Side Story②【舞鶴 千佐都〜魔玉の秘密〜】
Side Story②【舞鶴 千佐都〜魔玉の秘密〜】
中間考査の補習会場の闘技場で、1年生の2人に
「待ってくださる?私、まだ瞬殺が出来ませんの。もし
お時間があれば、教えてくださらない?」
と、声をかけて始まった私たちの絆。
☆ ☆ ☆
私は3年、瞬殺が出来るのは“当たり前”…であるべき。
でも“私みたいな人”には簡単ではないの…。
「いいですよ…いいな?遥花」
彼は小声で後ろにいる子に同意を求めた。
「うん、問題ない…」
快く引き受けてくれて、よかったわ。
「私、舞鶴千佐都と申します。あなた方は?」
「俺は河瀬遙樹です」
「私は照山遥花…」
「そう、よろしくお願いするわね」
遙樹君の方は少し緊張しているのかしら?
ふふっ、可愛いわね…。
すると遙樹君は私に、
「教えるのはいいんですけど、一つ、
先輩にお尋ねしたいことがあります…」と言った。
彼らが快く引き受けてくれたんだもの、私も
出来る限りのことは答えるわ。
「ええ、何かしら?」
「先輩の右目、何故隠してるんです?」
「目が悪くなる…」
少し躊躇ったが、話すことにした。
「やはり、“この目”は“人間の目”を惹いてしまうのね
………分かったわ、私の“秘密”を教えてあげる…
その代わり、魔法はちゃんと教えてね…?」
この“秘密”を教えた人は殆どいない。彼らはどんな反応を
するのかしら?あまり人に言えるような話でもないから、
少し緊張するわね…。そして、深呼吸をしてから、こう言う。
「私ね、ストレガでも、人間でもないの…」
すると彼らは、
「失礼ですが、どういうことですか?」
「じゃあ、何者?」と訊いてきた。
「…結果的に言うと、何者かって訊かれれば、“化け物”と
言うべきなのかしらね…」
彼らはとても困惑しているようだった。
何を言っているんだ?そうは見えない…何者だ?という
ような心情が見てとれるわ。
「でも私にも、友達はいるのよ、“今”は。それを
知らないから、ね…。ここからは少し長い話になるわ、
聞いてくれる?」
「…はい」
「うん…」
2人とも覚悟を決めたようだった。
「私の母方の祖母は人間で、いつからか魔玉に魅入られて
いたの。それで、私の父方の祖父が魔術師だったから
「孫の目に魔玉を嵌めてくれ、然すれば、きっと
いい“魔法使い”になるだろう」と言ったらしいの。それを
お爺様は聞き入れたのよ。その時のお爺様は自分の部屋に
こもりきりで病んでいたらしくて…。
“その理由は誰も教えてくださらない”けれど…。“普段の
お爺様なら”きっと聞き入れないような話なのに…。」
お爺様は私の両親にも了承を得ていたらしいの。
「……ということは、舞鶴先輩はクォーターなんですね?
魔法の方は…?」
「私の場合、クォーターなのに、魔法が全く使えない状態
だったらしくて…人間みたいなものだって…そう、
産婦人科医様が言っていたらしいわ…だから、産まれた
ばかりの私の目に…嵌め込んだのよ、魔玉を…魔法が
使えるようにする為にね…」
そう言って私は右目を見せた。“その目”は赤く、
そして光がない。でも、魔法の力で右目も見えているの。
魔術で嵌め込んだから、人体には何も問題がなかったわ。
後から知ったのだけど、何故魔玉を嵌め込んだのが片目
だけだったのか…それは魔玉は貴重だから、だったわ。
何故、貴重なのかまでは、いくら調べても
分からなかったけれど…。
「だから…“魔玉を嵌め込まれた人間”だから、人間でも
ストレガでもない、と…」
「そう、偶にいるみたいなの、“そういう人”…
戸籍上の人種としては、ストレガになっているのだけれど、
私たちは魔玉に支配されていて、上手く魔法を操れないの。
魔玉は“魔力の源”だから、魔力に困ることはないわね…。
でも特に、瞬殺みたいな同時に魔法陣を展開したり、
発動させたりする特殊なものは、私たちには
とても難しいの…だから、今でも使えないのよ…。
恥ずかしい話だけど、ね…。でも普通の魔法くらいなら、
使えるようになっているから、進級も出来たのよ?」と
ウインクして魅せた。
「まぁ、そうは言っても、それさえも最初の頃は、もの
すごく大変だったのよ?まぁ…そういうことよ!
