【農業国家アドモン編】第4話「小人族・リオ」
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16日、17日の19時に更新します!
馬車を走らせ、しばらくすると街が見える。
リュウが唯一知るフロンティアの寂れた町とは違い、その街のは確かな賑わいがあった。
もちろんリュウと同じように人の姿は一つもない。
このアドモンの中心的な種族は小人族である。
勤勉で温厚な種族である彼らは、このアドモンで野菜や穀物を国をあげて育て、その他にも酪農をなどといった世界の食材のおおよそ30%を生産する、イルソーレの重要な種族の一つなのだ。
そんな小人族はかなり投身が小さく、体い比べて顔が大きいことが特徴的で、限りなく人間に近い容姿をしている。
「あれが小人族か?」
「たぶん……私も見たことがないですけど、特徴は一致してます」
馬車の中から遠目で小人族を見ながら、メリノとリュウは話していた。
今は街の入り口付近で馬車を止めており、ここからどうするかを話し合っている。
異人種から追われている天羊族のメリノたちと、この世界にとって畏怖の存在である異人種と同じ見た目をしているリュウ。一目をなるべく避ける必要のある一行は慎重な行動をしなければいけないのだ。
そのため頭から布を被ってフードの代わりとして、正体は隠していた。
「この街はフロンティアから一番近いところにあります。だからここで宿を探すのは危険だと思います」
「まぁ妥当な考えだ。あいつらが追っているだろうから、ここにいるのは危険だわな」
「はい! だからこの街で食べ物とか必要なものを揃えて、すぐに出発したいです……その、リュウさんのお金をお借りすることになってしまって……」
メリノは申し訳なさそうに顔をしかめると、リュウは彼女から視線を外した。
「……だからまずはてめぇらのことだけ考えろ。ただ無駄遣いはすんじゃねぇぞ。この先、どれだけ金が手に入るか分からねぇからな」
「は、はい……その、ありがとうございます」
リュウがフロンティアにて狩猟にて得たお金と、馬車にあったお金を合わせて20万ソルが彼らの手元にある。
節約すれば6人でもしばらくの間は生活できるほどのお金だが、国によって物価というものは変わる。
フロンティアのような貧しい国ならば物価は安いが、アドモンのような比較的栄えた国では、雲泥の差がある。
「サヴォークは馬車に残ってて貰える?」
「うん! ぼくだけでいいの?」
「うん、どっちしろ誰かが見張りしないといけないからね」
「あ、そうだよね」
メリノがサヴォークにそうお願いすると、サヴォークは快諾した。
「心配しなくて良いぞ! 何かあれば1号と2号が倒してくれるぞ!」
「……チャオおねえちゃん、もっとかっこいい名前付けてあげようよ」
サヴォークはチャオビットの名付けに対して、白い目をするのであった。
「私とアイスは食材とかを買いに行きます。リュウさんはチャオビットとシャロリーの護衛をお願いします!」
「あぁ」
「チャオとシャロは旅に必要なものを買う」
「はいはーい!」
リュウは静かに頷き、シャロリーが目一杯の元気な声と笑顔で頷いた。
――そこから二組に分かれて街の中を散策する。
しかし問題が一つ……
「そそそそそ、それじゃあ行くぞぉ~、しししししシャロリー……」
「チャオおねえちゃん、どーしてお顔がまっさおなの?」
「はははっは、何を言ってるのかわからないぞー」
問題とは、リュウに対して全力で緊張しているチャオビットであった。
もはや視線に入れることさえ出来ない始末である。
ここまで何とか会話ができていたのは、あくまでメリノやアイスの姉二人が間に入っていたからだ。
二人が居ない時、チャオビットはリュウに対して恐怖心が勝った。
より端的にいえば、ビビっているのである。
「……俺のことは気にするな。シャロリーを相手にしていれば問題ねぇだろ」
「っっっ!!!」
リュウの不器用な気遣いにも、ピクリと反応してしまう。
……前途多難である。
――仔羊たちは天羊族の角を隠すために、頭から布を被っていた。
角以外は人間の姿に限りなく近いものの、しかし天羊族として認識される方が危険がある。
幸い子供達は子供で、この世界の半人種には限りなく人間に近い容姿の者たちも数多くいる。
そもそも人間たちは自分たちの存在を隠すことはしないため、彼女たちが異人種であると勘違いされることはまずなかった。
……理由は別なものの、リュウも人間であると知られるわけにはいかないため、マントを頭から被って二人の後ろを歩いた。
「やっぱり毛布とかはいるぞ。あとは色々ものをいれたいから袋とか鞄とか……」
「チォオおねぇちゃん、このもーふ、かわいいよ!」
