プロローグ
最後までお付き合いよろしくお願いします!
「おぉ……あなたが、天使様……!」
薄く開いた目に、跪き胸の前で腕を組んだ男の姿が映し出される。
ローブについたフードを目深に被っており表情はよくわからないが、発せられた言葉からは喜色の様がうかがえた。
薄気味悪い。
想像していたものとは遠くかけ離れた光景に、ベルジェールは眉根をしかめた。
かすかに認識できるのは、奥の見えない暗闇に、狭い空間を覆うゴツゴツとした岩肌。
ここはどこだ。
「このような場所でのご挨拶になり申し訳ありません。わたくしはユランと申します」
心底済まなそうに頭を下げた男は、たっぷり十秒ほどその姿勢のまま動かなかった。
皺の寄った額を指で押し広げるように撫でていると、自身を取り囲む眩い光のために見えなかった視界が徐々に浮き出てくる。
「……お主一人なのか」
当代の話とは随分と違う。
ピクリと反応した男を見下ろして、小さく息を吐いた。
きらびやかな装飾に終わりの見えない人々の壁、ではなかったのか?
憧れと尊敬の対象である当代のことは疑っていないが、ではこれは一体どういうことなのだろうか。
「はい、私が一人で天使様をお呼びしました」
そう言ってわずかに震えた膝を押さえ再び頭を下げる男をじっとりと見回す。
「ユラン、と言ったか」
「はい、天使様」
「……お主、何者だ?」
王族であったなら、堂々としていれば良い。当然だ、今までもそうであったのだから。
しかし目の前のこの男はどうだ。とてもそれほどの器があるようには見えない。
それに加えて、ユランはファーストネームしか名乗らなかった。つまり身分を隠している、またはそれほどの身分ではないということであろう。
だとすると、さらに謎は深まる。
「我ら天使を喚び出すものは代々王族である、そう聞かされてきたのだが……」
未だ俯いたままの頭頂部を目尻に捉え、自身の顔にかかる薄い金色の髪をかきあげる。
「まぁ、よい」
久しぶりに茶でも飲みたい気分だ、そう言って数歩ユランに歩み寄り、ついと手を差し出した。