たとえば、九曜千暁【九】
「ははは。面白い、魔法が使えるようになったみたいだな、良かったよ。少しは楽しめそうだ。」
そういうと花田は、自身に纏う魔力の量を増やし、明らかに雰囲気が変わる。さすがは準特選組、威圧的なオーラはかなりの風格を感じさせる。
会場での、反応は多種多様なものだった。
「なんだー九曜、魔法使えんのかよ。」「でも、せいぜい中級程度の魔法じゃ厳しいでしょ。」「神器も無いみたいだし・・」
魔法が使えたことに対する驚きはあっても、下馬評が覆るほどのものでは無かった。
しかし、その場に置いて、周囲と違う才を持つもの達はみな、自身の評価が誤っていなかったことを確信していた。
そして、九曜千暁自身も同様に、異なった感触を得ていた。
「使えた・・・。」
口に出したのは、この程度だったが今にも駆け出したいほどの喜びと満足感を得ていた。
死角を求めるように花田の周囲を弧を描くように魔法の詠唱を唱えながら移動する。
花田もそれに反応するように体の向きを変える。
またしても、俺は緋弾を唱える。
それは難なく切り捨てられる。
九曜は角度を変え、何度もこれを繰り返す。
いい加減、花田も呆れた頃合いだっただろう。
「君は懲りない・・」
既に花田の視界に彼の姿は無い。焦る、しかし、さすがに準特選組、瞬時に魔力を感じ取り、背後で刃を交える。
九曜は、拳に魔力を込め「緋拳」を繰り出していたのだ。ただこれは無残にも防がれている。
渾身の一撃を防ぎ、花田は一気に攻撃に転じる。
「白銀乃刺突」
静かに、そして不敵に微笑みながらそう告げる。
レイピアを天に翳し、神器に魔力を込めると、地面には魔法陣が浮かび上がる。魔力が爆発的に集められ、白い魔力光が周囲を包む、しかしそれも一瞬の間に彼の神器に魔力が集められる。
九曜千暁は咄嗟に向きを変えず、後ろに跳躍していたが、花田は一気にこれに追いつくと、レイピアの剣先を九曜に突き立てる。
砂煙と共に、会場の壁際まで、引き摺られる。
会場は騒然とし、騒ぐでも無く、声を出せずに結末をじっと見守っていた。
やがて、砂煙が晴れだすと、そこには突き刺さったはずの神器が、九曜が手に持つ漆黒の剣によって防がれていた。
でも無事では無かった。左肩からは突き刺された跡と大量に鮮血に塗れていた。それでも、満身創痍のはずの彼は確かにその場に立っていた。
そして、花田はその漆黒の剣で弾き飛ばされ、地面に転がる。
「な・・!どうして、神器!?」
花田は勝ちを確信していたはずの一撃が防がれさすがに驚きを隠せなかった。
「賭け・・でした。でも先輩との闘いの中で魔法を試せたので、なんとか間に合いました。」
「だとしても!!僕の神器が通用しなかったことなんて・・!そうだ!昔の君にだって僕の神器は通用してたじゃないか!!これは夢だ、こんなことありえない!!」
「ありえなくないっすよ。今も、昔も先輩の前で、本気出したことは一度もないですから。」
こうして花田豪と九曜千暁の闘いは終わりを迎えた。
周囲は未だ、興奮冷めやらぬようで、手のひらを反すものも後を絶たなかった。