仲良くお買いもん
『ちょっと何!…その[紋]の量は!…さっき縛られてた時に見た時は何も無かったのに!!』
驚きの余りトーニャの心拍数があがっている…自身の[紋]とは比べ物にならない夥しい質と量、一つ一つが重なりどの様な形をしているか、何を媒介としているかなどが一切分からない程の量、まるでハナ自身が光ってるかの如く輝いていた。
『ん?何をそんなに驚い…てって何コレ私光ってる!?!?』
こちらも何が何だかわからず驚き混乱していた。
『とっとりあえず、落ち着きましょ『分かった!!』
食い気味にハナは返事を返すと、よくある深呼吸の真似事をする
それを見よう見まねでトーニャも実施していた。
『『すーはー…すーはー…』』
しばらくすると反応による光が徐々に消え、お互い落ち着きを取り戻したので、話を続ける。
『ハナ…よく聞いて、ハナの[紋]はとてつも無い質と量を兼ね備えているの…、これは私が見たサモナー達でもココまで凄いのは無かったわ』
『私が?さっきトーニャが教えてくれた…契約?もしてないのに?』
『そう…契約、私の場合、前任者のサモナーからニャルデル神様との契約を私に引き継いだから、サモナーになれたの…。
神との謁見は並大抵の事じゃ出来ないからね、契約の譲渡が普通で[紋]を通じて神との親睦を深めていくのが基本的なのよ』
『初めから神様に会えるわけじゃ無いんだ…』
なんか異世界って色んな所に神様がいて好き勝手してるイメージがあったのに…
って言うか一見さんお断りみたいな感じだな…
『だから、ハナの[紋]は契約などの甘い物じゃないのはハッキリわかるわ…どういった経緯でそうなったかわからないけど、ココまで神から与えられるなんて…とんでもない才能ね』
トーニャの[紋]の引継ぎにはとても苦労し、少しの才能と努力と言う自らに課した試練でもぎとったものであった為、ハナの才能に少し羨んでいた。
『いつの間にかサモナーになってたんだ!やったー!私トーニャみたいに綺麗にこの[紋]を使いこなして見たい!あとで教えてね!』
新しいおもちゃを買ってもらった子供のように喜んでいるハナを見てプッと吹き出したトーニャはクスクスと小さく笑って。
『えぇもちろん!』
トーニャは嬉しく跳ねているハナを見つめながら、
ハナの純粋さに嫉妬など不要だなとそう思っていた。
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[ハウス-フォレストキャット]を出たハナは猫族の国[マタタビ]をトーニャに案内してもらっていた。
道中で聞いたのは、この[マタタビ]と呼ばれる国は山を削り取った様な場所にある…、全体的に四角に城壁で囲まれ、更にそれを東西南北で分断するかのように×印状に堀と川があり、その中央に噴水が構え、全部で4つの街で構成されている。
街は各自治体で収めており、この[南の街]は個別の長がいて、ノルウェルの息子の『シャム』というよく出来た猫がそうだったらしいが、誘拐され、現在はノルウェルが猫族の長と兼任となっている。
一様私…まぁ猫族でいう人族がここ[マタタビ]に入ってきているのは、トーニャの[紋]を通じてノルウェルが国の中にいる猫族限定で一部始終の情報を伝えているから特に自己紹介は不要だとか…。
携帯より便利…
後、大事なお金の話で、この世界の通貨は特別な物を除き、主に金貨・銀貨・銅貨の三種類で、これは各種族不思議な事に同じ物を使っているらしい…。
例えば分かりやすく説明すると、銅がパン一つの価値だとすると、銀がそれを100個、金が10000個となってるそう…後は色んな物の価値を覚えないとね!