シャロリーは布生地が売っている商店まで走って、店頭に置かれている毛布にくるまっていた。
桃色に染められ、花柄の刺繍が施されている毛布は、シャロリーにとてもよく似合っている。
リュウとチャオビットに見せつけるようにしているが、その軽率な行動にチャオビットを焦りの表情になった。
「こ、こらシャロ! 勝手に触っちゃ駄目だぞ!」
チャオビットはすぐにシャロリーから毛布を引き剥がそうとした。
するとその時、商店の中から小さな人影が彼らに近付いた。
「気にしなくてもいいですぞ、ほほほ」
――チャオビットよりも小さな身長と、それ見合わない頭の大きい。顔には皺が入っており、明らかに年齢は子供達よりも上だ。
アドモンの中心種族、小人族である。
白い髭の生えた、瞳を細めて笑顔を浮かべた小人は、シャロリーにゆっくり近付いて、その姿を見て微笑む。
背はシャロリーよりも少しばかり高い程度で、チャオビットよりも小さい。
「えっと……その、うちの妹がご迷惑を」
「かしこまらなくてもいいよぉ。わしの孫娘もお転婆でな、放っておいたら部屋がめちゃくちゃよ」
「――悪いな。ちょっとばかり、毛布を買わせてもらいたいんだが……いくらする?」
チャオビットが絶賛人見知りをしてアワアワとしていたものだがら、リュウは彼女の後ろからひょっと現れ、小人に話しかけた。
「おっと、お客さんだったかい。ほほほ、そいつは50ソルさ」
「……チャオビット」
リュウはチャオビットに耳打ちすると、彼女はビクリとしながらも手元にある布からお金を取り出し、小人へと渡した。
「確かに……これはおまけにつけとくよ」
すると小人は大きな毛布の他に、子供が使う程度の小さな毛布をリュウに差し出した。
「……金は払う」
「遠慮なさんな。こんな小さな子供を連れて毛布を買いに来るたぁ、旅の途中なんだろう? それにこれは売れ残りだからねぇ」
「……いいのか?」
「いいってことじゃ。それに今後もリオ商店をご贔屓にしてくだせぇっていう、媚び売りでもある」
小人は木でできた建物の、丁度軒先きにある木で出来た看板に指差してお辞儀をする。
「わしは小人族のリオっていうもんじゃ。このリオ商店を取り仕切らせてもらってる。ここは日用品しかねぇが、ワシの村ならなんでも安く高品質で揃うでな」
「そうか……俺はリュウだ」
「シャロはシャロリーだよ!」
「ち、チャオビットだぞっ!」
リュウの真似をするようにシャロリーは元気いっぱいに挨拶をして、チャオビットは若干遅れて遠慮気味に頭を下げた。
「可愛いなぁ、この子らはおまえさんの妹かい?」
「いや、そういうわけではない。……ただ、一緒に旅をしている」
「なるほどなぁ――この街はアドモンの入り口じゃなくてなぁ。なにぶん、ここに来るにはあの険しい山を越えないと駄目だから、旅の者が来ること自体珍しいんじゃよ」
リュウたちのいるこの街は、険しい山々に囲まれている。本来のアドモンの入り口は西の方角にあり、フロンティアからアドモンに入るにはあの山を越えるしかない。
「旅ならば宿がいるんじゃないかい?」
「そ、そうだぞ! ただこの街じゃなくて、もっと先でどこかに泊まりたいんだ!」
「なら、わしの村はどうじゃ? 実はわしの家は宿屋もしていての」
――思わぬところで宿を提案される。しかしリュウは少し身構えた。
なにぶん、ついさっき出会って商品を買った程度の仲だ。その関係性に対し、あまりにも好意的すぎる点を警戒した。
「まぁ、そんなに警戒しないでくれの。何もとって食おうとか、そんな野蛮な輩は小人族には一匹たりともいやせんさ――子供が好きなんじゃよ、わしは」
するとリオは、少し顔を赤くして照れながらそう言った。目を細めて笑うものだから、顔にはくしゃっと皺ができ、元より柔らかい雰囲気が一層優しげになる。
警戒を解けないリュウだが、不意にチャオビットが恐る恐るリュウの服をつかんだ。
「あ、あの人、嘘はついてないぞ」
「……それはおまえの異彩か?」
リュウが小声で聴くと、チャオビットはコクリと頷いた。
チャオビットの能力をリュウは簡単にしか知らないが、ともかく心を通じ合わせる能力を持つらしい。
そのチャオビットが断言するのだから、リュウもリオを一旦は信頼した。
「わかった。正直俺たちも宿には困ってたところだ――仕事が終わるのを待てばいいか?」
「いんや、他のもんに店番を任せるからちょっと待ってな」
するとリオは店の奥へと向かい、少しすると身支度を済ませて奥から出てきた。
――図らずも、宿を手に入れる一行であった。
◎・・・◎
食材を買いに別れたメリノ、アイスと合流する。チャオビットがメリノに事の次第を説明した。