他の人には内緒よ?」と言い、唇に人差し指を当てる。
「もちろんです!…先輩は“化け物”なんかじゃありませんよ!
立派なストレガです!!だから、気に病まないでください!
…先輩のことを化け物だなんて言う奴がいたら、俺が
そいつを楽して逝かせはしませんよ…なんて、俺なんか
まだ何も出来ないんですけどね…偉そうにすみません…
実力が伴ってから言えって話ですよね…」
「“千佐都も”大変だった…」
よかったわ、なんとなくだけど、“この2人は信用しても
いい”と魔玉が教えてくれた気がするの、あの時とは
違って、ね。多分、この2人と、これからも関わることが
あるのね!楽しみだわ。
「でも遙樹君は人間なのに瞬殺を使えるのね!凄いわ!
ものすごく器用なのね?だから教えてもらおうと思ったのよ。
ストレガじゃないもの同士、仲良くしましょう?」
化け物と一緒にされるのは嫌かもしれないけれど…。でも、
遙樹君は私のこと、化け物じゃないって言ってくれたわ…。
遙樹君には信頼以上の気持ちが芽生え始めている
気がする…。今は、まだよく分からないけれど…。
でもそれは、単純な気持ちとは違う気がするの…。
「それにしても、普通の魔法を使うのも貴方に
とっては大変だったでしょう?本当に凄いわね!びっくり
しちゃった!」
「まぁ、この学院には目的があって来たわけですし、これ
くらい出来ないと嗤われてしまいますよ」
「“目的”ね…それはまた今度、訊こうかしら?きっとまた
会えるから♪…でも、治癒は出来なかったのよね?」
「まぁ、そうですね…はい」
そう言って、彼は僅かに目を伏せた。
「ふふっ、そんなに気にしないで♪ちょっとからかっただけよ?
それじゃあ、教えてもらおうかしら?」
「分かりました!じゃあ…」
☆ ☆ ☆
私、舞鶴千佐都は人間でもストレガでもない、化け物だ。
戸籍上は、ストレガ”になっているが、私は…そう、
“化け物”なのだ。そう気づいたのは…小学生の時だったわ。
幼稚園の時は魔法を使うことは1度もなかったため、
周りのストレガの人達と同じように過ごしてきた。
何事もなく普通に楽しかった…。でも、小学校に上がってから、
自分が周りと違うことに気がづいたの…。
「はい、それでは魔法の勉強をしますよ〜♪
まずは正しいもの同士、名前と魔法陣のイラストを線で
結びましょう。」先生の指示の通り、プリントに描いて
ある魔法の正式名称と魔法陣を線で結んだ。周りの子も
そうだったように、私も親に教わっていたから、この
あたりは何の問題もなかったわ。でもこれは
低学年の頃の話…。中学年から高学年にかけて実技が
多くなっていった。
「みんな〜今日は、この砂場で砂のお城を作ります!
誰が1番上手く作れるかな?」
校庭にある砂場の一部に向けて魔法陣の円を描き、自分が
作りたいお城を想像しながら、最近習った[創造]の魔法術式を
脳内で描く…すると、バチバチッと魔力が散り、体内にも
電気が走った。
「…!?千佐都さん!?大丈夫!?」
そんな先生の声が聞こえた気がした…。
気がつくと私はベッドの上に寝ていた。
「…さん、千佐都さん!大丈夫!?」
先生が傍らで、心配そうに呼びかけていた。
「よかった…」
そう言って先生は安堵の息をついた。
「せ、先生…私、どうしてあんなことに…?」
と、躊躇いながらも訊いてみることにした。
「………」
先生は目を泳がせ、躊躇っていたが、やがて言う決心を
したかのように私を見た。
「あのね…お父さんやお母さんから…聞いてない、かな?
その…千佐都さんが…ストレガじゃないって…」
「……………えっ?」
意味が分からなかった、信じられなかった、先生が言った
その一言が。両親からそんなこと、聞いたことがなかった。
人間とストレガの“クォーター”だということは教わっていたが、
ストレガとして育てられていたし、間違いなく“人間”では
なかった。しかし、人間でもないのに、“ストレガでもない”?
どういうことなの?
