第1話 全ての始まり
第1部【第1章】第1話 全ての始まり
きっと、俺は夢を見ているのだろう、
扉を開けたらそこは地獄のようだった…。
何度も夢で見た“彼女”との戦い…
そこに終わりはあるのだろうか?
あと何回“終わり”を迎えれば救われるのだろうか、
誰かも知らない“彼女”は…
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あの人、魔力が感じられないわ。人間ね」と
女子生徒の声が聞こえた。
今、“魔法学院”に属するプリュ・フォール学院に
来ている。なぜなら入学式があるからだ。
“魔法学院”とは魔法使い(ストレガ)のみが通う学校だ。
入学式は体育館で行われるが、その前に闘技場に集合
しなければならなかった。
正門を抜けてすぐの所にある掲示板で、河瀬遙樹の名前と
クラスを確認し、集合場所へと急ぐ…が、
正門を抜けたあたりから俺の周りの奴らが騒ぐ。
「アイツ、魔力が感じられないぞ…人間だな」
「また遊び半分で来た奴だろ」と。
そう、俺はストレガではない。ストレガと
人間のハーフでもない、魔力を持たないただの
人間だ。騒がれるのは仕方がないと思う。
しかし、そこまで珍しくはない筈だが?
「もう誰も“人間”は通ってないのにな、馬鹿な奴だ。
人間なんかがまともに魔法を使えるわけないだろ」
「だよな。もう人間が通ってないって情報、人間たちまで
渡ってないんじゃね?」
ここは“魔法学院”だが、この学校は筆記が9割、
実技が1割だ。基準として“合計で8割”であれば、
ストレガでなくとも入学することが出来ると聞く。
かなりレベルの高い学校だが、“人間も通っていた”と言う
情報は、俺にも渡っているが?それがどうした?
「“学校の力”だけじゃ無理、無理」
「酷い奴なんて中間考査の後に辞めたし?」
本当に遊び半分で来るものじゃない。人間も魔法が使える
ように学校に仕掛けがあると聞いているが、それが上手く
使えないと周りについていけなくなるだろうからな。半端な気持ちで来るから続かないんだ。
「それに俺たちと違って小・中は普通の人間の学校だったんだろ?身の程を弁えろよ、人間」
ストレガにとって魔法関係の授業は小中必修科目だった
らしい。だが、人間だろうがストレガだろうが関係ない。
誰が何と言おうと、俺は今日からこの学校に通う高校生だ。
志望理由は、人間でも魔法が使えることを証明したい
から、だ。
人間の生徒が皆辞めたと言うのに、何を言っているんだ、と思われるだろうが、詳細に言うと“学校の力”なしで魔法
行使が出来るということを証明したい、なのだ。
俺は、その証明が出来るまで学校を辞めるつもりはない。
そして、誰よりも強くなりたい。人間もストレガに負けぬ程に強いと、人間でも魔法行使が出来ると証明する為に!
「それでは入学式前に少しお話させていただくわね」
集合場所である闘技場に着くと教師による話しがあった。
「後で軽く自己紹介があるけど、私は1年5組の担任、中村
明日美よ。知っている生徒もいると思うけど、ちゃんと
説明しておくわね。
まず、1ヶ月後に中間考査があるわ。その試験で筆記・実技それぞれ、合格点未満だったものは、補習を受けなければならないの。そこで確実に知識と個人スキルを磨いておくことが大切よ。なぜなら、学期末考査があるから。学期末考査では1対1で模擬戦をするの。これは勝ち負けには関係なく評価されるわ。
また、各学期末にある学校行事の“真剣試合”は、トーナ
メント方式で2人1組で戦ってもらうわ。ルールとして、
パートナーについては、クラス・性別・強さなどは問わないわ。
そして最後に“最も重要”なのが、“真剣”と言うだけに
“殺しても構わない”って言う決まりよ。…まぁ、程々にね!
