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至高の薬

ハナはアーチナの居る薬屋さんに向け、夕日をバックに少しペースを上げ駆けていく…。

噴水を挟んでアーチナのお店の看板が見える程そこまで遠くはない為、少し走る程度で噴水を回り込むとお店の現状を確認できた。


まだ噴き上がっている噴水が邪魔でさっきまで少し見えづらかったが、そこには(のぼり)をせっせと片付けているアーチナが見えた。


『あっ!アーチナさーん!』


『ん?…ハナじゃないか!ネネの店に無事行けたんだねぃ?良い感じに仕上がってるし、とても似合ってるよ』


『うん!凄腕だったよ!…入る時辛かったけど…』


『はははっ、あの合言葉だよねぃ?ネネはあんまり客を入れないようにワザとそういう風にしているからねぃ…』


ハナの言葉を聞いたアーチナは軽く笑いながらハナにそう伝える。


『へぇー…お客さんが沢山入った方が儲かるから良いと思うのになぁ』


『まぁそれぞれの商売の理由があるって事さ…、

あっ、そうそう…御注文の品さっき出来上がった所だよ』



片付けるからちょっと待っててと言われ、幟を店の中へ仕舞い終わると、ハナを手招きして店へ案内する。



奥の和室にあった机の上には、手のひらサイズの小瓶が個数で言うと数百個程山積みされており、崩れないようにベルトのようなもので縛られていた。


『少ししか材料持ってきてなかったのに…凄い数』


『品質がかなり良くてねぃ…、張り切ってしまったよ、

ネネの所で[調の涙]も買ってきてるみたいだし、

一つずつ手に取ってみて』


ハナは膝下位のテーブルから自分の頭の先程まで、ピラミッドのように積み上がった薬を一つづつ手に取る。



@@@@@



[兎角(とかく)丸薬(がんやく)

[殺戮兎の角]の低品質な部分を粉状にし、長期保存する用の薬と回復効果のある薬を混ぜ合わせた濃緑(のうりょく)色の丸薬…口に含むも良し!傷口に直接塗っても良し!効果は折り紙付き!



[兎角の粉塵(ふんじん)

[殺戮兎の角]の上質な部分を粉状にし、更に精製した物…そのまま振りかけて使用できるようになっている。骨折や内臓の損傷などにも即時回復効果がある。


@@@@@


怪我をしたら絆創膏を貼るとか、骨折すればできるだけ元の位置に戻してギプスで固めるなど、元の世界では身体を治すには自己治癒力に依存していた筈が…、

この世界ではどうやら違うらしい…薬の説明文的にただただ当たり前の事を羅列しているだけと自信満々な書き方だった、それ程効能に自信があるのだろう…。



『事前に話は聞いてたけど…

こんなに凄い回復薬が沢山できるなんて…』


『いやいや、驚くのはまだ早いよ』


アーチナはそういうと、机の下に隠していた鞄をゴソゴソと漁り出す。


取り出したのは、机の小瓶と比べ装飾のディテールがかなり凝っている、粉塵系の物が詰め込められた黄色味を浴びた細長い小さなガラス瓶と、透明な小さな壺のような瓶の周りにコレまた透明なガラスでできたふたつの円がクロス状にかかっていた…。


見た目で性能が分かる瓶が2種類の瓶をアーチナは片手で器用にもつと、



『驚くのは、これを見てから…』



ニヤリと不敵な笑みを浮かべるアーチナはその小瓶をハナに手渡す…。


@@@@@


[兎槍(とそう)の粉塵]

兎槍と恐れられている、鋭く尖った[殺戮兎の角]の高品質な部分を贅沢に使った粉塵、振りかければ例え肉体的欠損があっても、時を戻すかの様に元の状態に戻す。



[幻槍角(げんそうかく)の霊薬]

幻の槍の如し角…、幻と名が付くように滅多にお目にかかる事の出来ない[殺戮兎の角 秀]…、その中心である、硬い層に囲まれ極少数しか取ることの出来ない柔らかい部位を丁寧に削りだし、エキスを抽出した物。

この霊薬を口に含めば、例え逃れられない死の運命でも確実に生き返る事ができる、これは唯一無二の薬。



@@@@@


『これは…』


ハナは生唾を飲む…



元の世界ではあり得ないファンタジー要素がただでさえ盛りだくさんだったが、この薬の説明文は角の話を事前に聞いていても流石に嘘だと疑いたくなる効能だった…。

腕が生えたりするとか、死者を甦らせるとかそういう薬が今目の前にあるというのはとても現実味が感じられなかったのだ。

だが、あの霊薬はガクの角で作られた物だ、効能は確実だろう。


この薬一体どれ程の価値が…、

少し手が震えたので粉塵の入った瓶は机に置き、霊薬は両手で優しく持っていた。


『……いや、驚きすぎて声が出ないよ、凄い物なのが名前からもビシビシ伝わるよ』


『いやぁ良い顔だねぃ…この[殺戮兎の角]は薬のランクに応じて名前も変わるんだ、(いき)だろう?槍のように見事な角は兎槍(とそう)そして、幻の槍の如し角は、幻槍角(げんそうかく)とのようにねぃ…、[兎槍の粉塵]は20個、[幻槍角の霊薬]は3個出来たんだ、コレも全てキッチリ渡しておくねぃ』


