第1話 魔王を倒した勇者
「これで終わりだ」
俺は迫り来る獄炎を斬り払い、そのまま魔王へと手に持つ聖剣を突き刺した。
「ぐわあああぁぁぁっっっ!?」
魔王の断末魔が城内に響き渡ると、奴は異形で恐れられたという姿から、人間の女性に翼や角が生えた様な姿へと戻っていく。
「よもや……魔王であるこの我が……本気を出して人間ごとき……それも、たった1人相手に敗れるとは……!」
魔族の王、本来への姿に戻った魔王は絶えず魔力を霧散させ、存在が朧気になる。
「1人ではないぞ。お前の四天王とやらは仲間がおさえてくれているからな」
この魔王の間の外では、ここまで旅をしてきた仲間達が邪魔の入らないよう、扉を守ってくれているらしい。
だから1人で戦いに来たわけでは無い。
仲間の1人、聖女マリスも『私達は皆で力を合わせて戦っているのです』とよく言っていた。
だが、魔王は俺の返答が気に入られなかった様で、憎し気な目で俺を見てきた。
「この……化け物め……っ!」
そう言って、魔王は消滅した。
「化け物、か――」
俺は剣を《異空間倉庫》に投げ入れ、吐き捨てる様に言う。
「もうとっくに言われ慣れた言葉だな」
俺は魔王の消滅を確認すると、門の外に出て行った。
■
「ん?」
魔王の間の扉の外に出た俺は、周りの光景に目を細める。
「誰もいない……?」
そう、扉の外で戦っているはずの仲間が居ないのだ。
「激しい戦闘だったから外に避難したのか?」
本気を出した魔王は天井を破壊する程巨大化し、その戦いは城が崩壊寸前になるほどだった。
だから危険を察知して先に城外に避難したのかもしれない。
「なら、俺も外に出るか」
俺は城の外に出る為、魔法を発動させる。
――《転移》。
そう念じた次の瞬間には、もう城の外に出ていた。
「おっと……」
城の周囲に目を向けると体が少し傾く。
「流石に魔力を使いすぎたか」
――魔力不足。
魔王はこれまで戦ってきたどの敵よりもたしかに強かった。
【勇者】である俺にしか出来ないと言われた理由がよくわかる戦いだった。
ここまで魔力を消費したのは一体いつぶりだろう。
久しぶりの感覚に戸惑うが、俺はしっかりと地に足を着けて立った。
「さて、マリス達は何処に居るんだ?」
俺は今度こそ周囲を見回すが周りには誰も居ない。
まさか、まだ城に居るのかと思い、魔王城の門の方へ振り返る。
そうすると丁度その時、門がゆっくりと開いた。
「え、エルト?」
「は? そんなわけ無いだろ?」
「いえ……、たしかにエルトさんですね」
門から出てきたのは俺の仲間達だった。
「遅かったな。お前達」
俺は外に出てきた仲間達へと声をかける。
「お前、どうやって俺達より先に城から出たんだよ?」
「転移魔法を使っただけだ」
この少し粗野な感じで鎧を纏った赤髪の男はフレン。
俺達の国の王国騎士団、その次期団長とも呼ばれている実力ある騎士だ。
「それにしたってお前……幾ら何でも速すぎるだろ……」
「まぁまぁ、フレン? エルトの強さはよく知っていることだし、今更だと思うよ?」
この少女はラウネ、ブラウンの瞳に長い緑の髪を持つ彼女は王立魔法学院を主席で卒業したエリートなんだそうだ。
物凄く背が低く、幼児体型な彼女だが、これでも17歳で俺達と同い年らしい。
そんな風に彼女を見ていると、不意に視線が合った。
「……今、エルトの視線が物凄く失礼だった気がする」
「気の所為だ」
「本当かなー?」
疑わし気な目でラウネは俺を見ている。
こういう時、彼女はしつこいので何としても誤魔化したい。
「ラウネ、余り人を疑うのも良くないですよ?」
「マリスがそう言うなら……、はーい」
俺の考えを知ってか知らずか、ラウネから徹底的に目を逸らしていると、助け舟を出してくれる仲間がいた。
今俺に対してフォローを入れてくれた蒼銀色の瞳で金髪の女神官が、聖女マリスだ。
俺を【勇者】だと予言してくれた人でもある。
彼女のおかげでラウネの追求から逃れる事ができた。
「はぁ……」
彼女は呆れた様にため息を吐く。
こういう時、いつも仲裁に入ってくれるのは彼女だ。
ここは感謝の言葉を1つくらい言った方が良いだろうか?
「ありがとうマリス、おかげで助かった」
「……っ!? い、いえ……、仲間として当然の行いです。それよりもエルト、遂に魔王を倒したのですね?」
こっそりマリスの耳元でお礼を言うと、彼女は俺に向き直り、魔王討伐の完了を確認してくる。
そしてその言葉に、皆が真剣な顔つきになった。
その視線は全て俺に集まっている。
期待をしているのが俺にもわかる気がした。
それに、どのような答えを求めているのかも。
だから俺は――、
「ああ、そうだ。魔王は倒した」
――その期待に応えられる言葉を選んだと思う。
言葉を聞いた皆が息を呑む。
「そうですか、遂に……」
声を出したのはマリスだけだが、他の2人も神妙な表情だ。
当然だろう。
皆、何かしらの目的と期待を背負ってこの旅は続けてきた。
そして、この功績を持ってフレンは正式な騎士団長に、ラウネは王国の筆頭宮廷魔道士と専用の研究室が与えられる。
マリスはこの旅が自身の使命だと言って何も望まないらしいが、この戦いの前に、自分を育ててくれた教会に恩を返せるのが嬉しいと言っていた。
それぞれの目標を抱えて、続けられていたこの旅が遂に終わるのだ。
そう考えると、全員が神妙な顔になっているのは仕方が無い事だと思える。
だが、いつまでもこうしている訳にはいかない。
「さて帰ろうか、王様に報告をしに行こう」
「……そうだね!」
「……そうだな」
「…………そうですね。帰りましょう、私達を待つ王国に」
俺は皆の様子を見て適当な頃合いでそう切り出し、王国へと帰還した。
道中は《ゲート》の魔法を使えば一瞬で帰れるのだが、マリスの『折角なので皆で歩いて帰りませんか?』の一言により、徒歩で帰還することになった。
わざわざ時間をかけて帰る意味はわからないが、多数決で2人ともマリスに賛成だったのでそれに従うことにした。
だが、その帰り道で3人の旅を振り返りながら話す笑顔を見ていると、これで間違ってなかったのかもしれない。
そうして俺達は時間をかけて王都へと戻り、その日のうちに王様へと魔王討伐の旨を報告した。
――そして、その翌日
俺は牢獄に入れられていた。
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