たとえば、九曜千暁【三】
「なんだ、やっと起きたのか千暁」
そう話しかけてくるのは山田だ。
「おう山田、おはよ!起こしてくれても良かったのに・・」
山田は前の席だった。
「わりいわりい、ぐっすり寝てたからな。そんなことより見ろよあれ」
目線の先、騒動の中心には、華恋と2年の花田豪先輩が言い争っているらしかった。
「花田先輩がさ、星望に告ったんだよ。」
「そ、それで?」
「星望は振ったんだけど、花田先輩って家も金持ちだし、実力だって準特選組だし、顔もかっこいいしで、プライドも高いからだろ?それでしつこく言い寄ってたらあんな感じに・・・」
準特選組とは特選組に一歩及ばなかったものの、その次に才能あるとされている人たちだ。
そして花田先輩は昔から華恋に言い寄っていたし、そして多分俺のことが嫌いだった。
「だから、私は花田先輩には興味ないんです!!」
「なぜだ・・?ぼくは美しいし、かっこいいし、才能もある。断る理由がわからない!
もしかして誰か・・」
「っ!!」
その瞬間なぜか華恋と目が合った気がした。
「そーかなるほどなるほど!やっぱりきみか、九曜君。」
「ちがっ」
慌てておれの方を振り返る華恋
一斉に自分に向けられる数多の視線
心配そうにみつめる山田
そして確実に悪意を持って近づいてくる足音
俺はなぜだかこの時すごく嫌な予感がしていた・・
「おやおや、久しぶりだねー九曜くん。最近、顔を見なかったからねえ」
あざ笑うようににやけるイケメン
「お久しぶりです・・」
「それでー?特選組でも、準特選組でもない。ただの凡の。きみが華恋ちゃんを誑かすなんてどういうことだい?」
やはり相当嫌われているらしいな・・
「そんなことしてないって先輩なら分かりますよね。」
「ふっ、いやまあいいんだこの際。
ずっと思っていたんだきみを倒したいってね!」
まさかと思ったその時。
「決着をつけようではないか。この因縁にさ!」
そう言って手袋を俺に投げつける花田。
これは決闘の申し込みを意味しこの学園において絶対的な効力を持つ。
絶対的な実力主義のこの学園において、序列が上の者からの決闘の申し込みは断ることができない。
それは、この場において九曜千暁に拒否する手段がないことを意味する。
「本気ですか・・?でも俺・・」
「そっか。戦えないんだったなー」
白々しく、そしてぎゃはははと下品な笑い声をあげる花田
華恋が止めに入ろうとするが、この決闘が決まったことはもう覆りようがない。
それならばと華恋が花田に決闘を申し込むと言ったが、特優生は力が大きすぎるがあまり、決闘がそれほど簡単に認められないこと。直近に何らかの先頭において疲弊が考えられる生徒にはたとえ上からの決闘の申し込みに関しても拒否できる権利があることから、これは無効とされた。
「ま!大人しく俺にやられるんだな。それに見よこの観客たちをさぁ!」」
すでにできた人だまりは大きな熱狂を帯びていた。
「準特選組の花田豪と元神童の九曜千暁の決闘かよ!!」
「お前どっちに賭ける?」「そりゃ花田だろ・・」
「てかさー、九曜ってあの落ちぶれたやつでしょ?」
「なんか神童とか言われてたけど、ねぇ・・・?」
「神童つっても、ガキの頃だしなー。それに魔法が使えなくなったって噂もあるし・・」
「えーじゃあ負けじゃん」
くすくすと嘲笑する声まで聞こえてくる。
「気にすることないわ、ごめん千暁。」
そう言って手を強く握ってくれる華恋。
「それじゃ日程、その他もろもろは後程。逃げるなよ神童くん。」」
華恋の静止の呼びかけにも応じず、花田はウィンクをして人影に消えていった。
「っちバカが・・」
「柊?助けに行こうよ!九曜くん大変だよ?」
「なんで俺があいつを助けなきゃなんねーんだ。
それに、あの決闘は不当なものでもない。いくら特優生だからって介入できるものでもねーだろ」
「それはそうだけど・・」
「いいからいくぞ汐織」
「う、うん・・」