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天使は悪魔と未来を語る  作者: 織春あき
第1章 出発
3/6

2 リアテスカ②

 



 我々天使という存在を作り出した始まりの神が創造したこの世界には、リアテスカをはじめとする様々な大陸が存在する。

 果てのない広大な海の中に、大小様々な大陸が浮かんでいるのだ。


 そしてユランが言う通り、大陸上で生活する者は定められた範囲から出ることはできない。大陸間の移動はできず、生まれた土地のまま一生を終える仕組みだ。もちろん、神や天使を除いての話だが。


 では多くの大陸がある中で、なぜリアテスカで次代の神の最終試験が行われるのか。

 それには一つ、理由があった。


 人族が扱うことのできる『魔法』だ。


 神の意向によって、作られる大陸はそれぞれ特徴を持っていた。無論、大陸間の移動ができないのもここに理由がある。別の大陸の者がかち合えば、その者の常識を覆す出来事も起こるであろう。それがきっかけで大陸が消えるほどの大惨事が発生するなどと言うことになれば、それこそたまったものではない。

 そうした経緯で、大陸間の移動は神により禁止された。


 それができないのであればと、今度は大陸ごとに全く違う環境が出来上がる。その中である種の実験といったところであろうか、リアテスカには『魔法』というものが存在した。


 変わらない日々に退屈を見出した当時の神が、四つの種族を創り一つの大陸を与えたのだ。


 竜族には強靭な肉体を、獣人族には鋭い五感を、魔族には闇を統べる力を、そして肉体的な力を持たない人族には魔素により生まれる魔法を。


 現在のリアテスカは、この四つの種族がそれぞれの土地で生活する、大陸の中でも特に大きな存在となっていた。


 様々な力が混在するリアテスカであれば、次代の神を選ぶのに相応しい願いが生まれるであろう。リアテスカを創り上げた神は、そう考えたのだ。


 もっとも、リアテスカは神の真意に沿わない成長を遂げたのだが。


 

「ところでユランよ、我の名は天使様ではない。ベルジェールという。気軽にベル、とでも呼ぶがよい」



 ハッとした様子で慌ててフードを被りなおすユランに薄く微笑む。

 名を教えてやると、明らかにユランは固まった。



「……なっ!そのようなことは……!」


「どうした、フードを被っても無駄であるぞ。顔が真っ赤だ」



 わずかに見える首筋まで赤く染めたユランに思わず声を上げて笑う。

 それに気を悪くしたのか、顔の火照りはそのままにユランは表情を曇らせた。



「私を……殺さないのですか?」



 はて、名を呼ぶことがどうして我がユランを殺すことにつながるのであろうか。


 珍しく、ベルジェールは困惑していた。


 そしてそれと同時に、体の奥底に計り知れない興奮が生まれた。


 やはり、面白い。これはもしかすると、あやつの話以上のものが見れるかもしれない、と。



「……本来は人族の王しか呼べないはずの天使様を魔族である私が召喚してしまいました。最悪その場で殺されることを想定していましたので、今話していること自体が信じられないといいますか……」



 それに、自分が魔族だと知っても特に驚く様子もない。そう言うと、ユランはおもむろに自分の頬をつねった。



「魔族であるならそんなことをしてもちっとも痛くないだろうに。我は本格的にお主を気に入ってしまったようだ……してユランよ。我のことはベルと呼べと言ったであろう、そう呼ばない限りお主の質問には答えんぞ」



 幼いとも思えるその行動に、想像していた魔族とは随分違う、とさらに興味が湧いた。


 この短時間でお気に入りと化したユランがどんな反応をするのか、様子を見てみよう。ふとそんないたずら心が芽生え、試しに顔を覗き込んでみる。するとユランは思った通り、あからさまに狼狽えた。



「……ベル、様」


「うむ、質問に答えよう」



 消え入るような声で囁き、火を吹きそうな程に顔を染め上げたユランに、ベルジェールは満足気に頷いた。



「まずは、リアテスカについてだ。結論を言うと、お主が言ったことは半分は正解で、半分は間違っている。確かに、リアテスカは繁殖に必要な程度の人口を残して300年ごとに歴史を終える。それを我々は『リセット』と呼んでおるが……そうか、考えてみれば災を逃れた文献は受け継がれるか」



 それならば、ユランの言った通りの結論に至るだろう。

 『リセット』されることが当たり前であったから、その後のことなんて気にしたこともなかった。


 それに、本来であったなら、我という天使が召喚されて数分も経たないうちに、リアテスカは終わりの時へと動き出しているのだ。



「文献が残っているのであればわかっているとは思うが、歴史を終えるタイミングで大規模な地形変動はないであろう?それは、我々天使が人族の王に乞われた通り、人族に力を貸しているからだ」



 先ほどのユランの言い方では、まるで天使が歴史を終わらせているかのようであった。それも、大陸一つをまるごと消しているような。地形が大きく変わっていないことは、大陸は消滅していないということの証明になるであろう。


 我々天使は確かにリアテスカの歴史に関わってはいるが、あくまで手を貸しているだけということを主張する。



「……王は、大陸だけは助けてほしい。そう願うのですか?」


「ははっ、何を面白いことを言っておるのだ。そのようなことではない。人族の王が願うのだ。『他種族を滅ぼせるだけの力が欲しい』と」


「……え?」



 意味を理解していないのか、助けを求めるように、定まらない視線をこちらに寄越す。


 先ほどからくるくると変わる表情が、実に愛らしいと思った。




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