あっ、因みに私が猫族と出会った場所は、猫族の国への直通ルートの隠し場所…つまり国の重要拠点とも呼ばれる所だった訳で、そんな場所に他種族がいる事が酷く警戒していた理由との事だったそうな。
話の整理はさて置き、今いる南の街は赤茶色の煉瓦をベースとして組み上げた建物がずらっと等間隔で並んでおり様々な勾玉が扉や壁に取り付けられていて、舗装はその赤茶にクリーム色等が混じった煉瓦が敷き並べられている。
街路樹の様なものにも勾玉の様な形のきのみが生っていた。
歩いてる時に気付いたけど普通のレンガだと硬いはずなのに、この道に使ってる煉瓦の舗装が弾力を帯びているかの様に少し柔らかい…猫族の足腰の負担の軽減にもなっているのだろう…
凄いバリアフリー…
『とりあえず良くお世話になる所を案内するね!』
トーニャはスタスタと歩き街を案内して行く。
人通り…もとい、猫通りが多い道幅が広い場所についた。
真ん中に大きな噴水のようなモニュメントが構え、その周りを囲う腰くらいの高さの堀があり、子供達が水遊びに丁度良さそうな広さの場所が確保されていた。
そしてモニュメントの形はどう見ても招き猫だった。
この招き猫を囲う様に建物がずらっと円を描くように並んでいて一つづつ何かのショップのような佇まいをしていた。
『その服だとどこ行っても結構目立つから先に新しい服買ってあげるね』
制服は確かに目立って居たのは分かっていたからトーニャのその気遣いはありがたく受け取る。噴水通りの一つの服屋さんっぽい建物ににトーニャは入っていく私も着いて入っていった。
店員さんは最初、人族と一緒の見た目の私を流石に少し警戒していたが、トーニャが色々と話を通してくれたお陰でスムーズに試着し、買い物ができた。
買った物は、空色に斜めにかかった3本の白のストライプのアクセントが特徴の猫耳フードのパーカーの様な服、側面に小物を引っ掛けられるアタッチメント付きの黒皮のミディスカートと皮のロングブーツに、後小物類…一番びっくりしたのは[異空間の鞄 小容量]と言われる鞄、これ多分マジックバックって言われるやつじゃ…
これが普通にお店に置いていてトーニャに聞くと、小容量タイプはよくダンジョンで見つかるらしいので、結構売ってるそう…なんか急にRPG感が出てきたような…まぁ取り敢えず便利なので着ていた制服とかもあったのでそれをしまって、スカートのベルト部分に装着し取り出し口が腰あたりに来るように調節した。
うん、これで動きやすくなった
『次は薬屋さんにいきましょ!』
次にトーニャに連れられて来たのは肉球印の丸薬と書いてある看板が目印の薬屋だった、他にも滋養強壮、血行促進、毛並色艶、夜目活性などなどの言葉の書かれている幟が目立っていてお祭りみたいな状況だった。
店に入ると、薬品の様な香りがつんと立ち込めていた。
奥からカラン…コロンっとゲタの音を響かせながら抹茶色のちゃんちゃんこ風な服にメガネをかけた茶色のキジトラ色の猫族がやってきた。
『おっ!人族とは珍しいのを連れてきたねぃ!トーニャ!』
面白いものを見るかのように嬉しそうに語るキジトラ…
『こんにちは!アーチナ、こちらはハナ!ちょっと色々事情があって見て欲しくって…』
アーチナと呼ばれた猫族へ事の顛末を説明した。
『ふむふむ…なるほどねぃ…必要なキーワードは異世界からきた人族、紋知らず、紋章の重複、高品質、ニャルデル神の加護も紛れているってとこだねぃ』
難しい顔をしてハナをジーっと見ていたアーチナは『あっ』と一言呟くと、そそくさと店の奥へ行く。
しばらく経って持ってきたのは青と銀の混じった液体の入った小さな試験管…それをハナに手渡した。
『ハナと言ったねぃ?コレは高度な加護をもつ君の[紋]に働きかける霊薬だよ、効果は簡単に言うと力の暴走を抑え、制御し易くするって代物なんだよねぃ』
『力の暴走?どういう事?』
『今の君は[紋]や加護のない所からやってきて、突然国を消滅出来るほどの力を持ってしまったんだよねぃ…制御もまだらしいし…、まるで赤子に刃物だよ…見ちゃいられないし、ほっとけない』
喋りながらうんうんと頷くアーチナ
『とりあえずさ、騙されたと思って飲んでみてよ!これ結構良い素材入ってるし何と言っても自信作だからさ!まぁ酸っぱいけどね…苦いよりはマシでしょ?』
アーチナの言葉に流されてしまいそうになりチラッとトーニャを見ると小さくガッツポーズで応援?されていた…
はぁ、よく分からないけど…しかたない!覚悟を決めるか!
