たとえば、九曜千暁【七】
九曜千暁が決戦の会場へ向かったあと、程なくして・・・
「帰ってきたとき聞こえたんだが・・・、星望、ほんとに千暁が勝てると思ってるのか?」
純粋な疑問だった。
「当たり前でしょ?」
なぜか得意気に答える星望。
「でも、千暁って、魔法使えないんだろ。さすがにそれじゃ・・・。」
「ううん。ぜっったい勝つよ。」
少しも疑っていない様子。
俺は外部からの生徒だ。入学してから、九曜千暁の噂はよく聞いたが、俺は実際には魔法が使えなくなってからのあいつしか知らない。
「そんなに凄かったのか神童ってやつは・・・」
「・・・その呼び方あんまり好きじゃない。けど、それくらい圧倒的だった!悔しいけど私なんか眼中にならないほどにね!だから・・・負けるはずがないのよ・・」
「特選組の星望が、そこまで・・・!?」
「私だけじゃない、内部からの特選組はみんな、千暁の強さを知ってる。だからみんな内心、凄く意識してる。今日だって、色んな人が来てるはずよ、九曜千暁を見るためにね。」
俺から、いや、魔法を生業とする者からすれば特選組は、明らかに異質で圧倒的な才能を持っている。そんな化け物たちから見ても、それほどまでに異質なのか・・あの男は。
「・・・もう一つ聞いてもいいか?」
「いいけど?でもそろそろ始まるから手短にね」
「あいつは、九曜千暁は、それほどまでの強さがありながら、どこか不安そうというか、自身が無さそうというか、あれはなんでなんだ?魔法が使えなくなったのと関係があるのか・・?すまん、どうしても気になっちまって。」
「魔法が使えるときからそうなんだから、そういう性格なんじゃない?それか、別次元に凄いモノに遭遇したことがあるとか・・・」
そう言って悪戯そうに笑う星望華恋。
彼女にとっては冗談のつもりだったのかもしれないが、妙に説得力があるように思えた。周囲からは天才だと思われている者たちには、彼らなりの悩みがあるのだろう。俺には無縁の話だと周囲に笑われるだろうか。でもどこか遠くに感じていた存在を身近に思えた気がした・・・。