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第2話 努力の日々

【第1章】第2話 努力の日々


どこからか声が聞こえる…暗闇の中、叫ぶ声が…

“何度目か”の“彼女”の声がーー

何度か会っている気がするのに、名前も顔も思い出す

ことが出来ない…。彼女は一体何者なんだ!?


「酷い苦しみから開放された時、

それを人は幸せと呼ぶ、違う?苦しみの上に

幸せは成り立つもの、そう信じてる。

そうであるべきだと私は信じてる!!

“苦しみの上にしか”幸せは成り立ってはいけない…

だから、私だって…っ」台詞の最後で、

初めて感情を露わにしたように涙声で語った。



「そして、幸せは誰かの不幸や犠牲の上で成り

立っていると言うことを絶対に忘れてはいけない!」

いつも通りあまり抑揚のない声で喋っていたが、

珍しく声を荒らげだした“彼女”の声…

これもまた夢なのか?彼女に何があったのか…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「わっ!すげぇ!!俺にも使えたぞ!瞬殺が!!うわあああ!!

すげぇ!なぁ!?なぁ!?」


入学してすぐにクラス内で自己紹介をしたが、

互いに教え合うのだ、もう一度自己紹介をしておこう。

名前は覚えていてくれたようだが…。


「改めて自己紹介しておこう。俺は河瀬遙樹、人間だ。

中学の時は“破壊王”と呼ばれていたが、遙樹と呼んで

くれ。まだストレガのことを把握しきれていないが、

よろしく頼む」

「うん、よろしく。私は照山遥花…ニックネームは

無い…遥花でいい…」

「今までは“遥花”と呼ばれていたのか?」

(ほとん)ど呼ばれたことない…呼ばれるとしても

“照山さん”…」

「…?友達にもそう呼ばれていたのか?」

思ったことを口に出してしまい、そこでしまった…と

思った。彼女の事情を知らないし、殆ど話したことも

ないのに…。詮索するのは()そう。


「ああ、今のは忘れてくれ。土足で踏み込むような

真似(まね)をしてすまない…」

「大丈夫…」

でも、やはり彼女の過去が少々気になるな…。もう少し

仲が深まれば、聞いてみてもいいだろうか。

「三度目の自己紹介…」

そう、彼女は呟いた。

「三度目?どういうことだ?」

「やっぱり…遙樹は覚えてない…?」

不思議そうに首を傾げるが、不思議に思っているのは

俺の方なのだ。どうなっている?

「クラスでの自己紹介からさっきまでの間に私に

自己紹介したのに…」

もちろん、俺はその間に自己紹介をした覚えはない。

何故、俺と遥花の記憶が違うのだ?


…と考えていると、阿佐野輝が独り言なのか

誰かに話しかけてるのか、騒ぎ始めた…と思ったら

「今度は…うぉぉおおお!?治癒!治癒が使えたぞ!

あのセンセ教え方うめぇな!天才かよ!?よし、これで

オレは家に帰ることができる!!みんな、じゃあな!」嵐の

ように去っていった。なんなんだアイツ…子供のように

はしゃいでいたな…。関わると面倒くさそうだ。やはり

これからも“出来るだけ”関わらないようにしよう。

「あの人、うるさい…」

俺も遥花と同感だ。流石にあれはうるさい…。

騒ぎに来たのか?と思う程だ。


「遥花は小・中も魔法の勉強をしていたんだろ?」

それにしてもストレガにとって魔法関係の授業は小・中

必修科目だったはずだ。特に簡易治癒は習っていても

おかしくはないだろう…今まで阿佐野は何をしていたんだ…?

人間にとっては難しくとも、ストレガならこれくらい

簡単なはず…。いや、待てよ?遥花は何故あそこまで

出来ないんだ?


「………学校、通ってなかった…」

少しの沈黙の後、そう答えた。

俺はそう帰ってくるとは思わず、絶句した。

学校に通っていなかった…?


まぁ、さっきの話から、そう考えるべきか…。

「そう…か、さっきから重ね重ね、すまないな」

残りのメンバーも含め、阿佐野には出来たのに…。

それを言えば他の奴らも、だ。


改めて残りのメンバーも見てみる。女子は遥香を除けば

2人の筈だ。2人に共通するものはあるか?

