たとえば、九曜千暁【一】
「本当に千暁くんはまじめねー。あなたが学級委員で助かったわぁ~。」
「はあ、まじめって褒められてる気しないんすけど。それに学級委員といっても書記ですし・・。」
「いい?まじめってとても大切なことなのよ。社会に出たらそうゆう人が重宝されるの。まあいいわ。とりあえず課題ありがとね。もう教室戻っていいわよ。」
「はーい」
教室に帰りつつふとまじめについて考える。
俺はまじめという言葉が嫌いだ。
まじめというのはきっと才気のないものの言い訳だ。
決して誇るようなもんじゃない。
自分よりすごい奴らが、天才ってやつらが、当たり前のようにまじめって言われてるやつの何倍も努力してる。
そうゆうのは身に染みて経験してきた。
そしてそんなことを言いつつ結局それに甘んじている九曜千暁という人間がもっと嫌になる。
「結局、都合のいい人間に成り下がってるだけなんだよな・・。」
ぼそっとつい声に出してしまっていた。
「何が都合いいのよ?」
まずい。誰かに聞かれていたのか。そう思って声のした方を振り返る。
「ねーえ。聞いてんのー?」
「出た・・・」
「人をお化けみたいに言わないでよ!
それで、何かあったの?ぶつぶつ言ってたみたいだけど・・・。」
「ちょっと考え事してただけだよ。」
「ふーん。で、何してんのよ。もうそろそろ授業始まるみたいだけど?」
「高槻先生の手伝いみたいなもんかな。」
「相変わらずまじめねー。」
またそれか・・・。
「おーい。もう授業始まるぞー。」
先生からの呼びかけが聞こえる。
「それじゃあね。授業遅れないようにしなさいよ!」
「わかってる。じゃあまた。」
そう言って急ぎ足で教室へ向かう。
彼女にも遅れないようになんて告げたりはしない。
そもそも彼女は同じクラスである。しかし彼女は授業には出ない。
いや正確に言えば最低出席数以上は出る必要がない。
ここ第一級魔法養成学園は圧倒的な実力主義である。日本屈指のエリート校であり、すでに一線級の魔法士も少なくない。
才あるものは何にも邪魔されずその才を磨くことを要求され、才無きものは必死に食らいつくか、それでもついていけず蹴落とされるか。そういう学校だ。
そして彼女、星望華恋は、その「才あるもの」であった。
つまり特別に優秀と認められた者、通称、特選組として認められた天才である。
特選組に決まった人数は無いが全国選りすぐりの一級生の中でも極一部の者しか選ばれることはない。現在3年生650人中4人、2年生800人中5人、そして1年生1000人中10人が特選組として認められており、1年生は特選組の多さなどから歴代でも5本の指に入るとの呼び声も多い。
華恋は見た目通りのお嬢様であり、日本でも超トップレベルの才女であり、ハーフ特有の清廉な金髪と白くてきめ細かい肌、水晶のように輝く瞳を併せ持った類い稀なる容姿であり、おまけに誰にでも気さくで優しい。これが所謂、完璧美少女というやつなのだろう。当然ながら学校でも熱狂的な人気を誇っていた。
そして不幸か、幸運か、この天才は俺の幼馴染だった。