道中
着いた湖は、太陽の光を受け入れると波打つ水面をキラキラと輝かせ、ふと覗き込むと底が見える程透き通り大小様々な魚が泳いでいた。
湖の周りには開けた場所が何ヶ所かあり、そこの一部で休憩できるようになっており、誰かが定期的に木や草を刈り込んでいるようにも見えた。
ノルウェルにここの場所から反対側の向こう側へ降っていくと、人族の国と猫族の国の境界に辿り着くと教えてもらい、
境界付近まで一緒に駆け抜けた。
『ふう…この距離は中々老体に応えるのう…』
『ノルウェルさんかなり飛ばしてもんね…【白虎の脚】がなかったらついていけなかったよ…』
『ほっほ、老体と言ってもまだまだ若い者には負けんよ?』
『確かにそんな感じがする…』
軽やかに森を駆け抜けて、ここに着くまで一度も息を切らしてないノルウェルのスタミナと脚力にハナは唖然としていたが、あのトーニャのお爺さんと思いかえせば、ここまでパワフルなのは当然だなと思った。
『ここから先は人族の国じゃ、ハナ…先程渡した地図を』
『あっはい』
猫族の国の鳥居前でノルウェルに貰い鞄にしまっていた地図を手渡す。
『この場所がここの湖…、[ルナ湖]そしてこの先の道をずっと真っ直ぐ行くと人族の国[アスト]じゃ』
ノルウェルが地図を近くの石の上に広げると地図を指でなぞりながら話す。
『[アスト]か…』
聞き馴染みのない国名というか言葉だったが、猫族の様にマタタビが好きだからマタタビ!の様な安直な理由の国名じゃなかったのが少しほっとした。
もしそんな好きな物の名前感覚でつけて良いなら私が王様だったら[チョコアイスいちごバナナクレープ国]になっちゃうよ?そう言う事だよね?
…っと、脳内で勝手な事を考えていた私とは裏腹に、
ノルウェルは私が繰り返しつぶやいた[アスト]という言葉に少し頷くと、地図を丸めてすっと手渡した。
『うむ…、ではワシの案内はここまでじゃな』
『案内ありがとう、ここから先は私に任せてね!勿論大船に乗ったつもりでね!』
『ほっほ…元気な娘じゃ、何度も言うが『『くれぐれも無理をしないように』』でしょ?
発言を被せる様に伝えると、ノルウェルは目を丸くし驚いていたが、また元の優しい表情に代わり
『分かっているならよろしい』
と笑顔で呟いた。
『じゃあいってきます』
『行っておいでハナ』
そういうと、ノルウェルとハナは堅い握手をした。
名残惜しそうに手を離すと、ノルウェルは元来た道を相変わらずの速さで引き返して行った。
『流石帰りも速いね…』
と一人ごちると、受け取った地図を鞄に直し、人族の国[アスト]へ向かいノルウェルから教えてもらった道を進んでいくのであった。
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ーーー
ヒト族の国の境界に突入してからと言うものの、ある程度木を伐採しているのか、いつの間にか獣道から整備された人の通りやすい道へと変化していた。
……
…
ビーーン!!!
『うわっ!!』
突如、耳を塞ぎたくなるような轟音を出す羽音が鳴り響き、熊蜂を模した大きさが1メートルを超える程の魔物が縄張りを主張するかのようにハナの頭上を急降下する様に威嚇しながら現れた。
だが、突如現れた巨大昆虫にハナは初めは驚きつつも特に必要以上に声をあげたり反射で手を出したりはしなかった。
『びっくりしたー…巨大熊蜂って所かな?
…
…って、あれ?なんか怒ってる?』
チェーンソーの駆動音を彷彿とさせる細かく刻まれた羽音と共に、昆虫特有の複眼を赤く輝かせハナを睨め付けていた。
ただし、この膠着状態は長くは続かなかった。
熊蜂は散々威嚇しても逃げも隠れもしないハナを見定めると、怒りを我慢出来ず、巨大な顎をカチカチと鳴らしながらハナに突撃するとハナの顔を切断すべく挟み込んだ!