腰に手を当て、牛乳を飲むかの如く!
『ぐびっ』
『酸っぱ!!』
まるでレモンをそのまま齧り付いたような酸味と爽やかさが口いっぱいに広がる…。
…おっ、おお?
早速薬の効果が出たのか、身体の中でじんわり温かい力を感じていた。
『どう?どんな感じ?』
アーチナは恐る恐る聞いてくる。
『んー、説明しづらいけど、暖かくて妙にスッキリした感じかな?』
『ほっ、良かった…爆発しなく…オッホン!
ま、まぁ効き目ばっちしでよかったねぃ!』
なんか聞き捨てならん言葉が聞こえた気がしたけど…
『まぁいいや!これでトーニャから[紋]の使い方を教えて貰う準備が出来た感じかな?』
『そうだね!コレでばっちり!』
トーニャは器用にウィンクをした後、アーチナから何かに使う丸薬を瓶で買っていた、私にも渡されマジックバックへ入れた。
ーーーーー
『今日は街の案内って言ってたけど、ハナも[紋]を使ってみたいだろうし、練習がてらに少しダンジョンに行きましょうか
ダンジョンはこの街の入り口近くにあるの』
『わーい!早速レッツゴー!』
初めにそこを通ってきて場所が分かっているハナは
走り出してしまうがそれをトーニャは制す。
『待って!ダンジョンにはギルドで入場登録をしないとダメなの、入場登録には身分証が必要だけど…ハナの身分証は先にお祖父様が登録してくれたはずだから、後は入場登録だけで良いはず…それがギルドでの身分証…ギルドカードになるから』
流石出来る老猫ノルウェル…あの時離れたのはこの為だったのか…
『流石!じゃあ…ギルドに行こう!』
…………
………
……
『ってここさっき来てたじゃん!』
そうココはハウス-フォレストキャット、今一番閑古鳥の鳴いているギルドはココと言っても過言ではない…
初めてきた時も誰もいないからただのロビーだと思ってそのまま応接室へいったし、トーニャと種族の話をしていた時も受付とか特に気にせずに通ってきた場所だったのだ。
『本当に此処がギルドなんだ…全然気付かなかった…誰も居ないじゃん』
そう…あたりには誰も居ない…私達2人だけがギルドの受付らしい所にモニュメントなんだろうか、三毛猫色の毛玉が置いてあり、壁には木材を貼り合わせた掲示板が所狭し並んでいた。
『はは…猫族の[紋]使いは今の所私だけだからね…ギルドに人手は足りてないんだけど、仕事をする人がいないのだからこうなっちゃうのよね…』
掲示板には、依頼書が紙の束になって貼り付けられていた…探すと小説の様な太さの束も大きなクリップで止めてあったが誰も取らないのか、紙も色褪せておりクリップも外れかけていた。
そのうち一つを手に取り、パラパラと依頼書を捲っていく…
『…あっ、これって殆ど捜索依頼だ…』
ノルウェルが初めに言っていた、誘拐目的と言う言葉に重みがあったのはこういう事だったのか…[サモナー]と呼ばれる主力もトーニャ以外いないし、これじゃあ猫族達の発展は難しいとも言えそうだ…。
『私の兄妹も人族へ誘拐されたからね…でもハナが来たから大丈夫!人族に連れて行かれた皆んなが帰ってきたらこの国は独立できると私は信じてる』
『うん!私も精一杯頑張るよ、この国の為にもね!』
トーニャを勇気付けるようにハナは胸を張り声高々に宣言した。
『ありがとう…じゃあ私も期待に応えないと!一緒に頑張ろう!』
ハナの言葉に少し元気が出たトーニャはふふっと笑いだす。
『あーのー、水を差すようで悪いけど友情ごっこは外でやってくれます?二日酔いで頭が痛んで…』
ハナとトーニャの声が頭に響いたのか、受付の机に毛玉のように寝ていた猫が意義を申し立てる。
…え!?あの毛玉動くんだ!?