兎も角!仲間になった!
龍蛇と呼ばれていた、大蛇を倒し[紋]を限界寸前まで顕現し、気絶するように眠ってしまったハナ…。
そこにいた角無し兎は、住処と多くの仲間を奪った大蛇を倒し、眠っている人族…いや、英雄を守るべく、自分の住処であった古代都市の中の一部屋まで、パーカーの猫耳部分に噛みつき引き摺って行くのであった…。
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『あ、れ?此処は?』
そう呟きながら身体を起こす。
完全に見覚えのない場所…身体は…何故か泥だらけ…。
『助かった…のかな?』
そう呟きふと、お腹の方をみると茶色の毛玉…
角無し兎が気持ちよさそうに寝ていた…。
『君…ここまで運んでくれたんだ、ありがと』
身体を撫でながら感謝を伝える。
返事はない…ただ気持ちよさそうに寝ているようだ…。
周囲を改めてみると、此処は何処かのお城の中の衛兵の詰所的な感じと見て取れる。
天井は高く狭い部屋に一つの扉、その扉には閂なるものが挟まっていた。
この兎がやったのか…、ここなら敵が来る心配もないな…。
『安心する…いい隠れ家だね…。』
撫でながらそう伝えると、角無し兎が目を覚ました。
バッ!
『ぐえ』
ハナの腹を蹴りながら飛び起きる、兎自体何故この人族の上で寝ていたのか分からず混乱し固まった。
ハッとした後、兎は深々とお辞儀をするように頭を垂れる…。
『もー…そんな照れなくたても…って何故に頭を下げる。』
多分あの蛇を倒した事のお礼なのだろう…
一様彼?彼女?の気持ちを組んであげようと、頭を撫でてあげるのだった…が、
ゲシッ
『いてっ』
恩人ではあるが撫でられるのは初めてで、慣れていない為、防衛本能で手に蹴りを入れてしまった…。
色々な謝罪を含めまた深々と頭を下げた。
『はいはい触られるのは嫌なのね、所で此処は君の住処?』
『?』
やっぱり伝わらないか…ちょっと待って、アレなら!
ハナは、後頭部から鼻先をぐるりと覆い、宝石のような装飾を施された鼻を隠すような、緋色の小さな嘴の形が特徴の【鳳凰の嘴】を顕現する。
この【鳳凰の嘴】の能力は、お互いに存在を認識し、実際に声を知る事が通信の条件で、それが達成出来ていれば遠距離にいながら思念で連絡を取る事ができる便利な[紋]。
だが、繋がりが強く無ければあまり遠い距離を通信出来ないというデメリットもある。
ただ魔物との思念での会話の条件は流石に不明だが…。
兎さんの声は、あの威嚇の時の声を聞いたから大丈夫なはず…!動物との通信なんてやった事ないけど…
《どう?聞こえる》
《おぉ…我が救世主様と話が出来るなど感服の極み…!
際ほどは驚きの余り無礼な対応をしてしまい申し訳ありませぬ…!寛大なるご慈悲を…》
えぇ…なにこのイケボ兎…、侍みたいな話し方…、
と言うかやっぱり[紋]って便利だなぁ。
《いや声…まぁいいや…、こっちこそごめんね…
あの時仲間を倒したのもそうだし、角も折っちゃって…》
《いえ!先に仕掛けたのはコチラ…!救世主様の謝罪など受け取れませぬ!それに我が一族を皆殺しにした、憎き龍蛇を撃ち破れるのならば、散って行った仲間も本望でしょう!