ハナは見事に顔面を捉えられ、普通ならこのサイズ差的に頭を真っ二つにされてもおかしくない位の攻撃だったが…、
『んー、やっぱりコレ位じゃ効かないよね』
ハナは無傷だった。
【龍蛇】の鱗の影響で、攻撃が低いと自動で身を守ってくれるので、この威力なら【金剛の盾】で守る必要も無いと、ノーモーションで熊蜂の攻撃を受けたのだ。
バタバタと焦る巨大熊蜂…
顎の攻撃を一度取りやめ、再度勢いを付けて攻撃すべく飛び立っては急降下し、ハナの細い首を狙う!
『もー!効かないって!!』
ペチンっ!
『ぎゅぃぃいい!!!』
ハナの平手打ちが頬に炸裂!!
熊蜂は余りの痛さにゴロゴロと転がり突然の衝撃と痛みででパニックになっていた。
【鳳凰の嘴】を顕現したハナは、熊蜂に会話を試みる。
《あー、あーどう?話分かる?》
《イタイイタイイタイ!女王様にも叩かれた事無いのに!!》
《おーい…》
《はぁ〜、折角の頬の毛艶が無くなっちゃうじゃない!まったく…》
《あの…》
《なによ!》
《いや、何って襲われたこっちのセリフなんだけど…》
《あれ?私この侵略者と喋れてる?》
ふらふらと羽を羽ばたかせ、【鳳凰の嘴】を装着したハナをじっくり見つめている。
《え?侵略者?私が?》
《そうよ!ここは私のエリア!私が木々を剪定し、整備してる!入ってきた者は不法侵入であり侵略者なのよ!!』
一段と羽音を響かせながら熊蜂は怒っている。
《でもここは人族の国の境界内だから、アナタのエリアって特に決まってないんじゃない?』
《自然に境界なんてないのよ?お馬鹿さん》
ぐっ…、ぐうの音もでない程の正論…。
コレほどまでの強敵は初めて…。
《そ、そうかも知らないけど、ココを通って行く必要があるから攻撃されると困るの!》
《自分の陣地を守る事の何が行けないの?嫌なら別の道を通りなさいな》
た、確かに…それもそうなんだけど…、
《貴女の作ったこの道が凄く通りやすかったし、美しく、素晴らしかったけど、残念…別の汚くて木々の生い茂ってる道を進むよ…》
《…今なんて…?》
《別の汚くて…《それじゃなくて》》
《貴方の作った道が素晴らしくて美しs《それよ!!!》》
巨大熊蜂の複眼がハナを飲み込まんとする様に近づいては唸った
《そう、それよ!?わかる!?この美しき道…私が来るまでは木々や草、土も荒れ放題だったのが今やこの芸術品と比べても何ら遜色のない道…、土も縁石のレベルに合わせて調整しているし、水捌けをよくする為敢えて真ん中を膨らませたり木々も剪定する木を一つ一つ識別たり…他にも色々沢山!!頑張った自慢の道なの!!!!
……あなた!!!》
《は、はい》
《見所あるじゃない…いいわよ、通っても…》
《え?いいの?私なんかが通って怒んない?》
《私今気分が凄くいいの、貴方は特別…通ってもいいわ》
《あ、ありがとう、じゃ…》
巨大熊蜂は初めて人に褒められた事で優越感を感じていた…。そして、今まで誰にも言えずに思っていた事を全てハナにぶちまける事で一種のハイな状態になっていたのであった。
《き…気持ちいい……コレが所謂承認欲求が満たされたって事ね!!》
そう言いながら巨体をぶんぶんしながら飛び回る巨大熊蜂…。
気が変わって襲われても面倒だし…
もう関わらない様にしよう…。
ハナはあの熊蜂から逃げるように、先に進んだ。
獣道が整備されていたのは、こだわりの強い巨大熊蜂のおかげだった…。その整備された道を足早にに突き進んで行くのであった。




