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天使は悪魔と未来を語る  作者: 織春あき
第1章 出発
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3 リアテスカ③




「言ったであろう、我々は手を貸している、と。あくまで手助けをするだけだ」



 口をはぐはぐと開閉して言葉を探すユランが流石に可哀想になり、助け舟を出してやる。



「リアテスカはな、内側から崩壊していくのだ」


「……内側、から……?」


「あぁ。人族は他種族より力が弱い。それゆえ魔法を使えるが、それも持って300年程度。神はそう判断したのだ」



 村ができ、街として栄え、貿易が生まれる。そしてその中で中心となる人物、つまり王が誕生することでリアテスカの歴史は動き出す。


 しかしそうするうちにも、動き出した歴史は他種族により圧迫され、衰退する。そして崩壊の時を迎えるのが約300年だ、と。



「神はそこで思いついた。我ら天使を遣わそうと」



 天使は神のがわの存在。つまりリアテスカを作ったがわというわけである。そんな存在が、リアテスカで生活する者の願いをどうして叶えられないことがあろうか。


 危機的状況に陥った人族は、たみを救うために有益な願いを天使へ届ける。こうしてリアテスカに住む四つの種族が均衡を保てば、数ある大陸の中でもリアテスカはさらなる発展を遂げるであろう。



「もちろん天使達もその意見に賛成した。賛成したとは言っても神の決定は絶対だがな。先にも言った通り、天界の者は退屈を持て余しているゆえ、楽しみができるとなるとすぐに飛びつくのだ」



 我が生み出されたのは今から300年前であるから、全て聞いたものだが。そう付け加えるのも忘れない。



「きっと今頃天界ではリアテスカが『リセット』される気配がないのを不思議がって、このやり取りを皆で覗いているかもしれんな」



 神はこれまでとは違った展開になったことを喜んでくれるだろうか。否、現在進行形で喜んでいるに違いない。

 もともと崩壊を食い止めるための天使召喚だ。

 当代の神も同じように呼び出され『リセット』をしたであろうリアテスカの変化を、きっと神は待ち望んでいたはずだ。


 であれば、我の役目はリアテスカの新たな道を提示したこの男に力を貸し天界に吉報きっぽうを届けること。届けなどしなくても、大陸の様子を覗き見れる大穴の周りには常に誰かしらいるような状態になることは目に見えているのだが。



「あの、それは……種族同士が争い、リアテスカが大陸として機能しなくなるまでに崩壊するという解釈で合っていますか」


「……聡い男だとは思っていたが、混乱していてもそこまで理解するか。合っておる、言わば大陸全土で繰り広げられる大戦争というところだな」



 天界の様子については頭が追いつかずに追求してこないのかもしれないが、この説明だけで理解するとはさすが文献を読み漁り勉強していただけある。

 さっきまでアワアワしていたやつと同一人物とはまるで思えないほど、今は落ち着いた表情をしていた。



「これくらいでよいか」


「はい……不思議と今のお話を聞いても疑問を抱きませんでした。それはもちろん天使であるベル様のお口から聞けたというのが大きいですが……想像ができてしまいました。大陸中が戦場になる様が、ありありと」



 悔しそうに歯をくいしばるユラン。その様子に、すっかり忘れていたと続ける。



「質問の続きだが、我はお主を殺しなどしない。むしろユランには感謝しているくらいだ。天界に新たな娯楽を与えてくれたのだからな」



 我にとっては誰がリアテスカに呼び出したかなど関係ない。ただ願いを叶えるためだけにリアテスカに降り立ち、偶然何代も前の神が面白そうだからと人族にそのすべを与えただけに過ぎないからだ。



「娯楽……」



 複雑そうな顔をして呟くユランを、まぁ良いではないかと宥める。



「それで、ユラン。お主の願いはなんだ」



 ここからが本題だと腰をあげる。

 歴代の王族とは違う展開になっている今、目の前にいる魔族の男はどのような願いを持つのか。



「はい、リアテスカの歴史を聞き、さらに決意を固めました。私の願いは……王族の考えを改めさせることです」


「……詳しく聞こう」


「ベル様は種族間の争いとおっしゃいました。しかし、現在リアテスカで主要に起こっている争いはそうではありません……魔族とそれ以外の種族の争いです」


「ほぅ、それは聞いたことがなかったな。いやはや例年通りすぐに天界に帰る心持ちでいた故、勉強不足であったようだ」



 その対立では均衡も何もあったものではない。むしろ最初から間違っていたことになってしまうではないか。



「いえ……私も実際にその時代に生きていたわけではないので定かではありませんが、歴史が動き出してから50年足らずで人族は竜族と獣人族に対して協力を求めるようになります」


