら穴に到着したのだ。
明文の魂は寝ている体に入ろうとするも、どうしても戻れない。
「おやおや~、ぐっすり寝ちゃっているのね~・・・」
『天華!オレはここだ!体に戻れない!助けてくれ!』
明文の魂の叫びはどうやら天華に届いていないようだった。
「ふむふむ・・・ちょっと、いたずらしちゃおっかなぁ~・・・」
『いたずら!?何をする気だ!止めろ!!』
天華は、そのくちびるを明文のくちびるに近づけようとしている。
明文の魂は天華を離れさせようと必死に引っ張るも、魂の状態では何もできない。
どうしようとうろたえる彼の魂。
ついにくちびるとくちびるが密着するかと思えた瞬間だった。
「期待しちゃった~?」
意地悪そうな笑みを浮かべる天華が、明文の魂をじっと見ていた。
『え?もしかして、オレの姿が見えてる?』
「もちろん。私は天女だよ~。そんくらい見えるよ~」
明文は、からかわれていたのだった。
「でも、どうしちゃったの?お亡くなりになったわけじゃないのに~」
『幽体離脱に成功したのだが、どうやっても元に戻れなくて・・・』
天華に魂を押し込んでもらう事になった。
力いっぱい体に押し付けられると、スッポリと、魂が体に戻ったのだ。
「っは!も、戻れたっ!」
明文が目を覚ますと同時に、魂を押し込んでいた天華がバランスを崩してのしかかってきた。
明文の顔面は、天華の大きな胸の下敷きになってしまった。
うぶでシャイな明文は、その刺激の強さから、鼻血を出して意識を失ってしまった・・・
「ありゃ?魂が戻ったのに・・・またのびちゃった・・・」
明文が仙人になる日は遠い・・・