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5話 十兵衛、初依頼をこなす。

十兵衛、初依頼をこなす。




傭兵ギルドで色々あった翌日。

わしは朝一番でギルドに行き、壁に張り出されている依頼表を見ていた。

周囲には、駆け出しの若者から玄人っぽい者たちまでひしめいている。


なになに・・・

ふむ、護衛から討伐、街中のゴミ掃除からお使いのようなものまでなんでもあるの。


護衛はまだ土地勘がないのでやめておくか。

あまり遠出をするような依頼も時期尚早じゃな。

なにかいいものはないかの・・・


「何にしたらええかの、アゼル」


「そうですね・・・」


とりあえず後ろのアゼルに聞く。


こやつは今日も付いてきている。

何でも、ある程度傭兵の仕事に慣れるまでサポートしろとアリオ殿に厳命されたそうな。

わしとしても若干心苦しくはあるが、もう開き直ってしまおう。

この道ではアゼルが先輩であるし、色々と教えてもらうことにしよう。


「この討伐依頼がよろしいかと。距離も近いですし、討伐対象もあまり強くない魔物です・・・もっとも、強さに関してはジュウベエ様には関係ないと思いますが・・・」


アゼルが壁から依頼表をはがし、手渡してくる。

ふむ、どれどれ・・・



『コボルトの討伐』


・最近、近くの村周辺でコボルトらしき魔物が目撃されるようになってきた。

 繁殖される前に討伐してほしい。


・最低討伐数3体から、上限はなし。


・討伐認定部位をギルドへ提出のこと。



コボルト・・・知識によると、2足歩行する犬の化け物のようじゃな。

これは、ビーストとは違うのか?

