出発前夜
トーニャに[力のストリング]を手渡したその直後の事、いつみても職人気質な気難しい表情をしている猫族調理長が私の席まで来て、何も言わずに急に頭を下げだした。
『え!?ど、どうしたの!?頭をあげて下さい!』
そう言うと、渋々頭をあげ、料理長は少し大きめなコック帽を取る…、その姿は、サラサラの白い髪の毛が七三に別れている猫族にしては珍しい髪型?だった。
『お客にお願い事をするのは俺のプライド上、非常に癪だが…あの仲間に食べさせていた[角にんじん]余っているなら少し分けて貰えないだろうか…、アレは滋養強壮と疲労回復効果が凄いんだが、中々レア物だ…例え市場に出たとしても取る時に大体粉々になっているか、形が悪く効果の薄い柔らかい物しかなくてな…、あそこまで硬く立派な[角にんじん]は出回る事が無いんだよ』
と、振り向きざまに親指でセキを指さす。
あっ、そっか…あの硬い地面だし一番下まで結構深い所まで生えていたからねぇ…普通に掘ったら折れちゃうか。
って、…セキは何してるの?
ハナが見たものとは…、
あまりにも観客が多く、焼いて食べる単純なパフォーマンスから更に効率よく観客から[角にんじん]を貰い食べれるよう進化させたセキの姿だった…。
何故かセキは仰向けになっており、観客の猫族から投げられた[角にんじん]をジャグリングの様に四つ足で器用に受け止め、グルグルと回していくと同時に冠毛から迸る(ほとばし)炎で焼き蹴りながら丁度いい焼き加減になるまで回す、好みの焼き加減…つまり黒焦げ状態の人参を自分の口にポイポイと連続で入れ、それを幸せそうに食べていた…。
周りの観客はサーカスを見ているような感じで勿論大盛り上がりだった。
うわぁ…セキのサーカスになってる…。
ハナは目を瞑り見なかった事にした…。
ま、そんな事より![角にんじん]はセキの案内のお陰で物凄く生えてる場所を見つけてそこから文字通り根こそぎ取ってきたから鞄の中にはかなり…というか超余裕がある。
『おほん!…いっぱいあるから大丈夫だよ?何本あればいい?500本位なら問題なくあげれるよ?』
『そ、そんなに!?………っ成程、
つまり群生地を見つけたって事か…いや、今はそんな事はいい、そんなにあるなら是非譲って欲しい!!』
驚き目を丸くする料理長にハナはそのまま鞄から[角にんじん]を取り出し渡す…、料理長はコレを見越して、隠れていたコック帽の猫族達に次々と自身の厨房へ運ばせて行く。
『コレはありがたい…!今回の争い事の為に、皆に配る高純度な兵糧を作りたかかったから助かった!…まぁこんなには流石に使わないが…コイツは保存も効くし何かにまた何かに使えるだろ。
おっと、願いが先で名乗りが遅れてすまない、俺は[ダル]と言う、知ってると思うがここの料理長だ…
お礼と言ってはなんだが、何か俺に出来る事はあるか?』
おっ?コレは…、
他所の国に行く前に出来るならば、調味料が欲しいなぁ…っと心の底で思っていた…
自分の国と殆ど変わらない味付けが素晴らしかったからだ。
何の巡り合わせか…それが手に入るチャンスが来たって事!?
『じゃあ!可能な限り、調味料が欲しいです!!』
『おっ!アンタも料理ができるクチか!?良いぞ!
…っと言いたい所だが…こっちも商売道具だ、数は余り用意できない。』
『量が無くても少し味変とか出来たら良いと思っただけだから、少しでもくれるなら助かるよ!』
『すまない……で、提案が一つあってな、調味料の材料を何処かで拾ってくれれば、俺もそれで調味料が作れる、材料なんだが…、はてさてどうしたものか…』
ダルは腕を組み考える仕草をしていたが、近くにいたトーニャと目のあったタルオにハナの耳を見てと、ジェスチャーし助け舟を出していた。
『?…おっ!その耳のは[調の涙]か!?
そうか…また"都合の良いもの"を持ってるな』
『"都合の良い?"』
そういうとダルは暫く考える素振りをする…。
『…少しそれに触っても?』
『ん?コレ?いいよ』
そういうと、少し周りを気にする素振りをしながら、
ダルの前ポケットから出したのは白い卵の形の大きさをした手にすっぽり収まる石の様なもの…。
それを周りから隠しながらハナの[調の涙]に優しく当てる。
ピッ
そんなような機械音がした。
@@@@@
追加アップグレード
[追憶の玉子]の一部を読み取り……
完了…。
[食材探索(中)]
[食材鑑定(中)]
以上が[調の雫]に追加されました。
@@@@@
ーーーーーー
ーーーー
ーー
アップグレードって…
魔法って言うか機械みたいだなぁ…
…って今そそくさとダルさんが仕舞ったあの卵が私のイヤリングを強化してくれたって事だよね?
この[食材探索(中)][食材鑑定(中)]は、周囲の食べ物の場所を調べるのと、食べ物を個別に鑑定が出来るって事だよね!?
つまりこれ私サバイバル特化になるやつだ!
『あの…これって『しー…!コレは俺の商売道具の一部だ…くれぐれも内密にな』』
そう、ハナの言葉を遮りながら喋るとダルは片目をつむり、人差し指を口を当てていた。
これは何か秘密がありそう…
まぁ内緒って言われたし仕方ない…言及はしないでおこう…、後、恐らくダルさんから貰ったこの追加機能で、調味料の材料を集めて持って来て欲しい的な事も察されたので答えておく。
『ダルさん、ありがとう。何となく言いたい事分かったよ。またその時はお願いね?』
『話が早くて助かる!