「わずか50年でか……その言い方だと毎回そうというわけだな」


「はい。どの時代もそうです。人族は子供に対して魔族は滅ぼさなければいけない存在だと教育を施すようになるのです。幼い頃から思想を植え付けるのでしょう……そのために国による教育機関ができたことは良かったのかも知れませんが、魔族に対し一方的に敵意を向けます」



 なるほど、幼い頃から教育されればなんの疑いもなく魔族を敵対視するようになるというわけか。


 しかし50年というのはいささか早くはないか。そもそも人族には、力を補うハンデとして魔法があるのではなかっただろうか。



「気づいたのでしょう、いずれ争いが起こった時に人族は真っ先に滅ぶと。ならば他の種族と手を組めばいい、そう考えた。そこで標的にしやすかったのが魔族です」



 俯いた拍子にフードが深くなる。その隠れた表情を見ようと、距離を詰めてユランのフードに手をかける。

 どこか淡々と語るユランは特に気にした様子も無く、夕焼け色の瞳を覗かせた。



「故意ではありませんが、悪魔はその身から漏れ出る魔素により魔物を生成します。悪魔と魔物、それを統治する魔王が魔族と呼ばれますが、魔王が誕生するには莫大な魔素を溜め込むまでの時間がかかる。人族はそれを利用したのです。魔族は魔王が誕生したらリアテスカを征服するつもりだ。そのために魔物を遣わせて我々他種族の力を徐々に削っている、と……確かに魔族は人を襲い血肉を食らう。しかしそれを種族間の争いにまでしなくても……!」



 たくさんの命が失われる。人族は真っ先に死んでいくだろう。

 繁栄力が凄まじいのは、人が弱い証拠でもあるのだから。


 確かに悪魔は魔物を生み出すが、そのほとんどは魔物が自由意志を持って行動すると聞く。もちろん魔物を従えることもできる。しかし、圧倒的に野に放たれた魔物の数の方が多いのが事実だ。

 そしてそれらは明らかに魔族ではあるが、知性を持つ悪魔の意志で人を襲うわけではないというのもまた事実である。従う悪魔のいない魔物は、自身の糧にするために必要に迫られて他種族を襲うのであって、そこに魔族全体の総意が現れているわけでは決してない。



「ふむ、大体はわかった。人族と魔族の力にどれほど差があるかは分からぬが、思っていた以上に人族というのは腐っておったのだな……」



 やはり魔族であるユランは人族を憎んでいるのだろうか。


 であれば人族を滅ぼそうとしそうなものだが、この男はそうしなかった。なぜだか分からぬが、人族の王を説得してリアテスカに平和をもたらそうとしている。


 ただ話をするだけでは無理だとわかっているから天使の力を借りようということだろうが……分からぬな。



「ところでユランよ、魔物を生成するのは魔素の量の関係から中級悪魔以上だったと思うが、名を持っているということは、お主はその上の上級悪魔か?」



 自身の器に収まりきらなかった魔素が魔物を生成する。魔物を生成できるくらいの多くの魔素から生まれた悪魔を中級悪魔と言った。そしてその上が上級悪魔。魔物を生み出さない下級悪魔は上級悪魔に付き従った。


 上級悪魔は魔素から生まれるのではなく、悪魔同士の子として生まれる。せいの長い悪魔はそのほとんどが一人で一生を終えるが、稀につがうことがあるのだ。二つの角とコウモリにも似た翼、鋭く先の尖った尻尾を除けば、人と大差ない見た目をしている悪魔。面白半分に人の真似事をして、悪魔から生まれた子には名がつけられた。


 ()()()()はリアテスカには存在しなかったかもしれんな。まぁそんなことはどうでも良い。とにかく、ユランはその上級悪魔なのかもしれない。濃い魔素に誇りを持つ上級悪魔が、ユランのような思考に至るとは到底思えないが。


 ちなみにリアテスカでの悪魔は神を冒涜する存在などではなく、ただ闇に潜み悪行あくぎょうを働く存在だ。神が作り出したのだから、当たり前であろう。



「……っ……あの、いえ、私は上級悪魔ではなく中級悪魔、です」



 今更フードが外れていることに気づいたらしいユランは、そう声を振るわせた。




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