そして、この私の至高で究極の…うぅ…自慢の…角などぉ!…くっ、如何様にもしてくださって結構!》
大分未練あるなぁ…
《そっ、そっか…あの大蛇…龍蛇って何なの?なんであんな強い奴がこんな所にいたの?》
《よくぞ聞いてくれました!あの龍蛇は三日ほど前、この遺跡の奥にある地底湖より突如現れました…此処を住処とする我等は初めこそ、警戒しておりましたが、二日間あの龍蛇が一向に地底湖から上がる事は無く、水が無いと生きていけないと思い、特に問題は無いと判断いたしました…、
ですが…その判断は間違っていました…。
監視の目が無くなった本日、突然の事、外への道をあの巨体で塞ぎ、我らを閉じ込め仲間を喰らったのです…、一つまた一つと命を失い、それに抵抗するべく突撃し、討伐は叶わなくても撃退しようと懸命に攻撃しました…。
しかし…、お察しの通りあの鱗は攻撃を通さず、尾の攻撃は不可視の如き素早さ、あの破壊力…。
仲間の弔い合戦を、と隠れていた仲間全てで、命をかけ総出で立ち向かいました…それが全て読まれていたのか、背後に回り込まれあの蜷局に閉じ込められました…、
我らは龍蛇の身体に一太刀入れ脱出するべく…、必死の抵抗をしましたが…、どうにもする事は叶わず、あの龍蛇に命を失う覚悟を決める時間を面白半分に与えられただけでした…。
だが、我らタダでは死なんと、蜷局の中皆で必死に穴を堀り…その中に隠れる者を…決め…ました…。》
兎の目に涙が浮かび、頬を伝う。
《うん…うん…辛かったね…》
ハナも感極まり泣いてしまう…
《はい…、短時間で掘れた穴は小さく…5匹がやっとの大きさでした…、その中には入るものは若いメス二匹、実力のある我の供回り二匹、そして当代[殺戮兎]元首の我。
が選ばれたのです…、異論は無く皆満場一致で決まった事でした。》
《ん?殺戮…兎?》
ハナは聞き慣れない物騒な言葉に涙が止まってしまった。
《その穴の中は…最悪でした…。
皆ぎゅうぎゅうに詰まり、バレないよう上から土を被され呼吸も満足に出来ない土の中…、闇の中で聞こえるのは仲間達が締め上げられ喰われたであろう呻き声…悲鳴、土の中に染み込んでくる同族達の血…、
だが、我は…我らは!その仲間の生命を無駄にしない為…!耐えたのです!。
でもその時間は驚く程早く…音も、直ぐに止みました、
龍蛇はワザとらしく音をたてながら、何処かに去っていき音が遠く無くなってから土から這い出ました…。
其処には恐ろしく音も何もない静かな空間しか無かったのです…、夥しい血溜まりが残っている以外は…
そして我等一族は五匹と、なったのです…。
救世主様と出会ったのはあの後洞窟を脱出した直後でした。》
いやいやいや……ちょっと待て!
……待って欲しい!
…倒すには最悪のタイミングじゃないか!
血も涙もない人間とはこの事を言うんだな…
コレは流石にへこむ…べこべこだ…
《本当なんて言えば…ごめんなさい…。》
日本式で言う土下座を兎にする…これで気が晴れることは無いと思うが、もうコレは私が角兎の一族にトドメを刺したようなもので、今出来る事は謝罪だけなので頭を地面に擦り付けるように土下座をする。
《やめてください!救世主様!!我ら[殺戮兎]は他にもコロニーを構えておりますので、私がいればそこで新たに一族を立ち上げることができます!ですので問題ございません!》
え?他にも兎のグループがいるの?
でもそれでチャラって事には…
ならない、なる筈が無い。
頭を上げ、ハナは正座で兎の目を見据える
《いや、私の気が済まないよ。大変だったんでしょ?
何か望む事はある?私はあなたの力になりたい》
《なんとっ!…うぐ…ぐすっ!ここまで心が清らかだとは…
その心意気に感服いたしました![殺戮兎]の元首たる我は救世主様のお側に置いて頂けるならば他に何も必要ございませぬ!》
兎は前足で涙を拭う素振りをし、カッとハナを尊敬の眼差しで見つめた。
《私と一緒に来たいの?…まぁそれは良いんだけど…色々大丈夫か確認してからでいい?》
《はい!救世主様にはご迷惑はお掛けしませんので!是非とも!》
魔物なのに中々律儀なものだ…。
賢そうだしこの角無し兎は珍しい部類なのかもしれないな。
《救世主様はちょっと恥ずかしいから、私はハナって名前だからそっちで呼んでほしいかな?、そう言えば貴方は名前は無いの?》
《ハナ様…!なんと甘美な響き!今後は不躾ながらお名前で呼ばせていただきまする…!
そして、我の名の件ですが、まず名持ちの魔物などまず居りませぬ、あの龍蛇がその辺にウヨウヨ居ればこの世界も終焉で御座いまする》
成る程…モチッコとか小鬼が名持ちだった場合、あの龍蛇と同じ強さになるのか…それがウヨウヨ…
終わるね、世界。
《んじゃあ、私名前付けてあげるよ!呼び難いし…兎でしょ…んー、ぴょん太!》
《正気で御座いますか?》
兎の全力のジト目を喰らったハナは安直な名前を辞めるべく、考える。
『角…兎…かく…がく』
あっ!
《[ガク]!コレ良いんじゃない!?》
《おお![ガク]ですな!承知いたしました!ハナ様、コレより我は[ガク]と申します!コレで名待ちの端くれ!嬉しいですぞ!》
ガクと名付けられた角無し兎は、ぴょんぴょんと飛び跳ね喜びを表すのであった。
やっぱりぴょん太の方が似合ってるんじゃ…、
一様候補として、角兎…ガクトもあったが、兎にはカッコ良過ぎる名前なので却下したのは内緒の話。