その時は任せろ!!』
そう笑顔で軽快に返事をし、少し待てと言われ店の奥から調味料を一式持ってくると、そのままハナに手渡した。
全て綺麗にビン詰めされており、名称も書かれている為使用方法にはあまり困らなそうだ。
例え何の調味料か分からなければ[食材鑑定(中)]で調べられだろうし中々便利な機能を貰ったなぁっと、しみじみ思っていた。
『ありがとう!これでもし何かあっても道中で色々作れるし助かったよ!』
ハナはダルと硬い握手を交わした。
ーーーーーーー
ーーーーーー
ーーーー
まぁ色々あったけど…
その楽しいお別れ会は意外とアッサリ終わった。
とりあえず何をやっていたかと言えば、見知った顔ブレ…つまりアーチナさんとか、シズさん達と一旦のお別れの挨拶をかねてお話をする…、その際アーチナさんからは飲み水が溢れ出る革製の水筒、シズさんからは昔旅をしていた時に使ってた断熱性が凄い寝袋と、セキ達も入れる程の大きなテントやフライパン等を含むサバイバル用品一式貰った…。
人族の国に着くのに距離がある為野宿する為の道具を用意するのをすっかり忘れていた為、もの凄くありがたかった。
最後の方に急に現れたノルウェルから明日から向かう人族の国への道順が記載された地図と、途中までの道案内をしてくれる話と、私から明日の朝出発するとの報告したくらいだった。
色んな猫族に揉みくちゃにされくたびれていたガクとセキをカードに忘れずに仕舞ってから、私の部屋で身体と服を綺麗にし、疲れた身体を休める為早めの就寝をするのだった。
ーーーーー
ーーーー
ーーー
朝早く目覚め、サクッと旅支度を終える…。
部屋からから出ると、トーニャも丁度出発らしく互いに挨拶する。
『今日はベッドに埋もれ無かったんだね?』
『今回はまるまって寝たからね?トーニャの言う通り沈まなかったよ』
そんな日常の1ページのような会話をかわし、誰もいない静かなギルドをぐるりと見渡すと、扉を開けた。
『お!来たか!!』
『なかなか早起きだねぃ…』
『おはようハナ…よく眠れたかい?』
そこにはシズとアーチナそして、ノルウェルが待っていた。
『おはよう…ってあれ?2人に言ってたっけ?』
そうハナは驚くと、アーチナは腰に手を当て首を振る。
『水臭いねぃ…そのまま行く事も無いだろうに…』
『そうだぜ!せめて出発の時くらいのお見送り位はさせてくれよ』
『いやぁ…昨日いっぱいお話したし、私に付き合わせるのも申し訳ないなって思っちゃったんだ』
これは本音の一部…まぁ一番の理由は、盛大にお見送りとかされると感動して泣いてしまうかもしれないって事は言わないでおく…。
『なぁんだ…まぁ良いけどよ』
と、シズは口を尖らせソッポ向く。
『ハナも困っておるじゃろ…
では、そろそろ出発するかの?』
『うん!お願いします!』
そのまま皆んなで国の入り口である、鳥居を目指し歩く…。
ここに転生して、少しの間だったけど本当色々な事があった…初めは猫族達が立って喋ってるのが凄い印象的だったし、【紋】を使ってたトーニャもカッコよかった…まぁあれは敵対行動だったんだけど…、ここの国の人達は異世界人でそれもこの世界の人族と似ている私と優しく普通に接してくれるしとても居心地が良かった。
ご飯も美味しいし…
そんなこの場所は、明日には人族の侵攻がきて戦場になるかもと言っていた…。
私には国と国のいざこざはどうすることも出来ないが、せめて私の手の届く範囲は守ってあげたいと思う…。
その為にも私の当初の目標…そして皆に期待されている連れ去られた猫族の奪還を早くしなくては!
そう心に決めるのだった。
『では、トーニャ、シズ、アーチナ…お主らは此処までじゃな…』
そうノルウェルが皆に伝える…、いつのまにか鳥居を潜り[天音の草原]が見渡せる国の入り口に着いていた。
『よし!じゃあ皆んな行ってくる『『ハナ!!』』
トーニャの名前を叫ぶ声と共に、ハナを抱き締めた。
『え!?』
『本当に気を付けてね!!…今だから言うけど、ハナはちょっと抜けてる所あるから…』
『そ、そうなの!?』
そう伺う様に見渡すと、シズ、アーチナ、ノルウェルが皆一様にうんうんと頷く。
えぇ…賛同の嵐…
『あはは…なるべく気をつけるよ…』
『まぁそこがハナの良いところでもあるよねぃ』
『あぁ、また向こうでも何かやらかしそうだし色々土産話期待してるぜ?』
と、アーチナとシズからフォロー?のようなものが入った。
『あ、ありがとう…土産話は帰ってきてからの楽しみにしてて』
そうハナは苦笑いしながら伝えた。
ノルウェルはこちらをチラリと見ると、目線で合図をする。
『そろそろ行くかの?』
『うん!じゃあ行ってきます!!』
そう皆に振り向きざまに伝えるハナを、トーニャ達は一度の別れを惜しむように手を振り見送るのだった。