ハナはアーチナから渡された薬を全て受取り鞄に仕舞うと、霊薬の入った小瓶を一つ手に取り中身をコロコロと転がす…透明で粘度があり、白く縁取られた薬液が重力を感じさせるように底に落ちていく…、それを見届けた後それも鞄に仕舞う。


『うん…、カッコイイし効能も凄い!ありがとう!因みにお値段は幾ら?』


ネネのお店でも支払ったし、こんなにも貴重な物を作ってもらったアーチナに支払う金額はかなりなものだろうと覚悟していたが…



『いいや、お金はいい…高価な素材を全て用意してもらって、客からお代は受取れないよねぃ』


『え!?それなら私アーチナさんの商売の邪魔しただけになるんじゃ…』



『お金はいいと言ったけど、タダとは言ってないよ?』


『え?どういうこと?』


不敵に笑うアーチナにハナは何か面倒くさい事を頼まれそうな気配を感じた。




『いやぁ…ずぅーっと欲しいものがあってね…、


それは、、、

作り方も不明、存在自体が謎であり、、

何処か遠くで製造されていると言われている…



[お酒]というものが欲しいんだ!』



『…』



暫くの沈黙…



『うぇ?お酒?…飲みたいの?』


瞬きしながら素っ頓狂な声を出すハナ…。



『そりゃあ飲める物なら飲んでみたいさ!ここにはマタタビミルクしかないんでねぃ!酒は百薬の長とも言うし、多種多様様々な物があると言うじゃないか!薬屋として…いや、職人として是非とも飲みたい!』


両手を広げ熱く語るアーチナをジトっと見るハナ…、


言い訳がましく聞こえちゃったけど、言われてみれば確かに酒場のメニューがマタタビミルクのみだったから飽きちゃったのもあるのかもね…。


というかあそこ"酒場"って名前なのに、何故お酒がないんだろう…、少し気になるなぁ…、まっいっか。



『まぁ、そんな事なら全然大丈夫だよ?人族の国にあると思うから見つけたら持ってくるよ』



『何故人族の国にあると?』


アーチナは何で分かるのか疑問を投げかけた。


『私の元居た世界では、お酒は人が作る物だったからだよ。だからこの世界では人族の国が一番作ってそうと思ったの』


『なるほどねぃ』


ハナの知ってる知識だったか…、とアーチナは納得した様子だった。



『あっ、じゃあ支払いは色んなお酒って事で、この机の薬全て持って行くね!

…後コレ鞄に詰めたら私もう行っても大丈夫そう?酒場に寄らなきゃ行けなくて』


『大丈夫だよ、また何かやらかして、トーニャに呼ばれたのかい?』


アーチナはニコニコ笑いながら聞いてくる…、この間トーニャに怒られたのが大分広まってるなぁ…。



『今回はそう言うのじゃ無くて!…多分…、

皆んなを呼ぶってトーニャが言ってたから、アーチナさんも呼ばれると思うよ?』



『そうか、なら今日は早めに向かうとしよう…』


『あっ、ちょっと待っててね』



ハナは薬を受け取るべく、机に固定されていたベルトを外すと、鞄に薬を全て入れていく…。


新しい鞄の機能性が凄く、腰側のベルトを外すと斜めがけのストラップが残って余裕が生まれ鞄をハナの前面に持ってこれる、

しかも鞄の蓋部分を止めてある差し込みベルトを外すとガパァっと大きく口が開くようになっている為、小瓶をポイポイ投げ入れるように、次々と無理なく入れる事が出来た。



『よし!コレで全部だね!薬ありがとう!』


鞄の腰側ベルトを取り付け、そうアーチナに言いながら振り返る…


だが、ニコニコ顔だったアーチナは少し冷静な表情になっていた。



『ハナ…霊薬について大事な話が一つ話があるんだ…、

あの霊薬はエキスの抽出に猫族の秘技が詰まっている…、渡した他の薬は既に造り方すらも流通していて特に問題無いんだけど、この霊薬だけは絶対に他種族…特に人族に見せてはいけないよ?奴ら何してくるか分からないからねぃ。』



『…うん、何となくそんな感じがしてた、気をつけるよ』



昔から人は死と言うもの対してかなり臆病な生き物である…。

永遠の命やら不死の薬、死者蘇生とかそう言うものが現実に存在し、それが容易く出来るものが目の前にぶら下げられると、それを得る為に人は何をするか想像に難くない…。



『分かっているならよし!じゃあまた酒場でねぃ!』



『じゃあ、またねぃ!』



アーチナは安心した様にニコッと笑顔になると、手を振り、

言葉尻を真似っこしていたハナを送り出したのであった。

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