・・・ここにはビーストも大勢おるし、口に出すのはやめておこう。

火種の予感がする。

後でアゼルに確認しておこうかの。


依頼表を片手に、適当なカウンターへ行く。

ライネ嬢のカウンターには長蛇の列。

人気があるのう。


「すまぬ、これを受注したいのだが・・・」


「はい、それでは身分証を拝見いたします」


座っていた赤毛の人族の女が手を伸ばしてくるので、昨日作ったカードを渡す。

彼女はそれを手元の機械に通し、そのタブレットめいたものの表面に浮かぶ文字を見ているようじゃ。

・・・そこら辺の機械だけ、随分と現代じみておるのう。


「ジュウベエ様ですね、確認いたしました。ご無事をお祈り申し上げます」


「おうおう、それだけで百人力よな。ありがとうよお嬢ちゃん」


礼を言ってギルドを後にする。



街を歩いていると、アゼルがふいに話しかけてくる。


「ジュウベエ様、ライネさんがこちらを見ていたのに気づきましたか?」


「おう、随分と情熱的な視線じゃったのう。昨日何か伝え忘れたことでもあったのかの?しかしそれなら呼ぶはずじゃし・・・」


「たぶん、自分の列に並んで欲しかったんだと思いますよ?」


「ああ、なるほどなるほど。・・・混んどるから嫌じゃ、わしは一刻も早く依頼へ行きたい」


「そ、そうですか・・・」


昨日の今日で気に入られたもんじゃの。

まあ、美人に好かれると悪い気はせぬがな。


「それはそうとアゼルよ、これから街を出るわけじゃが、水やら食料を買い込んでいかねばならんな。包帯なんぞもあれば助かるしのう」


現状わしは一文無しであるから、アリオ殿に借金でもして買い揃えねばならぬ。

おかしい、借りを返そうとすればするほど借りが増えていくのう・・・

アゼルは大きなリュックを背負っているが、わしも適当な鞄を買わねばならんな。

一度屋敷まで戻るべきか。


「・・・ジュウベエ様、それについては大丈夫です。このまま街を出ましょう」


アゼルは辺りをはばかるように小声で呟くと、わしの先に立って歩き出した。

ふむ、何か考えでもあるのじゃな。



門番の兵士に身分証を見せ、無事に外に出ることができた。


アゼルはそのまま歩き続け、周囲に誰もいなくなるとやっと止まった。


「それで、大丈夫とはどういうことじゃ?」


「・・・これです」


アゼルは懐から、肩掛けの小さな鞄のようなものを取り出した。

ふむ、ただの鞄・・・ではないな。

各所に魔力を含んだ宝石が埋め込まれておるのが『視える』。


「それは?」


「これは、俗にマジックバックと呼ばれる魔法具です。この内部は空間を捻じ曲げて拡張されているので、かなりの量の荷物を入れることができます」


なんと・・・そんなに便利なものがあるのか。


「そりゃすごいのう・・・先程までの態度からすると、それはかなり貴重なものじゃな?」


「ええ、これは遺跡から発掘された『旧文明』のものですから。現代の魔法使いには作れないレベルのものです」


「・・・『旧文明』とな?」


「ああ、そうでしたジュウベエ様には記憶が・・・はるか昔に栄えたと伝えられている、かなり発達した魔法文明のことです」


・・・一昔前に流行った、〇ー大陸とか〇トランティス文明みたいなものかのう?


「この小ささで、だいたい馬車一台分の容量です。今回必要な水や食料は、昨日のうちに入れています。」


「そりゃあすごい!・・・確かに周りを気にするのもわかるわい」


盗人からすれば垂涎の代物よな。


「背負っている鞄はダミーです。依頼を完了して街に入る前に、これにある程度の荷物を移し替えるんですよ」


「しかしのう・・・そんなお宝をホイホイわしなんぞに見せてもいいのか?」


「ジュウベエ様がその気でしたら、とっくに私は死んでおりますので・・・アリオ様からも許可をいただいております」


・・・ずいぶんと信頼されたもんじゃ。

せめて、その信頼には応えねば男が廃るというもの。


「うむ、あいわかった。それでは行くとするかの」



目的の村までの道中、昨日ギルドでもらった冊子の中身を再確認する。

まあ内容と言っても簡単なものではあるが。


・ギルドでは特に序列のようなものはないが、経験等を考慮して受注を断ることがある。

・基本的に報酬は後払い。

・依頼に失敗した場合は、ギルドが定めた違約金を納めなければならない。

・持ち合わせがない場合は借金、払える見込みがない場合は借金奴隷に落とされる(この世界ではまだ奴隷が一般的である)


「簡単なもんじゃのう」


「傭兵は教育を受けていないものが多いので・・・」


なるほど。


ちなみに、アゼルは奴隷出身とのことで少し驚いた。

なんでも両親が借金奴隷になってすぐに死に、アリオ殿に拾って貰って働きながら親の借金を返したそうだ。

借金は完済したが、そのまま商会の護衛兼従業員となって今に至る。


「おぬしも苦労したんじゃのう・・・」


「いえいえ、アリオ様に拾っていただけて幸運でした。そうでなければ鉱山奴隷か、野垂れ死にが関の山だったでしょう。」


中々容赦のない世界じゃのう・・・わしにはありがたいが。


「では、おぬしにはもっとしっかり稽古をつけてやらんとの。このままでは危なっかしすぎるわい」


「よろしいのですか!?ありがとうございます!」


空いた時間にでも教えてやるとするか。

護衛ならば、護衛の戦い方がある故のう。


「・・・そういえば、あの耳長の嬢ちゃんも奴隷出身かの?」


「あっいえ、マイヤさんは商会の取引先の娘さんで、傭兵もしてらっしゃいまして・・・あの日はたまたま行き先が一緒だったので、護衛として付いてきてもらったんです」


ふうん、そりゃ災難なことじゃなあ。

あのままだと奴らの慰み者にされておったことじゃろうて。


「なんじゃ、そうだったんか」


「ジュウベエ様・・・彼女のようなエルフ種にとって『耳長』という言葉はかなりの蔑称になります。記憶がないので仕方ありませんが、これからはお気を付けください」


忌み言葉というやつか。

それはしっかり覚えておかねばのう。


「アゼルよ、ついでに聞くが今回の標的のコボルトとビーストを一緒にするというようなことも・・・」


「駄目です!ぜったいに駄目です!!過去それで国が一つ滅んだことがあります!!」


おおう・・・危なかったのう。


「わし、あの熊コロに結構きついこと言ったと思うんじゃが・・・」


「あれは向こうが悪いので大丈夫です。でも初対面のビーストに決して言ってはいけませんよ!」


「おう、しかと理解したわい」


やはり頭の中の知識だけに頼っておったら駄目じゃなあ。

これからも何か気になったらアゼルに聞くこととしよう。




「ジュウベエ様、見えてきました!あれが今回の目的地で・・・ジュウベエ様!?」


急に走り出したわしに、アゼルが声をかけてくる。



「走れアゼル!あの村・・・襲われておるぞ!!!」



村を囲う外壁に、何やら黒い人影がへばりついておるのが見える。

乗り越えようとする影に、内部から突き出されているのは・・・槍か?

