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2話 十兵衛、人助けをする。

十兵衛、人助けをする。




「しゃあっ!!」


まずは棍棒を持った男に上段から切りつけ、頭をさっくりと断ち割る。

できそこないの福笑いのような顔つきになった男が倒れる。


「ぬんっ!!」


そのまま、横にいた槍の男の両目をざくりと横一文字に切り付け、次へ向かう。


「てってめごぶ!?」


打ちかかってきた偃月刀を地に転がって躱し、立ち上がりながら胴体をぞぶりと切り上げる。

腹圧でぼとぼととはらわたをこぼしながら倒れ込む男の背中を蹴り、斧の男へぶつける。


「ヒィっ!!!あっご!?!?」


抜いた脇差を投げ、そいつの目から脳へねじ込む。

残りは半分。


「おぬしらの仲間は死んだぞ!そちらばかり気にしておってもよいのか?」


馬車の2人に注意を向けていた男たちに言ってやる。


「う、嘘だろォっ!?」


「どっこい、真実なんじゃの」


一番距離の近い男に向かって低く飛び込み、内股と脇の下を続けざまに切る。


「う、うおおおおおおっ!!!」「ごぱ!?」


好機と見たのか、馬車の前にいた男がわしに気を取られた男の腹に槍を突き立てる。


「ううううわああああああ!!!」「ぎ!?」


同時に、女の方も剣で別の男の脳天を叩き割るように殴りつけた。



「さあて、見たところお主が頭目のようじゃの。手下はみんな死んだがどうする?」


最後に残ったのは、2メートル程の大男であった。

両刃の長大な斧を持ち、こちらを睨みつけてくる。


「子分どもをさんざんやっちまいやがって・・・てめえ、何もんだ」


「通りすがりの旅人よ」


「そうかよ・・・どこから来たが知らねえが、てめえの旅はここで終点だあ!!!」


言うなり、男は斧を軽々と振り上げる。

・・・間合いの外から何をする気じゃ?


その瞬間、なにか目に見えぬ力が斧に纏わりつくのが『視えた』。



「『雄々しき風よ!我が意と共に敵を穿て!』」



右に跳ぶと、さっきまでわしがいた地面がざくりと抉り取られるのが見えた。

なるほど、あれが『魔法』か。

・・・なるほど。


「躱しやがった!?運のいいやつだな!!・・・『雄々しき風よ!』」


「間抜けが!」


種の割れた手品に付き合うものかよ。


「『我が意とt』ぎゃあっ!?」


小柄を飛ばし、ヤツの肩に当てる。

同時に、斧に集まった『何か』が霧消する。

一直線に駆け出す。


「こ・・・のォ!!!!」


魔法は諦めたのか、わしに向かって斧を振り下ろしてくる。

その振り下ろしに合わせ、下りてきた手首を切って軌道を反らし、返す刀をヤツの喉に突き入れた。


「ご・・・ごんな・・・ごんな・・・・」


捻りながら引き抜くと、ヤツは血をどばどばと吹き出しながら倒れ込んだ。

残心し、ヤツが完全にくたばったのを確認すると、体から力を抜く。


生まれて初めて人を斬り殺したが、なんのことはない。

相手が相手だからかのう。


それよりも・・・なんと素晴らしい、思うた通りに体が動く!

極めた技を、鍛えた体に乗せる喜び・・・答えられぬわ。

リトス様・・・まっこと有難いことよ。


血振りをしてから懐紙を持っていないことに思い至った。

・・・だいぶ汚いが、こ奴らの服で代用するとするか・・・

そう思いながら刀を見ると、血汚れがみるみる消えていくことに気が付いた。

・・・これもリトス様の『便宜』であろうか。

なんにせよ、手入れがいらぬというのはありがたい。


先ほどの死体から脇差を抜くと、これもまた汚れが消えていく。

小柄もじゃ。

そして、なんと服に飛んだ返り血すらも消えていく。

・・・これは、優遇され過ぎではないかの、わし。



「あ、あの・・・」


考え込んでいると、馬車を守っていた男が声をかけてくる。


「助けてくださって、ありがとうございます。あなたがいなければどうなっていたか・・・」


「よいよい、ただ通りがかった故、気まぐれで助太刀したまでのことよ」


軽く手を振って歩き去ろうとすると、馬車の扉が開いた。

恰幅のいい中年の男が顔を出す。

商人かの?