1人目はリボンの色からして3年生、ロングヘアで

おっとりした美人系の顔立ち。1つ、右目を前髪で

隠しているのが気になる。

「もう1人は…」ん?いない…もう帰ったのか?


ではこの先輩が何故出来ないのか、そして遥花も。

俺が出来ない理由は人間だから、だが…?


しかしこの2人が人間である可能性は低いと思う。

万が一、人間ならば、隠し通す理由でもあるのか?

隠して得することなどないだろうに…。せいぜい

人間だ、人間だと馬鹿にされないくらいだろう?

それに生徒個票を偽ってまですることだろうか?


そして遥花においては“俺の知らない記憶”を

持っている…と。

これよりやはり人間である可能性は低いように感じ

られる。ただし、確証は持てないが。


「遙樹…?」

阿佐野は、もしかするとストレガと人間のハーフ

ということも考えられる。俺はストレガ

ではないため、魔力を感じることが出来ない。故に

それが事実なのか見極める術がないのだが、ハーフは

ストレガに劣る魔力だと聞く。だから出来なかった

のか、あるいは…ただの馬鹿。物覚えが極端に悪い…?


まぁ、そんなわけないか…馬鹿っぽいが、アイツのことはあまり知らないしな…。流石にそんなことはない

だろう…。判断出来ん。


「遙樹!」

気がつくと遥花がじぃっとこちらを見ていた。俺が

黙ったままずっと考え事をしていたからか、遥花が

心配そうにしている。

「ずっとボーっとしてる、大丈夫?どこか痛い?

具合悪い?それとも“故障”!?」と訊いてくる。

故障ってなんだ、故障って!!

彼女は冗談を言っているわけではなさそうだ。

顔が本気そうだから…天然なのか?


