第10話 なけなしの梨の話し
明文はある日、久しぶりに山を下りてみた。
ただ、何か美味しいものを食べたいと思ったのだが、ふと我に返り、仙道を極めようとし、修行を続けているのに、このような欲で動いてしまっている事を恥じた。
そして山への帰り際、貧しい農家の老婆がどうしても梨を買って欲しいと言うので、1つ買ってあげることにした。
ただ、銭はこれから持っていても仕方がないとも考え、有り金を全部、老婆に与えた。
老婆はとても感銘し、明文の姿が見えなくなるまでお礼を言い続けた。
山に戻って、いびつな形の梨を見て、不出来な梨だが久しぶりに梨を食べる事に少し喜びを感じていた。
すると、空から天女の天華が舞い降りて来たのだ。
「あ~梨もってる~。ちょうど喉が渇いた所なの~・・・」
天華は梨を欲しがっているようで、明文の目をじっと見つめるのであった。
「天女であっても梨を食べる事があるのか?」
などと明文は問うたが、彼とて梨が食べたい。
そう簡単に渡したくはないのだ。
だが、どうしても欲しそうに見つめて来る天華に押し負けてしまった。
「ほら、前に桃、もらったからな・・・その時の礼だ」
明文は天華に梨を渡したのだ。
「ありがと~。優しいのね~」
シャリシャリと、美味しそうに梨を食べる天華。
そんなに美味しそうに食べてくれると嬉しいようで、正直、自分も食べたかったので残念なような、複雑な気持ちになる明文。
っぺ!
種を1つ吐き出した天華。
それを明文に手渡す。
「な、なんだよ・・・種?」
「うん、お礼~。優しい人にはいい事が無いと寂しいじゃん?」
「だからって・・・種をどうしろと?」
「これね、埋めて水をかけるとすぐに木になって、美味しい梨をいっぱい実らせるから~」
何年後の話しかと思いつつも、明文は種を埋め、水をかけた。
すると、みるみるうちに芽が生え、成長し、木となり、そして大きな梨を実らせた。
不思議な力が宿った木の梨を食べてみるととても美味しく、みずみずしかった。
「どう?私の出した種の梨の味は?」
「いや、吐き出した種を渡された時は正気を疑ったけどさ・・・」
「間接口付け?」
「いやいや、そんなわけないだろう」
明文は顔を赤くしていた。
それはまるで林檎のようだった。




