兎は何食べる?
[天音の草原]についた、相変わらず青々と茂った草達が風がなびくにつれ右、左と力も無くたださざめいていた。
ハナはその中で特に力強い風を感じたあと、風に乗って運ばれる草原の匂いを感じるべく、深呼吸をする…広大な大地の香りと、草の青々とした香りが肺を満たした。
さっきのトーニャとの話を思い出し、少しニヤッと笑った後、
カードケースからガクのカードを擦る。
『よし!ガク出てきていいよ!』
『はっ!、此処に連れて頂き感謝いたす!
早速ですが、我の食べ物を探しまする故!』
ガクは出てきて早速目当ての物を探すべく、兎の様に小さくハナを鳴らすと、方角か何かを探すようにキョロキョロ見渡す…。
『ハナ様!見つけましたぞ!少しばかり私の後についてきて下され』
『オッケー!いつでもいいよ!』
[白虎の脚]は起動している、ガクの道案内があるなら、特に他の[紋]を起動する必要も無いだろう…。
ス…ドンッ!
ガクは初速の段階でまるで音を置き去りにする様な速度で走る、私も負けじとガクの後を着いていく…、追いつけない事はないけど中々の速さだ…。
[白虎の脚]で此処までの速さで走った事がないなと思いながら、風が耳元ではためくお音がやけに煩い中、道中のモチッコや小鬼がぶつかっても特に気にせず、私達は弾丸のように駆け抜けていく。
[月兎の耳]つかえば良かったな…こんなに音が五月蠅かったとは…いつも移動の際に起動している[月兎の耳]を不要な音よけの為に顕現してなかったのを少しだけ悔やんだ…でも別に無いからといって特に問題はないのでこのまま行く。
ザザッ
ダダダッ
ダダダ…
ーーーー
ーー
ガク…少しって言ってたよね?
結構走ってるんだけど…
体感20分程の距離を音を置き去りにするペースで走っている…。
『あれ?こんな場所あったんだ…』
だんだんと、傾斜がキツくなり草原というより森の様に木々が生えている場所に入って行く…。
草原を走っていてもこの森の存在に気づかなかったのは、この場所が草原の下側にあるからだろう…。
図形で表すと台形の上が草原で、その斜面を降りて下側が森…そういう構造だった。
鬱蒼と生えている木々の前に着くと、先程の草原と葉の種類が違う場所で、ガクは立ち止まりハナに振り返る。
『御足労感謝いたす!ここですぞ!!』
『ここ?木と草以外何も無いよ?』
『いえいえ…この下ですぞ!我にお任せあれ!』
ガクは葉っぱの下の土を掘るべく、ふんふんと鼻息を鳴らし、ウキウキで角を地面に刺そうとする…
『…』
ガクは固まる。
『あっ…』
そうガクの角はもう無いのである。
『そうか…我は1人で食事も取れなくなったのか…』
ガクがまた小さくなり泣きそうになっていたが…
『任せて!此処を掘ればいいのね!はい!』
ドォォンン…ベリベリベリベリッ!!!
ズドォォオン…!!!
ハナはその涙を阻止するべく、
顕現した[荒熊の爪]で土を掘ろうとついつい力んでしまったのか、勢い余って地面の根っこごと絨毯の様にベリベリと引き剥がし木々を吹き飛ばした…。
その光景にガクはすっかりびっくりした子供の様に涙が引っ込んだ。
地面に現れたのは…
鮮やかなオレンジ色が特徴で、見た限りでは1m程の長さがあるにんじんが、まるで畑のように沢山あった。
普通のにんじんと比べて、地面にかなり深めに乱雑に潜っているのか、[荒熊の爪]で吹き飛ばしていたけれども、どれも全体を確認出来なかった
『うぉぉ!流石ハナ様です!!こんなに沢山[角にんじん]が取れるとは!!ありがたや!ありがたやー!!』
ガクは先程とは違う涙を流し、ポコポコと出ている[角にんじん]にかぶりつく…食べ残しはしまい!と、下に埋まっている部分は一生懸命手を使って土を掘りながら食べていた。
『幸せ〜…』
本当に幸せそうに食べていた。
ハナは大体の葉っぱの種類がわかったので、人族の国に一緒に行くガク用の食料として、他の場所も[荒熊の爪]で掘り起こし[角にんじん]を[異空間の鞄 莫大]にポイポイっと放り込んでいたが、どんな食べ物か気になったので、ピアスの[調の涙]の効果を使う為、意識して掴んでみた。
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[角にんじん]
見た目が角の様な形の人参、樹木が生い茂る硬い土壌で生息域を広げるため、大きくて硬く、そして真っ直ぐに育つようになった。
[殺戮兎]
[赤燐暴馬]の好物
主に[天音の草原][忘却の古城]等の森林地帯の地中深くに自然と生えている事が多い。
毒は無く、葉、根共に生食可能。
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[赤燐暴馬]…ヤバそうな名前が和やかなにんじんの説明に出てきたよ…。
おそらく、ここじゃなくて[忘却の古城]に居そうな感じがする…。何層か分からないけど…、
[天音の草原]に普通に居るならトーニャも絶対教えてくれるハズだし…。
まぁ人族の件を片付けて、全部終わって帰って来た時に深層をトーニャと探索した時に出会うでしょ!
パリパリ…
もぐもぐ…
パリパリパリパリ
モグモグモグモグ
『もーガク、好物だからと言ってがっつき過ぎだよー!ここの分は旅の食料になる…ん…だから…』
振り向くと、馬がいた…
美しい黒い毛並みで、赤黒い立髪が立派な大きな馬。
こちらを警戒するように睨み付けながら、人参を口に掻き込んでいるように食べている…
『は、ははまさか…あの[赤燐暴馬]じゃないよね…?』
冷や汗を滲ませ目線を離さずジリジリと後ずさる…。
《ガク!!多分緊急事態!!》
《うぅ〜ん…もう食べれませんぞ…》
お腹いっぱいで寝ちゃってる!?
これ逃げれるかな?…
逃げられなくてもし仮に[赤燐暴馬]だったとして、闘うとしても、私の攻撃が万が一ガクに当たったら[名付け]で強化してるにしても流石にヤバいよね…
先にカードに戻そうかと、ガクの場所を確認するべく目線を少し外す…
ボンッ!!!
それが相手には良く無かったみたいだ…
激しい爆発音と共に馬が発火した、その余波で周りの人参が宙に浮き吹き飛ぶ。
[赤燐暴馬]を冠する名に恥じぬ、堂々とした風貌…黒い毛並みは自身の炎を纏い、黒の立て髪は青く炎を噴出し、そこが特に火力が強いのを表していた。
因みにガクはその反動で眠りながら団子の様に転がっていた。




