天駆ける赤燐暴馬
怒りの形相で轟々と炎を吹き出す[赤燐暴馬]と、下手に動けないハナ…そのハナが動けなくなった直接の原因である[角にんじん]を食べ過ぎて球体になったガクが幸せそうに眠りながらまるで西部劇のタンブルウィードの様にコロコロと転がっていた…。
何でこの馬はそんなに怒ってるんだろう…
あー…多分此処はこの馬の縄張りなんだろう…そこに私達が入って勝手に[角にんじん]を漁って食べていたとなると。
そりゃあ怒っちゃうか…。
仕方ない…それじゃあここは…丁重に…
縄張り争い!
ハナは[鷹の目][月兎の耳][荒熊の爪][白虎の脚][金剛の盾]を顕現する…[百獣の牙]は、お留守番。
[赤燐暴馬]は[紋]の顕現と共に、そちらに戦闘の意思ありと一気に駆け出す、こうして戦いの火蓋が切って落とされた。
[赤燐暴馬]は一直線に突撃しようと土を蹴る…赤黒い立て髪より発する炎が更に青く火力を高める。
脚力を上げたのか蹴り上げる土の量が増え、スピードをぐんと上げた。
そこまで距離を取っていなかった為瞬きをする間にハナの近くまで迫ってきた。
『見えてるよ!』
[赤燐暴馬]の攻撃から身を護るべく、[金剛の盾]を横に三つ並べた。
ドッ!!
盾は[赤燐暴馬]の炎を纏った体当たりを受け止めると同時に[白虎の脚]で地面を叩き、受け身のように衝撃を逃す…。
[金剛の盾]で守りきれなかった炎は【龍蛇】の影響により身体には当たらなかった。
普通の生身の人間なら、この熱と衝撃で消し炭になってそう…。
『じゃあこっちの番だね…』
ハナは不適な笑みを浮かべたが…
キィィィン…
[月兎の耳]が[赤燐暴馬]から発する何かの異常音を聞き取る
『これは…なんかヤバい!!』
ピンボールのように木にぶつかった後、目を回しながら近くまでゴロゴロと転がってきたガクを回収するため額にカードを当てようと素早く[白虎の脚]で駆け寄る。
…カッ!
ギリギリだった…飛び込みながらカードにガクを格納し救出した後、[赤燐暴馬]の額から発せられた光線のような攻撃により、下から噴き上がる爆風に巻き込まれた。
その余波で湧き上がる炎は[金剛の盾]のオート防御で当たらなかったが、衝撃で森の外へ弾き出された。
『うわ!!』
ぐるぐると強制的な縦回転を止めるべく、
[白虎の脚]で何度か空中を蹴り体制を整える…。
『うぇ〜気持ち悪い……って、えぇ!?』
[赤燐暴馬]は足元に新たに炎を生み出すとそれに乗り、空を襲歩の姿勢で一直線に駆ける…何か粘度のある炎を蹴っているためか、音もなくハナへ再度突撃していた…。
空を飛ぶ馬って…
まるで…ペガサスじゃん!ちょっと違うけど…
でも…いいね!
カッコいい!乗ってみたい!!
でも、反撃したら多分倒しちゃうし…どうしようっか…。
ハナは煌々と燃える[赤燐暴馬]を倒す事より、どうにか屈服して背中に乗せてもらう事に考えをシフトチェンジした。
とりあえず距離を取ろうと行動しようとしたが、向こうの初速が早く、別の事を考え油断していた為、素早く懐に入り込まれる…、
[赤燐暴馬]は暴馬のように前腕をバックステップさせ、慣性の法則を利用し、振り向きざまに自分の体重と速度を絡めた強烈な蹴りをハナに放つ。
『ぐぅ!』
[金剛の盾]が何とかハナと[赤燐暴馬]の間に入り、直接の攻撃を防ぐ…、だが衝撃のみがハナに伝わったのか、腹部を平手で叩かれたような鈍い痛みがハナに伝わる…。
『うぅ…痛った…』
【龍蛇】の能力で防御力が上がってるとはいえ…この位の攻撃でも内臓への鈍い衝撃は伝わる…。
[金剛の盾]がなかったら今のはヤバかった…。
多分吐いてた…。
『ん?痛い…?衝撃…、
あっ!でもこれをするにはどうする…!?』
ハナは[白虎の脚]で空中で姿勢を整えながら考える…。
『一枚じゃ…無理…ガクのさっきのピンボールみたいに…』
[赤燐暴馬]はあの蹴りを喰らって、問題なく動けるハナに驚いた表情で見つめる…
それも一瞬でまた怒った表情になり、炎を噴出させながら物凄い勢いで突撃する。
ハナは特に対策もせずに黙って[赤燐暴馬]を待つ。
キィィイン…
[赤燐暴馬]はハナにぶつかる瞬間に、カッっと言う衝撃音と共に前方に圧縮した熱の塊を頭部の立て髪より放つ。
それはまるで閃光のような目眩しと、光線のような純粋な熱エネルギーの爆弾…
不意を打ったと、[赤燐暴馬]は勝ちを確信した。
だが、
消し炭になったハズなのに何処にもいない…何処へ!?