その日、家に帰ってから両親に訊いた。
「お父様、お母様…わ、私…人間ではないけれど、
ストレガでもないのですか…?」
「……誰から聞いた?…先生か?」
お父様の問いに、
「…ええ、そうです…」と答えた。
「そうか…大人になるまで、千佐都には教えないつもり
だったんだが……そうだ、お前は人間でもストレガでも
ない、もう…“クォーターでもない”が…でも、これは
千佐都の為だったんだぞ?」
「“クォーターでもない”…?ど、どういうことですか?」
と、恐る恐る訊いてみた。そこで明かされた真実。それに対して
お父様はいつも、「これは千佐都の為だったんだぞ」と言う。
でも違う…そんなの違うわ…!魔玉を嵌め込まれなかったら、
私は人間として生きられたかもしれない…魔玉に支配され、
上手く操れない魔法なんて使わないで…もっと楽に…
もっと楽しく生きられたかもしれないのに…!!
それからは、お父様に魔法が上手く使えるようになるまで、
ずっと魔法訓練を受けていたわ。だから今は、それなりに
魔法は使えるの…。でも、人間でもストレガでもないって
教わってから、お父様はとても厳しくなった…。「何故
出来ない?お前はストレガだ、出来ない筈はないぞ!」
それが口癖のようになった。お父様が“ストレガでもない”って
仰ったのに…。
そして、中学に入ってからは、親友と呼べる人に出会ったわ。
その子は私の気持ちに寄り添って、いつも支えてくれていた。
魔法が上手く使えなくても、馬鹿にしないで最後まで一緒に
乗り越えてくれた…。
だから、2年生になってから、私はその子に
「私、本当は人間でもストレガでもないの…黙っていて
ごめんなさい…」と言ったわ。彼女ならきっと解ってくれると
思っていたわ、誰よりも信用していたし、信用出来る
だけの関わりがあった…その時までは。
それから、魔玉のことも話して…それを聞いた彼女は
私に、こう言ったわ。
「今まで騙してたの…?魔法が使えない理由、それだったんだ?
…千佐都、人間でもストレガでもないんでしょ?じゃあ、
……“化け物”だね?」
それから、そのことがクラス中に広まった挙句、私は
孤独になった。友達は誰もいなくなり、
人を信用することが怖くなった。
でも私は、そのことを今でも後悔はしていないわ。“私は”
何も間違っていない、間違えたのは…。
☆ ☆ ☆
「とりあえず、[瞬間移動]は問題なし、ですか?」
「ええ、大丈夫よ」と彼の耳元で囁いた。
短距離を瞬間移動して見せて。
「…っ!!」
すると、彼の体がビクッとした。ふふっ、か〜わいい♪
ちょっと、からかいすぎたかしら?
「せ、先輩!本当にやる気あるんですか?」
「遙樹をからかわないで…」遥花ちゃんが、ちょっと
困った顔してるわね。可愛い♪…けど、ここまでにして
おきましょうか。
「ごめんさいね…真面目にするわ♪」
「…じゃあ、タイミングですかね?一度、
やってみてください」
「分かったわ」
瞬間移動して、目的地に着く前に必殺技の準備をするが…
必殺技の魔法陣から魔力が漏れ出る。
「きゃ!危ない、離れて!!」
私は2人に漏れた魔力が届かないように、離れるように言った。
魔力がビリビリと電気が走っているかの如く私の周囲を覆い、
私自身の体も痺れる。
さっきはただ、必殺技の魔法が発動しなかっただけだったのに…
やはり魔力が安定しないわね…どうしてかしら?
“何か理由がある”筈よ…。
こういう現象は何度か体験している為か、もう倒れることは
殆どなくなった。
「ごめんなさい…これじゃ2人に迷惑をかけてしまうわね…」
「大丈夫です!先輩だけが苦しむ必要なんてないんです」
…遙樹君は、凄く優しい子ね…女の子にモテそうね〜♪
そんなこと言われたらときめいちゃうぞ☆…なんてね!
「そう言ってくれるのは嬉しいけれど…」
「はい、もう一度!!」と遙樹君に催促されて、
もう一度…2回、3回…とやってみたわ。
日が沈む頃に、やっと出来たの。
タイミングと“気持ちの安定”が大事だったのかしら?
なんとなくそんな気がする♪
「ごめんなさいね…こんな時間まで付き合わせてしまって…
お詫びは“また会った時”にでもするわね」
「俺は全然、大丈夫ですよ!…じゃあ、その時を
期待してますね?」
「私も大丈夫…また会おう…」
遥花ちゃんのその言葉で解散して、帰宅したわ。
彼らには、また会う機会があると確信があるの。
確証はないけれど。今度会ったら、どんなお詫びを
しようかしら?ふふっ、楽しみだわ♪
……でもそれが“楽しいこと”だといいけれど、
それも確証はないわね…。
Side Story 〜千佐都〜 [完]