「お待ちを、お待ちを!旅のお方、この度は誠にありがとうございます・・・是非とも我が家まで共にいらしていただきたい!」


誠実そうな目をしたその男は、わざわざわしの所まで歩いてきて手を取った。


「これほどの大恩あるお方をみすみす行かせたとあっては、わが家の名折れでございます!どうか!」


「ふうむ・・・まあ急ぐ旅でもなし。お言葉に甘えようかの」


「おお、ありがとうございます!今替え馬が来ますので、しばしお待ちを!」


聞けば、目的地の街で商家を営んでいるとのこと。

これは好都合。

駄賃代わりに、色々と街のことを教えてもらうとするかの。


しばらく待っていると、なんと馬のみがこちらへ走ってくるではないか。

なんと面妖な・・・お?

よくよく見ると、鬣に半透明の小人がぶら下がっているのが見える。


馬は先ほどの護衛の女の前まで来て止まり、小人が女の手から何かを受け取っている。

なるほど、精霊に頼んで馬を連れてきてもらったんじゃの・・・

小間使い扱いしてもいいのかのう?



『あー!じゅうべー!』


わしを見つけて飛んでくる小人。


「ぬ、先ほどの小人かの?」


正直、見分けがつかぬどころか雄か雌かもわからん。


『ちがーう、けどしってるー、おもしろいひとのこー!』


「随分と耳が早いんじゃのう・・・精霊は」


『かぜだからー、かぜはどこにでもいるからー』


なるほどの。

待てよ。

・・・ということは、既にわしは世界中の風の精霊に知られておるということか・・・?


『またねー!』


何故かまたわしの頬に顔をこすりつけて、精霊が空へ還っていく。


「おもしろいやつよ・・・ぬ!?」


見送って振り返ると、先程の護衛2人と商人が揃って目を見開いている。


「あ、あああああの!あの!・・・い、今精霊様とお話していらっしゃいました・・・か?」


護衛の女が恐る恐る話しかけてくる。


なんじゃと。

話せるとまずいのか?