それが余計におかしくて、声を出して笑ってしまった。

「はははっ、遥花、面白いな、お前」

「!?熱…?病気!?保健室、行く!?」

どうやら1人でパニックになっているようだ。

こちらの声が聞こえているのかも分からない。

しかし、無口なイメージだった彼女が、

こんなに慌てているのを見る日が来るとは…。

なんだか嬉しい気分になるな。

「いや、俺は大丈夫だ、心配をかけたのなら

すまない…それで…」

「そう、よかった…」俺の言葉を遮り、遥花は

安心したようにそう言った。

「改めて魔法の練習をするぞ」

「うん…練習、する」

「じゃあ、治癒の方から頼む」

「うん、治癒は…」


練習するために自ら、腕に傷をつけた。俺の場合は2cm

とまではいかなかったが、ナイフを使って傷をつけた。

普通に痛い…。ストレガは魔法で傷をつけていた。痛く

ないのだろうか?どんな感覚なんだろうな…。

「何が駄目なのか把握する…やってみて」


やり方は腕に2cm程度できた傷なら、指をその傷口に

触れない程度の距離で止めると、小さな魔法陣の枠が

浮かび上がる。そこに脳内で魔法陣を描くと、

“描いた通り”に魔法陣の内部まで描かれる。しかし、

傷は癒えないままだ。まだ痛い。


「……?ちょっと違う…?」

「どういうことだ?」

「色…」

「色?」

「治癒の魔法陣は緑色、それぞれ魔法陣の色で大体、

何系統か分かる。とても便利」

「俺のは…黒だが?」

「黒?これは白…」

「白?これが?」

これはどう見ても黒だが…?と、俺が疑問に思っていると何かを思い出したように声を上げた。

「あ!思い出した…前に見た本に書いてあった。人間は

魔力が見えないから、魔法陣の色は全て黒に見える」


だとすれば、やはり魔力が見えないと不便だな…つまり

俺は、戦う際に何系統の魔法を相手が使ってくるのか

察知することが出来ない、ということだろう。

「上級者になると魔法陣が見える時間は、ほんの一瞬。

だから色で判断するといい」

何故、色で判断するのかと言うと、魔法陣の内部は複雑

だから、だろう。色なら一瞬でも見抜ける。まぁ、それ

も初心者には容易くないのだが…。


「ならば、白は何系統だ?」

隠蔽(いんぺい)とか…でも、それとも違う…?」

「どういうことだ?」

「白だけど魔法陣が安定してない…消えそう…。

多分、失敗ってこと…どこか間違ってる…」

確かに俺の目にも魔法陣が揺らめきながら、

消えかかっているのが見える。


「あ…ここ、違う…術式が間違ってる」

やはり、魔法陣は隅々までしっかりと覚えていないと

脳内で描くことすら出来ない。それに、しっかりと

覚えていれば、瞬時に魔法行使が出来る。

何故、上級者の魔法陣が一瞬しか見えないのか、

それは、全ての魔法陣が脳内にインプットされているの

だろう。だから思い出したり、考えたりする時間が必要

ないため、隙も少ないということだ。


「ここが魔力の入口…ここが1番しっかりしてないと

魔法が使えない…」

魔法陣には魔力の入口というものがあるそうだ。

魔法によって場所が違うらしい。

そういえば、術式自体、多少違えど魔法行使は可能

だが、不完全で本来の力に劣ると書物に書いてあったな…。


「お手本、見せるね…」

何故、治癒が出来ないのか、分かった…。脳内で描いた

魔法陣が僅かに(たが)えていたらしい。

遥花に手本を見せてもらった後、指摘されたところを

意識しながら、もう一度、魔法陣を描く。

「お!上手くいったぞ!!」


ちなみに、腕を穿(うが)つ程の傷だとその傷口から少し

離れた距離に指で傷口よりやや大きいくらいの円を

描く。その後は先程と同様だ、とこれもまた書物に

書いてあった。

また、魔法陣を描く時、指ではなく、魔法の杖などで

描く人もいるらしい。その理由は分からないが、

それには魔力でもこもっているのか?


「出来た!!今度は遙樹が教える番!」

俺が治癒魔法を成功させたためか、彼女の表情がいつもより

柔らかい。そんなに嬉しいのか?俺のことなのにな…。


闘技場の倉庫にあった魔法人形を使い、それを相手役にし、練習を始めることにした。

「ああ、瞬殺は…」

遥花も知っての通り、瞬殺は戦初めの一瞬で殺す技として主に

使われているようだ。しかし、隙を突いて途中で行使する人が

いたりと、例外はある。瞬間移動と任意の必殺技を組み合わせて行使する場合が多いと聞く。

「じゃあ、とりあえず、瞬間移動を行使してみてくれ」

「うん、分かった…」


瞬間移動と言っても、初心者のそれは相手に移動して

いる姿が見えているのだが…。しかし、練度が上がると

移動する姿が一切見えなくなると聞く。故に1発で

仕留めることも可能だと。しかし、失敗した場合、

魔力消費が激しい。何故なら、ほぼ同時に魔力を行使

するからだ。どういうことかと言うと、同時に2つ以上

の魔法を行使すると、普段の2倍以上魔力を消費して

しまう、と授業で教わった。つまり、これは一種の賭けだ。


「これでいい?」

「ああ、瞬間移動は問題なし、か。必殺技は大丈夫

だろうから…」

彼女の瞬間移動は初心者レベルではないようだ。

瞬間移動は少し特殊な魔法のようで、目的地にほぼ全て

の意識を集中させなければ、全く違う所へ移動して

しまうらしい。

「ということは…」

ただの推測だが、何故、瞬殺が出来ないのかと言うと、

恐らく単にタイミングが合っていないのだろう。また、

不器用な人は同時に魔法行使をすることが容易くないと

聞く。彼女の場合はどちらだろうか。

「じゃあ、瞬殺を行使してみてくれ」


1度目は瞬間移動の後に必殺技の準備をして…。

戦闘なら…彼女は死んでいるだろうな…。

「こう…移動しきる前に必殺技の準備を、だな…」

2度目は移動しきる前に必殺技の準備をしたのはいいが、瞬間移動の魔法が切れてしまい、射程距離に

届かなかった…。


「…?出来ない…もう一度!」

3度、4度と繰り返し…11回目でやっと出来た…。

彼女の出来ない原因は両方かもしれない。タイミングが

合わないし、凄く不器用なようだ。

器用な人は例えタイミングが合わなくても、すぐに合わ

せられるようになるだろうからな…。

これで本当に遥花はストレガなのか?