ハナは両手を広げ宙を舞っていた…。
それをまるで闘牛を操るマタドールのように鮮やかに光線をかわす。
昼に[鷹の目]と[月兎の耳]が使えるのだ…
『お馬鹿さん…流石に2回目は通用しないよ?』
当たる訳がない。
ハナのニヤッとした笑顔を[赤燐暴馬]に向ける
『そしてコレなら…どうだ!!』
上空に躱していた身体を腕を縮めるようにし捻り、顕現して光線の余波から体を守っていた[金剛の盾]を4枚全てを[赤燐暴馬]に向ける…そしてこの[金剛の盾]越しに本気の[荒熊の爪]を叩き込んだ。
ドガン!!!!!
ゴゴゴッゴン!!!!
[荒熊の爪]はハナの本気のパンチにより、空気の摩擦により、炎を一瞬纏ったその攻撃を[金剛の盾]は受け止める…。
そして、受け止めた[金剛の盾]は余りの威力にボロボロになりつつも、ビリヤードの玉の様に[金剛の盾]を一つ一つ弾く、これはガクのピンボールを見て思いついた作戦…、
それは…
直接当てるとオーバーキルしてしまう攻撃を[金剛の盾]で順次威力を殺し、吸収仕切れない衝撃のみを相手に当てる。
名付けて…、ビリヤード作戦!
3枚目と最後の4枚目の[金剛の盾]同士がぶつかると、計算通り衝撃のみを[赤燐暴馬]の背面部分にぶつけることが出来た。
それがかなりの衝撃だったらしく、激しく骨と内臓を揺さぶる威力に[赤燐暴馬]は耐えきれず『ヒヒーン』と情けなく叫び地面に向かい、凄まじい速度で落下する。
『やった!一撃!!
って…、この高さ堕ちたら流石にヤバい!!』
ハナは[赤燐暴馬]を救うべく、急いで[白虎の脚]で地上に向け真っ逆さまに駆け抜ける…だが、本気の[荒熊の爪]の衝撃は凄まじかったのか、力無く落ちる[赤燐暴馬]を重力とともに更に勢いよく地面に吸い寄せる…。
『間に合えー!』
やがて青々とした木々の頭上と衝突まであと数秒の所にまできた…
『あと少しで届くのに!!』
そこでハナは先ほどの攻撃でボロボロになった[金剛の盾]を近くに引き寄せ[赤燐暴馬]に手がギリギリ届かなかった所を、その盾の裏で掬い取るように乗せ、地面との"直接衝突"の危機を脱した…。
直接衝突を…と言う事は…。
バキバキッ!!
バキバキバキバキッ!!!
ズザザザァァア!!!!
思い描いていた空中での回避が出来なかった為、木々をへし折りながら地面に落下する…衝撃を少しでも逃がす為[金剛の盾]を斜めに滑らすように着地した。
『あはははっ、危なかったぁ!』
『ヒッ…ヒヒン…』
ぐるぐると勢いを殺す為[金剛の盾]の中でコマのように回転しながら、ハナは中々のスリルだった様で楽しそうにカラカラ笑っていた。
そして[赤燐暴馬]はその名前を冠しているのか疑問に思う程、情けなく盾の裏で仰向けになり一言吐くとすぐさま気絶するのであった。
ーーーーーー
ーー
《おーい!大丈夫?》
《ふー酷い目にあったぜ…なんであんな化け物がこんな所に…》
気を失って眠っていた為、目があまり見えなかったが、脳内に響く声に起こされ目覚めた。
そこには顔に妙な装飾品を身につけた、さっきの理不尽な化け物と同じ顔のヤツが微笑みながら俺様を見ていた…。
《誰が化け物って?》
《ウワァァア!化け物!!》
《誰が化け物…よ!》
ピシャン!
ハナは勢いよく[赤燐暴馬]の尻を叩く
《ギャァァァア!!》
あの化け物が自分の尻を叩いた為、尻が千切れ飛んだと思ったが、あの腕の装備が無かったので尻は無事だった。
ただの平手打ちでこんなに痛いのか…
[赤燐暴馬]は痛みで涙を流す。
《っで、これで私の勝ちでいいよね!?》
《あ…はい…》
何故この化け物と脳内で意思疎通できるのか分からないが、強者による未知の能力として特に驚く事は無かった…、
まぁどっちにしろ縄張り争いに負けたんだ…俺様はこの人に何を命じられても仕方ない…それが闘いに敗れ生かされた[赤燐暴馬]の定めってもんなのさ。
かの[赤燐暴馬]はハナとの対決の末、服従を違うのであった…。