アレがコボルトかはわからぬが、どちらにせよ大事には違いあるまい!


「はっ・・・はい!!」


「槍はもう持っておけ!前に教えた通りに立ち回るんじゃぞ!わしはとにかくあいつらを片っ端から掻き回す!!」


村へ走るうちに、おぼろげだった人影がはっきり見えてくる。

外壁に取り付いたり、門を破ろうとしている毛むくじゃらが。

だいたい10匹ほどか、ここから見えるのは。


見かけは灰色の大型犬が立ち上がったような感じじゃな。

ボロボロの腰蓑以外は身に着けておらんな。

明らかに手入れのされていない剣や槍で武装している。


なるほど、たしかにビーストと一緒にするのは失礼じゃの。


とにかくこちらへ注意を向けなければいかんな。

走りながら息を吸い込む。


「オオオオオオオオオォォォォッ!!!!!」「ギャウ!?!?」


刀を抜き、大声で叫びながら近くの1匹に背中から斬りつける。

ざくりと背中を断ち割られたそいつに見切りをつけ、門に取り付いているコボルトへ向かう。


「ギャン!」「アオォッ!!」「ルオオオオオ!!!」


こちらを見て口々に吠える中の1匹の首元を切り裂き、次の1匹へ。

横薙ぎの槍を踏み込んで肩で受け、跳び下がりながら斬り上げて脇の下を裂く。


毛皮のせいで今一手ごたえが心許ないが、体のつくりが人間と変わらん以上急所を斬れば死ぬじゃろう。


剣を握った1匹の手首を斬り落とし、柄頭を喉に叩き込んで折る。


これで門の前は安全じゃな。

方々に散っていたコボルト共がやっとわしを認識したのか、口々に雄たけびを上げながらこちらへ走ってくる。


「アゼル!無理をせず止めだけ刺すんじゃぞ!門を背にして立て!!!」


「はっ・・・はい!!」


やっと追いついてきたアゼルを後ろに行かせ、門の前に立たせる。


「さあ来い犬どもぉ!!かかってこい!!!」


血振りをして袖で残った返り血と脂を拭きとりつつ、最初に飛び込んできた斧持ちのコボルトの腹に蹴りを入れる。

もんどりうって転がるコボルトの横を通りながら顔を撫で斬りにし、次へ向かう。


剣とナイフを持ったコボルトが同時に向かって来る。

まず剣を持った方のがら空きの胴を斬り抜けつつ、切り返してナイフ持ちの首を斬る。


投石をしようとしているコボルトを蹴り倒し、胸を突き刺す。

その隙に槍を突いてきた1匹の指を、踏み込んだ脇差の抜き打ちで落とし、空中で逆手に握り直して首を斬る。

斧を振り上げた1匹には、そのまま脇差を投げて目を突く。


わしの周りに空白地帯ができた。


奴らは遠巻きにこちらを睨み、武器を構えている。

仲間が立て続けに死んだので様子を見ているようだ。

見えているコボルトはあと8匹。



「ははははは!!どうした犬っころォ!!それで仕舞いかあっ!?」



これだけ動いたというのに息も上がらん。

若いとはすばらしいもんじゃ。

斬りあいの最中だというのに腹の底から笑えてくる。


すると、笑い出したわしに怯えたのか何匹かが後退する。

なんじゃ、つまらんのう。


次の瞬間、逃げようとしたコボルトが後ろから剣で突き刺されて死んだ。


死んだコボルトの後ろから、黒いコボルトが姿を現す。


「ジュウベエ様!!その黒いのが恐らく群れの長・・・『ディナ・コボルト』です!!!・・・なぜこのような場所に・・・」


後ろで死にかけのコボルト共にトドメをくれていたアゼルが叫ぶ。

たしかにあやつは今までのコボルトとは違うようじゃの。


手に持つ剣は明らかに上等なもんじゃし、皮の鎧めいたものを着とる。

なにより、その気配が今までの奴らとは全く違う。


「おうおう、配下をこれ以上減らしてどうするよ?」


「グルルゥゥ・・・!ガアアアアッ!!!!」


やつは吠えるなり、人間では不可能な程の前傾姿勢で突っ込んでくる。


ほう、速い!!