あ、あと、真剣試合は学校行事だけれど、“全員強制参加”
じゃないから、安心していいわよ♪」
事の重要性に比べ、軽い口調だが大丈夫なのだろうか。
まぁ、ストレガなら簡単に死ぬことはないだろうから、
あまり心配は要らないのかもしれないが…。例え死んだとしても、蘇生させることが出来ると聞く、
“ストレガならば”…。
人間は魔法が使えるようになっても、
生命は1つしかないのに対し、ストレガは、人によるが、
平均として生命を3つ持っているそうだ。
そのため蘇生が可能という訳だ。つまり、俺は戦いに
おいて不利なのだ。
説明が終わり、闘技場から一斉に生徒が出ていく。
「おい、お前は真剣試合に出るか?」
「馬鹿、あんな狂った試合、出るわけねぇだろ?」
ちなみに生命の数は、生まれた時、病院で
告げられるらしい。稀にストレガでも生命を
1つしか持っていない人もいるようだ。
「お前は沢山持ってるだろ?生命。1回くらい試合に出て
みろよ?」
「じゃあ、お前が出てみろよ!そしたら考えるわ」
改めて、闘技場を見回したところ、魔法陣だらけ
だった。これが“学校の力”と言うやつだろう。
その魔方陣は人間のみに働く、魔力を宿す魔法らしい。
“闘技場でのみ、魔法が使える”ということになる。
闘技場外では、別の方法があるようだが、欠点が多い…。
その“別の方法”とは、地面…“砂場のみ”に、棒で
魔法陣を描く、というものすごく地味なものだ。
描く棒自体に仕掛けがあるわけではないため、
その棒は木の枝で構わない。しかし、この方法は
場所が限定されているし、効果も弱く、使用可能時間も
短い。おまけに格好が悪い。ふざけてるだろ…。
「人間は流石に出ないだろうな!馬鹿じゃなきゃ」
「そう決めつけるなよ、出るかもしれないだろ?」
さっきから嗤い声がうるさいが、
魔法が使えるようになる“他の方法”を研究しようと思って、この学校に来たのだ、嗤い声など気にしてられぬ。
☆ ☆ ☆
あれから1ヶ月後、中間考査が終わった。
勉強は得意な方だし、覚えるのも得意な方だから、新しく
魔法用語を覚えるのも、そこまで苦にはならなかった、と
言いたいが…魔法書でひたすら勉強した。おかげで筆記は
何とかなった。
しかし、問題なのは実技。練習したが、上手く魔力を操れなかった。つまり、補習決定だ。まぁ、そのつもりだったため、特に気にしないが。
「補習を受ける人はここに集まって〜」
補習担任教師はもう来ていたようだ。
補習会場は、もちろん闘技場。俺だけなのかと思っていたが、そこには何人か人がいた。
女子生徒が3人、男子生徒が俺も含め、2人。
女子生徒の中の1人は学年1位だと噂されている
同じクラスの照山遥花だった。“学力”の成績トップの彼女がここにいるのは少し意外だ。
同じクラスだが、“まだ話したことはない”。
あと1人、気になる奴がいる。さっきから1人で騒いでいる。独り言を言ったり、先輩に話しかけたりと、忙しい奴だ。
確かコイツは隣のクラスの阿佐野 輝。
とりあえず、“関わりたくはない”な…。
「みんな集まったかしら?……みんないるわね!それじゃ、始めましょうか」
教師のその声で補習が始まった。
戦の基本として使われているらしい“瞬殺”と簡単な“治癒”についてだった。“瞬殺”とはスタート直後によく
使われるようだ。瞬間移動と必殺技を使う場合が多い
らしい。練度を上げるほど命中率は上がり、1発で仕留めることが出来るようにもなると聞く。しかし、失敗すると
魔力消費が激しい為、形勢不利になることもあると
教わっていた。
「それじゃ、それぞれの課題を確認していくわね!」
と、教師が言い、一人ひとり確認していく。
俺自身、運動神経は良い方だと思うが、集中力が少し
欠けていることを考えると、長期戦になるほど、
不利になる。その為、練度の高い“瞬殺”が使えれば戦いも
楽になるだろう。しかし、
「1年5組の河瀬遙樹君は簡易治癒の方ね!」
教師に言われた通り、とりあえず瞬殺は出来るのだ。
問題は治癒だ。その簡易治癒については腕に2cm程の傷が
できた場合に直せる程度のものだった。俺は、作ることや
直すことが得意ではない。壊す方が得意だ。力加減を
間違えて物を壊すことも珍しくない。だから、もちろん
“治癒”は、得意分野ではない。
「確認も済んだし、個別に指導していくわ。でも先生は部活もあって忙しいから、それでも分からなかった人は、
残りのメンバーで協力して頑張ってね!」
個別指導と言ったが、一度手本を見せる程度のものだった。
教師の前で簡易治癒の魔法陣を展開したが、
やはり、発動しなかった…。
…指導を受けてもどうにもならん!何故だ?俺が破壊王と
まで呼ばれた男だからなのか!?そんな訳…俺にだって
出来るだろ!!
「治癒、苦手?教える?」聞き覚えのない女声に
振り向くと、その声の主は照山遥花だった。
彼女は端整だが、感情が読み取れない顔つきの、
ふわっとしたショートヘア。休み時間など、
いつも本を読んでいて、単独行動を好むようだ。
そのため、少々驚いた。まさか彼女の方から声をかけて
くるとは、な…。
俺が突然のことで戸惑っていると、彼女は
「…問題ない?」と訊いた。
「あ、いや、治癒魔法、出来るのか?」と俺が
訊き返せば、「治癒魔法は得意」と答えた。
ということは、“瞬殺”が出来なくてここにいるのか。
「それで、治癒…」
「あ、あぁ、出来なくて困ってたんだ、教えて
くれると助かる」と、彼女の言葉を遮って答えた。
「河瀬遙樹は“瞬殺”出来る?」
同級生にフルネームで呼ばれたのは初めてだな。
まぁ慣れていない相手の呼び方には困る、よな…?
「遙樹、でいいよ。俺は“破壊王”って呼ばれてたくらい
だから、壊すのは得意なんだ」…なんて冗談めかして
笑ってみたら、
「ふふっ、そうなんだ。分かった、お願いします」
と言って、少しだけ笑ってくれた。
「笑ったところ初めて見た…」
俺が無意識のうちに零していた言葉に、彼女は
「前、遙樹が沢山笑わせてくれたから…」と、
“過去に2人の間で何かあった”かのようなことを言った。
“今まで話したことはない”し、笑われるようなことはして
いない筈だし、笑ったところなんて初めて見る筈なのに…。
…どういうことだ?
ー続くー