「ありがとう、遙樹。最後まで付き合わせて、ごめんね」

「大丈夫だ、“友達”だろ?」

「友達…?初めて…」

僅かに彼女の目が輝いている気がする。初めて、か…。

彼女の過去には、やはり何かあるように感じられる。

「…そうか?じゃあ、帰るか…」


「待ってくださる?(わたくし)、まだ瞬殺が出来ませんの。もしお時間があれば、教えてくださらない?」

そう、声をかけてきたのは、前髪で覆っている“右目が

気になる”あの先輩だった。とても上品な雰囲気だ。

彼女はまだ帰っていなかったようだ。

それにしても、彼女は3年だ。瞬殺が出来ないとは、

どういうことだ?まぁ、いいか…。


「いいですよ…いいな?遥花」

小声で遥花に同意を求めた。

「うん、問題ない…」

遥花とは魔法の教え合いで随分と距離が縮まった…

気がするな…。


「私、舞鶴千佐都と申します。あなた方は?」

「俺は河瀬遙樹です」

「私は照山遥花…」

「そう、よろしくお願いするわね」

彼女の喋り方が少し柔らかくなったように感じる。そして表情も柔らかくなった。残念だが、俺には“女性と話すスキル”が備わっていない。遥花は例外のようだが?それに、中・高と部活もしていないため、先輩というものに慣れていないため、実は緊張していたのだ。少々恥ずかしいな…。


「教えるのはいいんですけど、一つ、先輩にお尋ねしたいことがあります…」

「ええ、何かしら?」

「先輩の右目、何故隠してるんです?」

「目が悪くなる…」

正論だが、遥花、先輩にもタメ口とは…。

そんなところも嫌いじゃないが。


「やはり、“この目”は“人間の目”を惹いてしまうね

………分かったわ、私の“秘密”を教えてあげる…

その代わり、魔法はちゃんと教えてね…?」

“秘密”…?訊いてしまってよかったのだろうか?

今更、そんなことを考えている。

でも、何故かその目が気になって仕方がなかった…

普段の俺なら、わざわざこんなこと訊かないのにな…。


そして彼女は言った、“穏やかに”…。


「私ね、ストレガでも、人間でもないの…」


☆ ☆ ☆


あれから少しの月日が経った。

俺は今、学院図書館にいる。1人で来る予定だったが、

遥花が「私も行く…」と言ったので、結局2人で来た。


「何か調べる?」

「ああ、この学校に来た本来の目的を果たすために、な…」

「本来の目的…?何か手伝うことはある?」

自分は用がないのに友達のために来て、手伝いまで

しようとは…可愛いものだ。

人に頼るのはあまり好きではないが、彼女がそういうのなら…

「…じゃあ、魔法書を幾つか持ってきてくれるか?」

「分かった…待ってて」


これから、“学校の力”なしでも人間が魔法行使が

出来るということを証明するために、魔法に関する

書物を読み漁ろうと思う。つまり、砂場に魔法陣を

描く方法以外で、魔法行使が出来るようになる方法を

研究しようと思っているということだ。

「持ってきた、気に入ってくれると嬉しい…」

「ああ、助かる、ありがとな」


まずは気になっていたことから調べてみよう。

学院に入ってから知ったため、自ら行った事前調査では調べて

いなかったことだった。

それは、何故、“真剣試合”は敵同士を殺し合うのか、と

言うものだ。

説明では“殺しても良い”と聞かされたが、

相手が本気で殺ってくるかどうかも分からないのに、

中途半端な気持ちで挑む奴はいないだろう。


「遥花は…真剣試合、出るつもりなのか?」

「…出たい?パートナー探し?」

「いや、そのつもりではないが…まぁ、出ることで

証明の第一歩にはなるだろうな…」


「…(たま)に声が聞こえる…頭の中から…“敵は殺せ”

って…敵が何か、分からないけど…」


「声…?」

「同じ声が真剣試合に出ろって言う…」

脳内で声が聞こえる…?自分以外の声か…?

遥花はまた、おかしなことを言う…。


ー続くー

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