そのまま逆手に持った剣で斬り上げるつもりか。


「オオッ!!!」


前方に踏み込み、そのまま右足を軸に前方宙返りの軌道で跳ぶ。


ヤツがわしの下を通り過ぎるのと同時に、前回りの独楽のように回転した斬撃が背中の黒い毛皮を抉った。


「ギャンッ!?」


そのまま1回転して着地し、下段に構えながら振り向く。



南雲流剣術、『拝地』


・・・実戦で使うのは初めてであったが、上手くいったのう。



黒いコボルトは、血を流しながら倒れてもがいておる。

ざっくりと肩甲骨の間を断ち割ったので、あれでは助かるまい。

いつまでも苦しめるのも悪いの。


「南無阿弥陀仏・・・成仏せいよ」「ギ・・・ッ!」


近寄り、その首筋を突き刺して楽にしてやった。


それが契機となったか、残りのコボルト共は喚きながら逃げていく。

大将がやられたんじゃから当然じゃな。



「おーい、村の衆!コボルトは片付けたぞ!!」


村に向かって声をかけると、しばらくしてゆっくりと門が開いていく。

その隙間からこちらを伺う男衆が見える。


「ほ・・・本当か!?あんたは一体・・・?」


「ここの依頼を受けた傭兵よ。間に合うて何よりじゃ」


「よ、よかった!助かった・・・」「犬どもが死んでるぜ!」「もう駄目かと思った・・・」


外の状況を確認したのか、門は完全に開き男衆が出てくる。

その中でもまとめ役だろう壮年の男が、こちらへ近づいてくる。


「傭兵さん、ありがとうよ。こいつら急に攻めてきやがったんだ・・・今までは森にしか出なかったのによ・・・っ!?こ、こいつは長じゃねえか!」


「おう、こ奴を殺したら残りは逃げていきおったわい。追って駆除したほうがいいか?」


「いや、長が死ぬとこいつらは縄張りから逃げるんだ・・・よかった、これでこの近くにはいなくなるだろうよ」


ふむ、そういう習性なのかあやつら。


「アゼルよ、大丈夫か?」


「大丈夫も何も、ジュウベエ様がほとんど一人で倒してましたから・・・」


問いかけると、苦笑いのアゼル。

すまんの、ちょうどいい訓練になるかと思うたんじゃが。

・・・あまりに楽しゅうて忘れておったわ。


「依頼はこれで完了かの?」


村の男に声をかける。


「ああ、もう十二分にやってくれたよ!森のコボルトを間引いてもらうつもりが、とんだ大物が出てきちまったな。」


さて、これからどうすればいいんじゃろうか?

首でも切り取って持ち帰るのかの?


「ジュウベエ様、討伐の場合は魔物の特定の部位を切り取って持ち帰るんです。コボルトの場合は・・・右耳です」


「なるほどのう。こっちの長もか?」


「胸の中央に宝石のようなものがありませんか?上位種はそれです」


「ほう、それはなんとも面妖な・・・」


それからアゼルと手分けして部位を集めた。

残った体の方は村人が処分してくれるというので任せることにする。


しかし、今日来てよかったのう。

明日には村がなくなっておったかもしれんわ。


「これにて、初依頼は終了じゃなあ。さあて、帰るかアゼル」


「はい、帰る途中で昼食にしましょう。弁当をもらっていますから」


「ははは、至れり尽くせりじゃなあ」



こちらに手を振ったり深々と頭を下げる村の衆に、軽く手を振る。

なんとも忙しかったが、初の依頼は無事に終えられたの。

・・・まさか村の中に入らずに終わるとは思っておらなんだが。


さて、帰るとするか。




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― 新着の感想 ―
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