慌てて貰い物の知識を洗い直してみると、それらしいものに行きつく。



なんでも精霊とハッキリ意思疎通をできるのは『ハイ・エルフ』という種族に限られているらしい。

その他の種族は供え物でなんとか小さい願い事をかなえてもらうだけで、姿もハッキリ見えぬし声も聞こえぬ・・・らしい。



・・・どうしたもんかの。

どう考えても騒ぎの種にしかならぬし、ここは適当に流しておくが吉じゃな。


「そう見えたのかのう?たまにまとわりつかれるだけのことよ。姿も朧げにしか見えぬ」


「そ、そうでしたか・・・やたら精霊に好かれる人族がいると聞きますが、こうして見るのは初めてです。」


よく見れば、護衛の女は少し耳がとがっている。

・・・なるほど、これが知識にあったエルフと人の合いの子、『デミ・エルフ』というやつか。

だから精霊に頼み事もできるというわけじゃな。



どうにか馬車も直って馬をつなぎ、出発できることとなった。

護衛の2人は御者席に乗り込んだ。

わしは護衛がてら歩いてついて行くつもりじゃったが、商人(アリオと名乗った)が恩人にそんなことはさせられぬと聞かぬので、馬車に乗ることにした。

思えば、馬車に乗るなぞ初めてだの。


乗り込むと、アリオの他にもう1人先客がおった。

10歳になるかならぬかという年頃の少女じゃ。

人形のような可愛らしい娘さんじゃの。


「これは、私の末娘のナリアです。さあナリア、ご挨拶なさい」


「こ、こんにちはたびのおかた。わたくしはナリアともうします!」


ぴょこんと立ち上がり、こちらに頭を下げるナリア嬢。


「おうおう、しっかりしたよい子じゃの。わしは十兵衛じゃ、よろしゅうにの」


「じゅうべえさまですか、めずらしいおなまえですね」


「ふむ、そうかのう?わしの国ではよくある名前じゃが・・・」


編み笠を取るのをすっかり忘れていたことに気付き、脱ぐ。

わしの顔を見て、アリオが驚いたように言う。


「失礼ながら、もっとお年を召された方だと思っておりました・・・お若いですな」


そりゃあ、中身は70過ぎの爺じゃしの。

今更若者ぶって話せんわい。


「おじいさまみたいなしゃべりかたでしたから、ナリアもそうおもっていました!」


「ふふふ、そうかそうか。これは癖のようなもんでの」


「しかし流暢にここの言葉を話されますな、かなり古風な喋り方ですが。・・・失礼ですが、ジュウベエ様はどちらの国からいらしたので?」


ふむ、さてどうするか。

借りものの字引に頼るとするかの。


「それが、わからぬのよ」


「・・・と、申されますと?」


「極彩色の渦に落ちた以外、全く記憶がないのじゃ。自分の名前や言葉、身に着けた技はさすがにわかったがのう」


それらしき知識があったので使わせてもらう。


「極彩色・・・!?まさか、『エーテル渦』に!?」


「なにかはわからんがの。気が付いたら草原の真ん中で寝ておったわ。いくつか基本的なことは覚えておるが・・・」



エーテル渦。

この世界の大気を満たしている『魔法』の源、エーテル。

そのエーテルがたまに高密度に圧縮され、渦を巻く現象・・・らしい。

それに飲み込まれると、時間や空間を一瞬で飛び越えてしまう・・・らしい。

わしの状況におあつらえ向きよな。

この世界じゃ魔物やらなんやらで、毎年結構な人数が行方不明になっとるらしいし、大丈夫じゃろ。



「なんという・・・よくご無事でいらっしゃいましたな。しかし、その御召し物を見るに、ここらの国ではなさそうですな・・・」


「わしも、おぬしらの服を見てそう思っておったよ」


「それにしても見事なお召し物ですなあ・・・この深い黒は一体どうやって染めたのか・・・この上着は革ですな!美しい・・・」


「覚えておれば、教えてやるんじゃがのう・・・」


「じゅうべえさま、そのナイフの上にささっているのはなんですか?」


ナリア嬢が不思議そうに見つめてくる。

ナイフ・・・脇差か。

おお、これは・・・


「ふむ、これは鉄扇じゃな」


「てっせん?」


すっかり忘れておった。

これも前の世界からついてきたのか。

わしの愛用品じゃ。


「こう広げて、風を送るために使うものじゃ。この国にも同じようなものがあるのではないかの?」


ばらりと開くと、扇につけられた模様が広がる。

柄は向かい合う龍虎。


「わあ!すごい!」


「鉄の札に絵付けをしているのですか・・・たしか。どこかの国の輸出品にあったかと・・・しかしあれは鉄製ではなかったような・・・」


ほう、この世界にもやはり似たようなものがあるのか。


「普通のものは木と紙で作るようじゃな、わしのこれは護身用の武器じゃからのう」


「じゅうべえさま!もっとおくにのことをおしえてください!」


「こらナリア、あまりジュウベエ様を困らせては・・・」


「よいよい、いい気晴らしになるしの。さあて、何から話そうかの・・・」


考えながら馬車の車内を見ると、何かの梱包で使っていたのか紙が落ちている。


「アリオ殿、これを少し使ってもよいかのう?」


「え?そんなものでよろしければいくらでも・・・」


小柄を抜き、だいたいの正方形に整える。


「たしか、わしの国ではこのような遊びがあっての・・・」


話しながら紙を折ってゆく。

ナリア嬢はわしの手元に釘付けになっておるようじゃ。

・・・父親もそうじゃが。


「ほおれ、できた。これはナリア嬢にあげよう」


「ふわぁ・・・これはとりですか?」


「わしの国によくおった鳥よ。名前は確か・・・鶴と言ったか」


「ツル・・・きれい・・・!ありがとうございます、じゅうべえさま!!」


「ふふふ、そこまで喜ばれると、さぞ鶴も喜んでおるじゃろうの」


「器用なものですなあ・・・紙からあんなに細かいものを・・・」



そんなこんなで話は続き、あっという間に街の城門までたどり着いた。

魔物の襲来に警戒してか、まさに城門といった様相じゃな。


アリオは街ではちょっとした顔らしく、わしのようなよくわからん者を乗せていてもすぐに門を通ることができた。

わし1人であったなら、ここまですんなりとは入れなかったじゃろうの。


とりあえず、今日の所はやっかいになるとするかの。

この世界の情報も仕入れねばならんし。






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