説明を聞いて姉二人は目を見開いて驚いていたものの、しかしチャオビットの意見だから、すぐに納得した。
「 チャオビットが断言するんだから、お姉ちゃんも信じるよ。いつもありがとうね、チャオビット」
「え、えへへへ、当然だぞ!」
メリノがチャオビットの頭を撫でながら褒めると、年相応のとろけた笑顔を浮かべる。
「僕がおるすばんしてる間に、すごく話がすすみましたね」
「……時の運ってやつだ。これまで色々苦労した分、今回は少し楽ができたんだろ」
すでに馬車に戻り、留守番をしていたサヴォークとリュウは隣り合わせで馬車で腰掛けながらそんな会話をしていた。
リオは自身の馬車を取りに行っており、それを待っているのである。
「あはは、だったらぼくたちがリュウおにいちゃんと会えたのも、すごく運がよかったですね」
「……それはどうだろうな。何しろ、俺には違法、だったか。そんなもんは持ってねぇんだ」
リュウは拳を見つめながら、真実を呟く。
その拳はフロンティアで戦った異人種レイアの炎によって火傷を負っており、痛々しい傷であった。
「前回は根性でどうにかなったが、追っ手が同じようにどうにかなる保証はない――まあただで負けてやることはねぇから、そんだけは安心してろ」
リュウは拳を強く握り、サヴォークの額にコツンと当てる。
その拳をサヴォークは優しく両手で包み込んだ。
「はい!」
庇護欲を引き立てられるサヴォークの笑顔に、リュウは視線を逸らして居心地の悪そうな表情を浮かべた。
……やはり子供はやりにくいと、切に思う。
純粋な目と、嘘偽りのない言葉、自分のことを信じる笑顔。どれもこれもが慣れないものだ。
「――サヴォだけイチャイチャ、見逃さない」
「……へ?」
すると後ろから突然現れたアイスが、サヴォークの身体を軽々と持ち上げ、馬車の奥へとポイっと投げる。
そして静かにリュウの隣を奪った。
「あ、アイスおねぇちゃん! 弟のことをなんだとおもってるの!?」
「今はお邪魔虫」
「むむむ……だったらぼくだって!」
サヴォークはリュウの隣を奪い返そうとアイスの腰に腕を回し、彼女が自分にしたことと同じことをしようとするが――逆に先ほどのリプレイである。
再び馬車の奥に投げられ、しかしそれでも負けじとまた立ち上がった。
「む、サヴォ、今日は譲らないのね」
「ぼくだってもっとリュウおにぃちゃんとおはなししたいもん」
「フフ、それはまだ早い」
「早いって何が!? おはなしに早いもおそいもないよ!?」
アイスはサヴォークと相対するようにジリジリと彼に近づく。
身動きを取れないようにするため、近くにあった縄を手に持っていた。
「おいお前ら、いい加減に――」
「リュウおにいちゃんのおとなりさん、ゲットー!」
リュウが二人を止めようとした瞬間、それまでメリノたちの傍にいたシャロリーが、リュウの隣に座って引っ付く。
……まさに漁夫の利を得るとはこのことだ。
アイスとサヴォークは妹のことをパチクリと目を見開いて見ているが、当の本人はそれまでのいざこざはいざ知らずである。
リュウの隣が空いていたから、そこに乗っかっただけだ。
「……まあこれでいいか」
リュウは面倒臭いので特に突っ込まず、とりあえずシャロリーの頭に手を乗せた。
「むむ……これは難敵」
「もう、おねぇちゃん、大人気ない……あ、でもおねえちゃんは大人じゃないから、子供気ない?」
――基本、この姉妹たちは甘え上手なシャロリーには甘いのであった。
……そうしてしばらく待っていると、街の中心方向から一台の馬車がリュウたちの馬車に向かってきていた。
リュウたちの馬車よりも一回り小さな馬車で、その運転席にはリオが乗っており、手綱を引いていた。
リュウはすぐに気付いてリオの馬車に近づいた。
「待たせたのぉ」
「いや、礼を言うのはこっちだ――あと、村に向かう前に話がある。リオ、あんたの馬車に乗ってもいいか?」
「……ほほぅ、そうかい。無論構わんぞ」
リオは頷くと、仔羊たちの方を目配せした。
「挨拶は村に着いてからじゃな。日が暮れる前に出発しようかね」
……リュウは静かに頷き、メリノとチャオビットに近付いた。
リュウが接近すると途端にチャオビットはメリノの背に隠れる。
「こ、こらチャオビットっ。ごめんなさい、リュウさん」
「あ、頭ではわかってるんだぞっ! だけどやっぱり身体が勝手に……」
「……すぐに出発する。俺はリオの馬車に乗るから、こっちは頼む」
「わ、わかりました!」
メリノは少し戸惑いながらも頷くと、チャオビットを連れて自分たちの馬車に向かう。
それを確認してリュウもリオの馬車に乗り込み、そして一行は村へと向けて出発した。
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